地球のつぶやき
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Essay■ 245 自然の有限と数学の無限
Letter ■ 野外調査・ゴールデンウィーク


(2022.06.01)
 自然科学の研究をしていく時、数学的な処理をしなければならないときがあります。数学的処理がうまくいき、規則性が見えた時、自然の真理が見えたと考えてしまいます。しかし、その取り扱いには注意が必要です。


Essay■ 245 自然の有限と数学の無限

 コロナの感染が続いてきますが、機会を見つけては、野外調査にでかけるようになりました。昨年は互層している堆積岩を中心に調査をしていましたが、今年は、道内のいろいろな岩石成因の典型的な露頭を見ることにしました。先日は、新しい火山地帯にでかけました。目的は、岩石形成にかかわる基本的な素過程を露頭スケールで抽出していくことです。当たり前の過程になるはずですが、露頭から思索をはじめることが重要だと考えています。そんな思索のひとつを紹介しましょう。
 互層とは、規則的に繰り返され連なっている地層のことです。露頭で整然とした互層を見ると、自然界には何らかの規則的な現象が起こっているのを感じてしまいます。もし何らかの規則性を見つけたとしたら、次には規則を生み出した原因を考えていくことになるはずです。
 例えば、互層を構成している砂岩と泥岩の層厚の比率を計測したとしましょう。その時、砂岩の占める比率が上位に向かって減っていったとしましょう。その原因として、互層の堆積場が、沿岸からだんだん遠く深くなっていったとすればどうでしょうか。そのような場合、時間経過にともなって、砂岩があまり流入することなく、泥岩が多くなっていくという現象が起こりそうです。そのような作業仮説が構築できます。
 検証としては、示相化石など環境を反映する他の情報からおこなうことになります。示相化石から、その仮説を検証できたとしましょう。検証できたことによって、仮説に根拠が備わって、「正しさ」が示せたことになります。
 ただし、地質学固有の注意点があります。地質学的現象は、過去に起こったことなので、一回限りの出来事になります。そのため、どんなに似た現象、互層があったとしても、それは時代や地域が異なっているものなので、全く同じものは存在しません。そのため、互層ごとに先程の仮説の検証作業が必要になります。ある互層では示相化石があり検証できたとしても、もしなければ検証できないことになります。検証されていない互層で、どんなに似た現象が見つかっても、その「正しさ」には根拠がないことになります。
 地質現象は、過去に起こったことなので、ここまで述べてきた検証の有無による「正しさ」に関する評価はわかりやすいはずです。しかし、自然科学の分野では、その見極めがしづらくなってくる場合があります。
 地質学では、素材が自然物であるため、対象を詳しく調べ記載することが重視されます。自然の中で実物をとるときは、日時や位置、分類など質的データとともに、計測された量的データも集められることがあります。テーマによっては量的データを中心に集めることもあります。数値化された量的データは、統計的処理など数学的な扱いをすることになります。
 地質学に限らず、自然科学では多くの場面で数学的手法を用います。物理学などはその典型で、物理現象を如何に数学的一般則を導き出すか、あるいは物理法則がどこまで自然現象に適用可能かを探ったりすることも多く、そこでは数学的手法が使われています。
 自然科学では、規則性や普遍性を見出すことを目的としていきますが、基本的に実験、観測、観察できる範囲でしかデータを集められません。自然科学の規則性や普遍性は、あくまでも検証された範囲内での正しさになります。
 地質学はその露頭の分布する範囲内でし検証されますが、物理学では、実験観測できる範囲でより広大です。いずれの場合でも、検証できる範囲の外側は、推測はできても、「正しさ」が保証されないものになります。もし、技術が進み、検証できる範囲が広がったとき、これまでの規則に合わない事実、現象が見つかったら、これまでの規則性や普遍性は、捨てたり、修正されたりしなければならなくなります。
 このような例は過去に多々ありました。光速度は一定であることは実験的にわかっていたのですが、それを従来の規則の体系に組み入れることは、相対性理論が登場するまではできませんでした。相対性理論の検証のために、光の行路が重力場に応じて曲がること、速に近づくと時間が伸びることなどが観測され「正しさ」がわかりました。新しい理論による検証作業がおこなわれ、従来の理論が間違っていることが証明されたことになった例です。
 自然界を対象にしているので、検証範囲には限界があります。物理学でもそうであったように、自然科学の「正しさ」は、「現在のところ」という但し書きが常に付いていることを忘れてはいけないのです。
 さらに、自然科学で数学的手法を使いっていても、純粋数学とは決定的に違う点があります。天文学でどんなに遠くの対象を扱っていても、宇宙は「有限」のサイズしかありません。また、物質として素粒子という最小の単位が決まっています。一方、数学的には「無限」が存在します。数字は無限に大きなものがあり、無限に小さいものもあります。微分では無限に小さいもの、関数では無限に大きくなる値も許容されています。無限という概念の存在が前提で、論理過程が進められます。ですから、数学の論理は、未知の領域である無限にまで適用できることになります。
 自然からえられた事実は揺るぎないものです。たとえ整ったエレガントな法則があったとしても、泥臭い事実に従わなければなりません。自然科学は、真実は自然の中にあることを忘れてはいけません。有限と無限、事実の法則、科学と数学、これらの境目は注意しておかなければなりません。


Letter■ 野外調査・対面とリモートと 

・野外調査・
5月の北海道は暑い日もありましたが、
月の初めや月末には寒い日もありました。
寒暖がいったりきたりしていました。
それでも5月は野外調査にはでかけることができました。
6月には2回の調査をする予定です。
中旬に校務出張もあるはずなので、
その日程が決まらなければ
調査日程も決めることができません。
でも、自由に調査に出かけられるようになったので
非常に助かっています。

・対面とリモートと・
大学は対面授業が当たり前になりました。
またリモート授業も利用できるので、
出張があっても休講にすることなく、
授業を継続することができるようになりました。
リモート授業は、学生の能動的な受講態度がないと
成立しないものです。
対面授業の中で、リモートでも
その雰囲気を醸造するのは
なかなか難しいですね。


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