地球のつぶやき
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Essay■ 270 共通祖先:概念の違いと出現順序
Letter ■ 野外調査中・地球初期の出来事


(2024.07.01)
 生命誕生して最初の生物は「共通祖先」と呼ばれます。研究のアプローチによって、共通祖先にもいくつかのものが想定され、異なった概念があります。それらの違いから、生物の仕組みの変化と、大絶滅が想定されます。


Essay■ 270 共通祖先:概念の違いと出現順序

 地球での生命起源を考えるとき、どのようなアプローチがあるのでしょうか。真っ先に思い浮かべるのは、古い化石は探すことでしょう。
 もし、最古の化石は見つけられたとしても、最古であって、最初の生命化石ではありません。生命誕生直後の化石は見つからないと考えられます。なぜなら、生物が死ぬと、他の生物に食べられたり、分解(細菌類が分解)されたりして、普通の場合は生物の体は跡形もなくなります。化石になるためには、生物の体全体、もしくは一部が、分解されることなく、保存されなければなりません。そのためには、食べられたり、分解されたりしない、特別な条件に遺骸が置かれなければなりません。特別な条件とはいえ、化石になるためには、生物の生活場の近隣でなければなりません。
 例えば、土砂崩れや土石流で堆積物の中に埋没したり(通常の化石)、樹脂で固められたり(コハク)、分解されにくい物質に置き換えられたり(珪化木)、もともと分解されにくい物質だったり(貝殻、歯)など、特別な条件に置かれたとき、残ることになります。化石になるのは、多数の生物のうちのほんの一部の個体、それもほんの一部分だけ残ったものです。
 誕生直後の生物は、細胞となっていたでしょうが、殻やキチン質などの硬い部分は、まだできていないはずです。最初の生物は、残る可能性はほとんどないでしょう。また、生命誕生の場が化石の保存に適してるとは限りません。
 とはいっても、最古の化石が、どの時代の、どのような種類なのかは、重要な情報になります。生命誕生がどのようなものかは不明であっても、最古の化石が残る状態に、時間的(年代)と生物学的(どのような種)には達していたという条件があったことになります。
 生命誕生へのアプローチとして、現在の生物を調べて、もっとも古いタイプの生物を推定して、そこから最古の生物へとたどる方法があります。例えば、DNAなどの遺伝子情報から系統解析をして、より古いタイプの生物を見つけて、それがどのような生活や仕組みをもっているかを探る方法があります。
 この方法では、古細菌という分類(ドメイン)の中で、好熱性のグループがもっと系統的に古いものになりそうです。古細菌もすべての生物も、同じ仕組み、例えば、DNAは4つの塩基からできて二重らせん構造をもっていること、タンパク質は 20 種類のアミノ酸だけで構成されていることなど共通しています。すべての現生生物に共通した特徴は、多数の祖先から発生したのでは、できません。一つの祖先に端を発しなければなりません。このようなもっとも最初の生物を「共通祖先」と呼びます。
 一方、化学合成や生化学などの知見を用いて、生物をつくっている材料がどのような条件や材料の組み合わせでできてきたのか、それらがどのように合成されてきたのかなどを、実験的、実証的に調べていくアプローチがあります。
 現生生物からのアプローチは時間を遡る方向性をもち、化学合成や生化学からのアプローチは生物の形成過程を時間の流れに沿った方向性を持っています。2つのアプローチで想定される共通祖先には違いあります。それらを区別するために、現在の生物からの共通祖先を「コモノート」と呼び、実験的なアプローチで考えたものを「プロゲノート」と呼びます。
 コモノートは、現在の生物すべての共通祖先にあたり、たったひとつの種にたどり着きます。多分、コモノートは、古細菌のようなタイプの生物だったと考えられます。
 プロゲノートは、生命と呼べる機能(属性)をもった最初の生物ですが、推定された存在になります。生化学的にはDNAよりRNAが先に形成されたと考えられているので、プロゲノートはRNAで代謝や増殖ができる細胞膜をもった、生命と呼べる基本的な機能を獲得したはずです。ただし、細胞膜の物質や代謝の方法や合成物も、いろいろな組み合わせが可能です。そのため、プロゲノートはいろいろなタイプ(種)がいたと考えれます。実験的な研究として進められますが、化石などで検証はできそうにありません。
 その後、現在のような遺伝情報をDNAからRNAにコピーして、タンパク質をつくるという仕組み(セントラドグマ)ができていきます。セントラドグマをもてるようになった生物は、安定した種となり、プロゲノートとは異なったタイプとして認識すべきでしょう。そのような共通祖先の概念を、FUCA(first universal common ancestor 最初の普遍的共通祖先)と呼んで、区分されています。
 プロゲノートとFUCAの違いは、セントラルドグマが成立したか否かの違いで、両タイプは連続的に進化し、共存していた時期もあったはずです。FUCAは、プロゲノート同様に、DNAやRNAの構成、タンパク質の組み合わせ、代謝の仕組みなど、いろいろなタイプのものがあり、多様な生物種がいたはずです。
 プロゲノートとFUCAは、生物における連続的な進化とみなせますが、FUCAとコモノートには大きなギャップがあります。それは種の数では、現生生物から経とどりつくコモノートはたった一種になりますが、FUCAはセントラルドグマの仕組みは持っていましたが、多様な種がいたはずです。
 FUCAの中のあるひとつの種がコモノートになったはずです。FUCAうちコモノート一種だけが残り、それ以外のすべての種が絶滅したのです。その間に何が起こったのでしょうか。FUCAの大絶滅があったはずなのですが、その実態も痕跡も見つかっていません。
 このような共通祖先を区別して、研究を進めていくことが重要になるでしょう。


Letter■ 野外調査中・地球初期の出来事 

・野外調査中・
現在、野外調査にでています。
そのため、予約配信をしています。
今回は、大雪山から日高山脈の麓をたどります。
もちろん、車で行けるところを巡るのですが、
雪が溶けた夏でないと巡れないコースでもあります。
気候もいい時期なので、
快適な調査が期待されますが、
山は天候に左右されやすいですが、
心配しても仕方がありませんね。

・地球初期の出来事・
現在、論文を書いているのですが、
このエッセイのテーマに関連したものです。
共通祖先にも、研究者によって
いろいろな名称があり、概念も異なっています。
それを整理していくと、
今回のエッセイで示したような概念の違い、
そして大きなシステムの変更、出現順序、
大絶滅とたった一種の生き残りなどという
地球初期に起こっていたことが想定されました。


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