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講 義■ Lec 007(その2) はじまり:この世のはじまり
掲示板■ エサキダイオード・FD
 


 この講義では、「この世」のはじまりについて、みています。限りなく「あの世」に近いところも、科学者は知恵を使って、「この世」としてきました。そんな知恵を見ていきましょう。


▼ 講義ファイル
Lec007_2の講義ファイル(講義時間 16:08)
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ISDN用(ファイルサイズ 2.0MB)


講 義■ Lec 007(その2) はじまり:この世のはじまり

▼ 「この世」(宇宙)のはじまり
1 「はじまり」より前:特異点
 どんなものでも、変化するものにとって「はじまり」は、時間の流れで見たとき、区切りとして、終わりと共に、非常に重要で、なおかつ特異な点となります。この世の「はじまり」、つまり宇宙の「はじまり」も、特異点で、ビックバンと呼ばれています。
 宇宙の「はじまり」の瞬間は、時間が限りなくゼロに近く、無限大の密度、無限大の温度、無限大の重力、無限大の質量などいう特異点になります。このような条件は、一般相対性理論の中だけでなく、あらゆる物理法則が成り立たなくなる状態でもあります。そのために、この特異点は、境界問題と呼ばれて、大きな問題となっています。

2 ホーキングの無境界仮説
 宇宙の「はじまり」の特異点をなんとか避けるために、イギリスのスティーブン・ホーキングらは、「無境界仮説」という考え方を示しました。この考えは、一般相対性理論と量子力学を組みあわせたものです。ホーキングらは、量子力学から「虚時間=存在しない時間」という考えを導入して、確率計算で宇宙形成モデルを作成しました。
 虚とは、数学の虚数(i)のことです。虚数とは、2乗すると-1(マイナス1)になる数で、実在しないものです。数学の中で考え出されて、使われている想像上の数です。その虚数というものを時間の尺度に取り入れて、虚時間というものを考え出しました。虚時間によって、宇宙の「はじまり」を数学的に特異点あるいは境界というものをなくそうというものです。このような手法は、一般相対性理論と量子力学を統一した「量子宇宙論」と呼ばれているものです。
 なかなか想像しにくいのですが、宇宙の「はじまり」とは、実時間の時空と虚時間の時空を行き来する状態が、まず存在することになります。実時間での消滅は、虚時間での生成を意味します。
 ホーキングが考えた宇宙の「はじまり」の状態とは、虚時間と実時間の間で、生成と消滅をくり返えしていました。これがホーキングが考えた宇宙の「はじまり」を解く方法でした。

3 はじまり:ド・ジッターの宇宙
 ホーキングが考えた宇宙の「はじまり」の状態によって、境界という特異点は、なんとから乗り越えることができました。つぎは、はじまりです。
 ド・ジッターは、虚時間から実時間へ、トンネル効果というもので、宇宙のはじまりを考えました。
 トンネル効果とは、やはり量子力学の世界で起こる現象です。通常の物理学では、高いエネルギーを持たないと越えられない障害や境界があっても、量子というものを考えると越ることが可能です。量子とは、非常に小さいも素粒子のことで、その振る舞いは確率によって考えられます。量子であれば、通常の物理学では、越えられないはずの境界も、少ない確率ですが越える可能性が出てきます。
 宇宙のはじまりは、非常に小さいので、量子の効果を考えることが可能となります。無の状態であっても、量子サイズであれば、虚時間からトンネル効果によって、実時間に宇宙が生成されることがありえます。
 このようなトンネル効果を用いて、宇宙が誕生すると考えられています。

4 インフレーションの開始
 宇宙のはじまり、現実世界つまり「この世」の物理学で考えることができる最初の時間が訪れます。
 最初の時間とは、はじまりから、通常の物理学で扱える最小の時間ともいえます。最小の時間とは、基本的な自然界の定数から、計算されるものです。
 基本的な定数とは、真空中の光速度、万有引力定数、ディラック定数、クーロン力定数、ボルツマン定数の5つです。そこから、計算される5つの基本となる値です。プランク時間(5.39121×10^-44s)、プランク長(1.61624×10^-35m)、プランク質量(2.17645×10^-8kg)、プランク電荷(1.8755459×10^-18C)、プランク温度(1.41679×10^32K)があります。
 最小の時間とは、プランク時間で、 10^-44秒になります。誕生したての宇宙は、プランクサイズ(10^-35m)という最小の宇宙(ミクロ宇宙)になります。
 宇宙の誕生から「この世」に存在するまでの時間、それは10^-44秒で、そのときの温度は、プランク温度の10^32Kという想像を絶するものです。
 ところが、137億年の膨張を続けてきた宇宙の現在持っているエネルギーでは、初期には自らの重力ですぐに収縮してしまう、という見積もりがあります。そうなると、現在ある宇宙が誕生できません。
 そんな矛盾をなくすために、膨張の初期の段階に、激しい膨張(加速膨張)が起こることで解決されています。このような急激な膨張を、「インフレーション理論」と呼んでいます。
 インフレーションによって、生成直後の収縮から逃れたミクロ宇宙は、すぐに私たちの宇宙(マクロの宇宙)になりました。これは、広い意味(広義)のビックバンに含められることがあります。

5 ビックバンの開始
 宇宙の誕生から10^-35秒後には、温度は10^27Kにまで下がり、インフレーションの状態から、現在のような膨張のスピードに落ち着きます。この時以降を厳密な意味での(狭義)ビックバンと呼んでいます。
 ビックバンの時期になると、それが起こったといういくつかの証拠が見つかるようになります。実証性がでてきたのです。

6 あの世とこの世の境界
 以上のように、理論的には、宇宙のはじまりを記述することが可能になりました。しかし、虚時間の世界は、まるで「あの世」ともいうべきものです。この講義では、「あの世」は扱えないという話をしましたが、偉大なる科学者は、知恵を絞って、「あの世」と「この世」の境界も、「この世」に引き込んでしまったのです。
 また、プランク時間以前の宇宙のはじまりは、限りなく「あの世」に近いですから、仮説はあっても、本当かどうかを確かめるための方法、証拠などは見つかりそうにありません。ですから、なかなか一筋縄ではいかないようです。


掲示板■ エサキダイオード・FD  

・エサキダイオード・
トンネル効果は、現実の社会ですでに利用されています。
ある半導体に電流を流すと、トンネル効果により、
電圧に応じて流れる電流量が少なくなるという現象が起きます。
これを用いた発振回路や増幅器は
従来のトランジスタより優れた性能をもちます。
このようなトンネル効果を利用した半導体を、
エサキダイオードと呼んでいます。
名前の由来は、江崎玲於奈さんが発見したことにちなんだものです。
江崎は、その発見によって1973年にノーベル物理学賞を受賞しました。
そのほかにもトンネル効果は、
走査型トンネル顕微鏡などにも使われています。

・FD・
先日大学の私が所属する学部で、
FDに関係するシンポジウムがありました。
FDとは、Faculty Developmentの略称で、
教員の授業内容や教育方法などの改善・向上を目的とした
組織的な取組みのことといいます。
シンポジウムには、教員だけでなく、学生も多数参加しました。
学生も、授業改善のためにさまざまな提言をしれくました。
その発表、発言には、いろいろ感心することがありました。
このFDのシンポジウムに参加している学生は、
熱心に学んできた学生です。
学生の中に何割かはそのような学生がいます。
一方、学問に対する熱意が少ない学生や
大学に来ている目的を見つけられない学生もいます。
私は、これまで熱心でない学生と付き合うことが多いでした。
今回、熱心に学んでいる学生と接して、いろいろと、刺激を受けました。
彼らは教員の授業に対する取り組む姿勢、熱意を、
感じ、読み取り、わかっているのです。
教員も、うかうかしていられないのです。
熱心な学生たちも満足できる授業内容でもあるべきだ
という気持ちを強く持ちました。
しかし、一方では、学問に興味を持たすことに、
努力しなければならない学生たちもいます。
そのような二極化した学生への対処を教員は迫られているのです。
両者を一緒の授業内容で教えるのは、なかなか困難なことに思えます。
これは、教授技術だけの問題なのでしょうか。
教育とは、考えるたびに、難しい問題となってのしかかってきます。


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