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講 義■ Lec 011(その4)生きているということ:生命とは
掲示板■ 夏らしい夏・好奇心と倫理 


  第11講目も今回で終わりです。生物の誕生の謎に、科学者はどのように、どこまで迫っているかを、みていきましょう。


▼ 講義ファイル
Lec011_4の講義ファイル(講義時間 41:00)
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講 義■ Lec 011(その4)生きているということ:生命とは

▼ 生物の誕生
1 どうして、調べるか
 生命の定義が難しいですから、生命の誕生は置いておいて、生物の誕生を考えていきましょう。その方法を考えていくと、直接的に生物の誕生を探る方法(直説法)と、間接的に探っていく方法(間接法)があります。
 直接法とは、過去の生物の一部(化石)を探すという方法です。
 前にこの講義でも少し考えましたが、論理的には、化石から生物であったことを証明できません。しかし、運用上は、化石を昔の生物の一部であったという前提を置いて、古生物学の研究がおこなわれています。
 古生物学の手法にしたがって、古い化石を探していけば、やがて最古の生物化石にたどり着き、生命の誕生に迫っていけるはずです。
 もうひとつの間接法には、いくつかの方法があります。生物がつくった構造や物質を探す、実験室で生物をつくってみる、現在の生物を精しく調べる、などの方法で、生物の誕生を推定するという方法です。
 以下では、それぞれを見ていきましょう。

2 誕生の証拠:直接法
 化石の確実な証拠として、多くの科学者が認めているのは、西オーストラリアのマーブルバーの近くにあるノースポールという地域にあるチャートという岩石から化石が発見されました。それは、35億年前のものです。
 化学成分と形態(細胞)の特徴などから、生物の化石であるというのは、多くの研究者が認めている。
 しかし、どんなタイプの生物であるかは、まだ論争中です。
 最初の発見者は、その化石を、形やサイズからシアノバクテリアと推定しました。さらに彼はシアノバクテリアがつく特有のストロマトライト状の構造がみえることも証拠として示しました。
 シアノバクテリアとは、光合成をする生物です。光合成という仕組みは、非常に複雑で、長い時間をかけ、進化した後に得られるようなものです。ですから、この35億年前の化石は、生物の誕生の頃のものではなく、生物の誕生からだいぶ進化した生物がすでにいたことになります。
 その後の日本の研究者たちがこの地を詳細な地質調査をして、地層ができた環境を復元していきました。地質調査からは中央海嶺の熱水噴出口という場が再現されました。それは3000m以上の深い海の底ですから、光はもちろん届かない暗闇の世界です。そこでは光合成をする生物などいるはずもありません。そんなところで暮らしている生物は、古細菌(高熱性嫌気性古細菌)とよばれるものです。そして、それは現在の生物の中でも、もっとも原始的なタイプです。
 多くの研究者は、日本人の結果を支持してます。それは、やはり進化にかかる時間を考えると、シアノバクテリアではあまりに進化しすぎています。古細菌の仲間であれば、最初の生物としてもおかしくないからです。

3 誕生の証拠:間接法
 地球で最初の生物は、海で誕生したはずです。ですから、最初の海が見つかっている場所があれば、そこで化石探しをするのが一番効率的です。そんな場所があります。グリーランドのイスアというところです。イスアには、38億年前の最古の海の証拠があります。それは、地球最古の堆積岩でもあります。最古の生命活動の痕跡、あるいは化石探しは、いつもここが舞台となります。
 イスアでは、化石がどうも見つかりそうもないので、生物しかつくれない化合物で、少々の変成や変質でも変化しないような成分に着目して探されます。何度も発見の報告があり、そのたびに否定されてきました。もちろん、後のものほど、分析の能力は上がっています。
 一番最近では、燐酸塩鉱物(アパタイト)中に含まれている化学成分(炭素同位体組成)を調べて、生命活動の痕跡を発見したという報告がありました。アパタイトは、非常に頑丈な鉱物で、その中に取り込まれた成分であれば、なかなか変化を受けないはずです。その報告をみて、多くの研究者は、とうとう生物が痕跡が見つかったと思いました。
 ところが、実はその試料は、火成岩から発見されたものであることが後の報告からわかりました。火成岩とはマグマが固まった岩石です。いくらなんでも、マグマの中に生物がいたとは考えられません。現在、この説は否定されていますです。38億年前の生物は、まだ見つかっていません。

4 生命誕生:実験室にて(間接法)
 最古の化石が見つかったとしても、それは、生物が誕生した後のことになります。生物の誕生は、最古の化石よちもっと前の出来事になります。生物誕生の証拠は、化石をいくら探しても、みつかりそうもありません。
 そのために、実験室で誕生当時の状況を再現していくという方法が考えられいます。
 まず、生物誕生の素材となるのは、原始の地球の大気、海洋、大地にあったものです。そこで激しい火山活動、激しい雷、激しい干満の差など、当時の地球表面に起こっていたであろう活動を、合成の原動力と考えます。
 合成の場は、深海熱水噴出口、雷、火山、干潟など、初期地球の環境をうまくアレンジして、生命活動をするものを作れるかを、実験してみるわけです。
 現在の実験結果をまとめますと、生物の材料の合成実験は成功しています。生物の入れ物の合成実験も、簡単な合成過程で丸い液滴(コアセルベート)ができることがわかっています。どちらも、いいところまでいっています。しかし、まだ実験室では、完全な生命体はつくられていません。

5 化学的進化の時代:シナリオ
 以上のようなさまざまなアプローチを総合して、生命誕生のシナリオが考えられています。
 生物誕生には、まず生物に必要な原料の分子の合成がおこなわれます。次に、低分子の有機物の合成がおこなわれます。それが、さらに高分子の合成へとなります。一方、膜の合成もされて、やがて膜の中に、RAN(RNAワールド)か、タンパク質(プロテインワールド)ができ活動をはじめます。そして、膜の中で、RNAとタンパク質がそれぞれの活動を分担して、生物の誕生となったと考えられています。

▼ 科学者の倫理
 生物合成のような実験は、純粋に科学的な好奇心によっておこなわれています。しかし、もし本当に生物合成ができるようなったとしたら、さまざまなレベルでの問題に発展する可能性があります。
 例えば、
・その合成生物は、地球生物全体にとって脅威はないのか
・人に有害とならないのか
・人が生命の創ることに論理的根拠あるのか
・緊急事態の対象は可能なのか
・以上のような問題に対して社会的に合意が得られているのか
などなど、いろいろ解決しておかなければならないことがあります。
 もしかしたら、生物誕生の日は、そんなに遠くないかもしれませんから。


掲示板■ 夏らしい夏・好奇心と倫理  

・夏らしい夏・
7月もいよいよ終わりです。
各地で被害を起こした梅雨も終わったようです。
北海道も先日から、やっと夏らしいさわやかな快晴となりました。
朝は窓を開け放って、涼しい空気を入れれば
爽快な気分となります。
ところが、私の研究室は西向きです。
もちろん北海道のことですが、冷房などありません。
ですから午後からは、地獄のような状態になります。
西日が当たり、ブラインドを閉じても、暑い空気が充満します。
風があれば、少しはましですが、風がないと部屋から逃亡したくなります。
しかし、定期試験が終わるまではそうもいきません。
試験や成績に関する重要な個人情報があるので、
試験の答案の持ち出しや成績のデータの持ち出しはしないようにしています。
もちろん不在のときは研究室の施錠をするようにいわれていて、
それを実行しています。
ですから、午後の仕事は、できるだけ早く終わらせるのが一番なのですが、
なにしろ仕事が詰まっているのと、
採点の数、レポートの入力数が多いので、時間がかかります。
でも、息抜きも必要ですから、ほどほどにこなしていきましょう。

・好奇心と倫理・
科学者の研究の動機は、好奇心が一番ではないでしょうか。
それは、何も科学だけでなく、多くの創造的な仕事には、
そのような好奇心が伴っているはずです。
その好奇心の赴くままふるまうのは、成果が、
個人や小さいなコミュニティのレベルで留まるのあればいいのですが、
それが、多くの人、人類への
不利益や危機につながるようであれば、注意が必要です。
あるいは、その可能性があるのであれば、
あらかじめ対処していた方がいいはずです。
ヒトのゲノムや遺伝子操作に関する研究は、
文部科学省が注意を呼びかけています。
しかし、生物の合成に関する実験には、
いまのところ規制はありません。
それを規制するのは、
本当は人間のあるいは研究者の倫理であるはずです。
好奇心と倫理はあまりにもかけ離れたところにあるので、
好奇心に走っているときは、
ついつい倫理が見逃されているのではないでしょうか。
注意が必要ですね。


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