地球のつぶやき
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Essay■ 272 仮説演繹法の落とし穴
Letter ■ エアコン・野外調査再開


(2024.09.01)
 現在、執筆している著書の項目で、仮説演繹法を整理しています。以前にエッセイで何度か書いてきたのですが、今回、整理をしなおしたので、紹介することにしました。


Essay■ 272 仮説演繹法の落とし穴

 研究者として、学んでいる時、各種の装置の扱いや実験の仕方、データの出し方など研究の手法をまずは、身につけていきます。それらの結果から、これまで知られていなった新しい知見、独創的なアイディアなどを見出して、研究成果をするまでの過程を学んでいきます。研究成果は、学会発表や論文などで研究者コミュニティで報告していきます。
 その時、自身が出したデータを証拠として、その証拠を元に論理的に、新知見を見出し、独創性を発見していきます。その過程を繰り返しながら、研究者として、科学は証拠と論理に基づいて進めるという方法論を身につけていきます。論理学や科学論などから体系的に学ぶことはなく、体験的に方法論を身につけていきます。そのため、研究者自身が実施している方法論の論理的背景を知らずに研究を進めてく人も多くいます。
 自然を相手にしている科学は、方法論として不完全さ、落とし穴をもっています。そのことに気づかずに研究している人が多々います。落とし穴の存在を、知っているのと知らないのとでは、自身の提示した結果への信頼性と反論への対処などが変わってくるはずです。不完全であることが、自然科学の課題であるのですが、不完全さを理解して科学していくことも醍醐味となっています。
 科学的方法として、多様な進め方があるのですが、帰納法と演繹法がもっとも基本としていす。帰納法と演繹法の話をしていきましょう。
 まずは帰納法からです。地質学だけでなく、多くの自然科学では、事象や個物を対象にして、実験や観察からデータをえます。データは「事実」となり、論理学では「個別的命題」と呼ばれるものなります。それらのデータ(事実)から、帰納法により、普遍的な「規則性」を見いだせることがあります。このような規則性は、まだ検証されていないため「仮説」となります。論理学では、「個別的命題」よりは抽象度が高い「普遍的命題」と呼ばれるものになっています。
 帰納法からえられた仮説は、これまでにない新たな普遍的命題を提示することになります。つまりそこには、新規性や創造性が発揮されます。ただし、個別の事実から導き出しているため、個別事実をすべて網羅しているわけでなく、もし反例がでてくれば、その仮説は否定されることになります。自然科学では自然界すべてを網羅して調べることは不可能なので、仮説は常に否定される可能性があります。そのため、帰納された普遍的命題が正しいこと(真理保存性)は、論理的に示せないという宿命をもっています。
 次に、演繹法です。演繹法は、まず仮説(普遍的命題)がある状態からはじまります。仮説に基づいて個々の事例(個別的命題)が、合っているかどうかを調べていきます。仮説の真偽を事実に照らし合わせて判定していくという検証方法となります。演繹法では、仮説の検証ができます。
 仮説を成立させる前提(条件や適用範囲などの制限)があり、それに適合した個別の事例や事実が集められていきます。仮説の前提を満たした事実によって検証がなされていきます。前提が正しければとう制限付きで、結論も正しいという「真理保存性」はあります。前提には仮説を成り立たせるための結果(帰結)が含まれています。そのため、演繹法からは、新しいことは生まれません。
 ここまで、帰納法と演繹法の特徴を見てきました。いずれも一長一短があります。研究においては、新規性と検証性の両者が求めれられます。新規性には帰納法が、検証性には演繹法が必要になります。両者を合わせて一連の方法としたものが、仮説演繹法(hypothetico-deductive method)として用いられることになります。
 仮説演繹法では、まず帰納法によって仮説をつくっていきます。帰納法では、それまでにない新規性や創造性をもった仮説が提示されます。仮説は「普遍的命題」となりますが、そこには「真理保存性」がありません。
 仮説から、検証可能な「予測」をして、演繹していきます。予測とは、仮説の前提としている条件内であれば、こうなるであろうという新たな個別的命題を設定して、検証していきます。「予測」の検証から、結果が正しければ仮説が正しかったことになります。
 反例が出ないうちは、仮説の「真理」が保存されていますので、仮説は正しいとして利用していくことになります。検証として個別的命題が増えることで、「確からしい」を増すことにはなります。ただし、その正しさは、予測の範囲内だけです。正しさは証明はできなので、蓋然性を高めることしかできません。
 もし予測が間違っていたら、反例が出たことになり、その仮説は棄却されなければなりません。ただし、反例も説明可能な仮説に修正、更新していければ、新たな仮説にできます。
 仮説演繹法は、仮説(普遍的命題)が帰納法によるため、正しいこと(真理保存性)が論理的に示せないという弱点があります。その弱点を、演繹法を用いて、反例がでるまでは、正しいといえるので蓋然性を高めながら、仮説を利用していきます。反例がでてくれば、仮説を修正していきます。このサイクルを続けることで科学を進めていきます。仮説演繹法とは、問題がある科学的方法論ではあるのですが、サイクルが進んでいるうちは、検証されています。実用性を重んじた運用法とえいます。
 現在、多くの科学は、仮説演繹法を用いて実施されています。論理的な正しさは保証されていないのですが、実用重視の自然科学の発展様式となっています。


Letter■ エアコン・野外調査再開 

・エアコン・
北海道は、お盆過ぎから
涼しくなり秋めいてきました。
まだ時々暑い日もあるでしょうが、
本当に暑くてエアコンをつけたのは
一月分もありませんでした。
それでも暑い夏を乗り切るのに
エアコンは必要でした。
北海道では冬場はストーブを炊くので
エアコンはもう使うことなくなります。
これから長い休止期になっていきます。
北海道のエアコンの宿命でしょうか。

・野外調査再開・
このエッセイの発行は予約配信でおこなっています。
9月になったので、野外調査を再開します。
再開とはいっても、
9月に二回だけ実施します。
特に9月の最初のものは、
長期に出かけるので楽しみです。
以前は道外で長期調査にでかけていたのですが、
コロナ以降、道内になってきました。
それでも見どころはまだまだあります。


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