地球のつぶやき
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Essay■ 209 地層の成因:スケーリング則の逆用
Letter ■ 初夏の訪れ・道内調査


(2019.06.01)
 思考実験は、非常の有効な道具になります。問題はどう使うかなのですが、うまくいく、いかないがあります。しかし、チャレンジしないことには、はじまりません。さてこの地層の思考実験はうまくいったでしょうか。


Essay■ 209 地層の成因:スケーリング則の逆用

 地層がでている大きな露頭があるとします。その地層の成因を考えるという思考実験をしましょう。
 地層とは層が繰り返しているものです。ですから地層では、似た層が繰り返されていること、層の構成物が土砂で似ていること、層内の土砂は粗いものから細かいものへという変化が似ていること、など類似性が目立っているようです。でもよく見ると、類似性だけでなく、層ごとに違った特徴もあることがわかります。層の厚さ、色合い、構成物の種類やその量比も、層によって違っています。地層には、層ごとに個性や特異性があることもわかります。地層の成因を考える時、このような類似性と特異性のできかたも説明できなければなりません。
 まず、類似性を考えていきましょう。類似性としては、構成物が土砂であることが一番の特徴で、そして本質的に見えます。構成物は、地層をつくる素材であり、素材が成因の重要な要素となります。土砂がたまっているのは、砂漠や砂丘、水底です。砂漠や砂丘では岩や砂だけで、土はなさそうですし、繰り返し層をつくっているとは思えません。では、水底とすると、水の流れる川沿いの河原や河口、海底が思い浮かびます。私たちは、川が土砂を山から運んでいることを、体験から知っています。ただし、河原や河口は、広く層を成すような、そして何度も繰り返えし層をなすような場所ではありません。
 ですから、河口のさらに先の海の底、見えにくいところが候補になりそうです。では河口付近の海で繰り返し土砂がたまるようなことはあるでのしょうか。日常的な場面では、そんな状況は考えられません。でも、数10年、数100年に一度しかないでしょうが、大洪水が起これば、川沿いや河口付近の土砂を一気に大量に海底に流していくことができます。一度の大洪水で、河口周辺の海の広い範囲に土砂がたまりそうです。大洪水が起これば、一層の地層をつくることができそうです。
 さて、ここまでひとつの地層をつくための想像、推量でしたが、そこにはいくつか重要な考え方が含まれていました。
 洪水は同じ場所では稀なことですが、広く見ていくと、河川の氾濫や大洪水は日本だけでも、毎年何件もニュースになります。そのうち大規模な災害をもたらすものも、数年に一度はくらいはあります。ひとつの地域では稀な現象であっても、日本から地球全体にまで広げると、当たり前の現象となります。つまり、現在の地球では、洪水による土砂の海底への堆積は、頻繁に起こる当たり前の現象と考えてよさそうです。
 ここでの考え方は、局所的には稀なことでも、面積を広げ、広域で見ると当たり前のことになることを意味しています。統計的に扱う集団が小さければ稀な事象だったとしても、扱う集団を大きくすると、稀な現象とは言えなくなるということを意味します。空間におけるスケーリング則を逆用したものと見なせそうです。
 スケーリング則とは、ある条件で法則が成り立っている場合、その条件が大きく異なった場合でも正しいものとみなせそうだということです。逆に条件を限定すると、スケールの小さいものは頻繁に起こり、大きなものは稀にしか起こらないということです。当たり前のことが1年に一度だとすると、とんでもないことは100年に一度の頻度となります。この関係がスケーリング則となります。このスケーリング則を逆用すると、ある地域で稀なことでも、空間を広げることで、稀なことではなく、ありふれたことと見させることになります。
 一つの地層が上で述べたようなでき方だったとすると、地層は繰り返されています。一連の地層は、ひとつの場所(堆積場)でできたものです。ひとつの地域では、大洪水は稀な現象ですが、それが繰り返されることになります。時間の間隔を長く取ることで、このような稀な現象を、当たり前の現象にできます。地質学的な時間、地球史的な時間で見ると、河川があれば、大洪水は繰り返されると考えることができます。そう考えれば、地層の繰り返しが説明できます。これは、時間におけるスケーリング則の逆用となります。
 人の視野や時間スケールで見ているために、大洪水という現象は稀に見えたのです。空間や時間のスケールを広げることで、稀ではなく、当たり前になるということです。
 さらに重要なことがあります、層の厚さや色合い、構成物の種類、量比などの地層内の差異や多様性も、同じメカニズムで説明できます。洪水でもたらされる土砂は、河川の河岸や河口に堆積していたもので、すべて河川の侵食、運搬、堆積作用によるものなので、その構成物の種類に違いや量比などは、一定しているわけではありません。土砂の種類や量比には、多様性が生じる必然性が自然にはあります。また、土砂が堆積する場でも、洪水でどこに、どの程度たまるかは、洪水しだいで変化します。仮に同じような土砂が、同じような規模の洪水があっても、土砂が流れる流路やたまる場所が異なれば、海底の定点でみると、土砂の成分や構成比、量に違いが生じることになります。定点で見るという意味は、露頭では断面を見ているということは、堆積場の垂直断面ですから、堆積場のある地点をみていることになります。洪水によって堆積するという機構自体に、多様性が形成されるメカニズムが組み込まれていることになります。
 このような成因であれば、地層に見られる類似性と相違性の説明できます。実際の地層の成因はどうかは、地質学の科学的検証になりますので、思考実験では、ここまでです。
 この多様性と類似性の成因を客観的にみると、さらに別のものが見えてきます。多様性と類似性が地層にどう反映されるでしょうか。もし多様性が強ければ、層ごとの個性が強くででることになるはずです。例えば、層の厚さの変化、構成物の多様さ、量比の変化などが大きく変わってくるでしょう。上記の成因でいえば、土砂の供給量にバラツキがある、海底での土砂の流路の変化が激しい、などの原因が考えられます。このような疑問は、同じ地層を広域でみていけば、答えが出るはずです。
 もし類似性が強い地層であれば、安定した土砂の供給地(後背地といます)があり、安定した河川の堆積、安定した海底での土砂の流路があったことになります。類似性はすべて安定性の反映となります。ただし、この安定性が本物かどうかは、やはり広域に同じ地層を追いかけることで明らかになります。
 もし地層の差異と類似性が数値化できたとすれば、後背地の安定性や流路の安定性などを定量化できるかもしれません。現実は、なかなか難しいと思いますが。
 ここで用いた考え方は、スケーリング則でした。ただし、今回の思考実験では、スケーリング則を時間や空間を何階層にもわたってみています。地層の構成要素はmmスケール、層の厚さはcmスケール、地層の繰り返しはmスケール、地層の広がりや対比、堆積場や河川は数10kmスケール、さらには地球スケールまで空間スケールは階層化していました。また時間スケールでは、洪水現象や堆積物の沈降の期間は日のスケール、洪水の頻度は数100年のスケール、露頭の地層の形成は数100万年スケールという時間スケールを階層化していました。だたし時間スケールの階層化は過去へしか伸びません。ただし、億年前というスケールまで非常に広い階層への適用は可能です。
 さらに多様性と類似性という普遍的概念にも、スケーリング則をメタ的に適用しました。広く階層の違った要素に対して、多階層への多重的にスケーリング則を利用していたことになります。
 さてさて、こんな思考実験はいかがでしたでしょうか。最後の考え方も多階層的でしたね。


Letter■ 初夏の訪れ・道内調査 

・初夏の訪れ・
北海道では着実に季節がめぐり、
初夏になってきました。
快適な季節です。
今年は快晴の日々が多いので、
快適さが一段と際立っています。
たし、春は特に天候不順で、
寒い日と暖かい日の気温の変動が激しかったです。
初夏は安定しているようです。
このまま夏になればいいのですが、
どうなるでしょうか。

・道内調査・
5月から6月にかけては、
道内の野外調査を何度か計画しています。
昨年に続いて2年目の道内調査です。
すでに道北へ2度でかけました。
6月は道東と道央を考えています。
7月は校務がいろいろ詰まっているので
調査にでることはできません。
9月上旬は山陰で、それ以降は、
再度の道内の調査を予定しています。
どこにいくかは、調査の結果、次第です。


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