地球のつぶやき
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Essay■ 163 はじまりの石:成因のジレンマ
Letter ■ 蒸し暑さ・二次試験


(2015.08.01)
 地球の「はじまりの石」はどんなものか、という素朴な疑問について考えています。多分、その石は地球には残っていません。今は亡き石がどのようなものかについて、思いを巡らせています。真夏の夜の夢として、見てください。


Essay■ 163 はじまりの石:成因のジレンマ

 最近、昨年書いた論文から派生した課題について考えています。考えがまとまったら、来年度に報告する予定です。その課題とは、地球に最初にできた岩石はどのようなものか、ということです。いいかえると、地球の「はじまりの石」は、どんなものかという問いです。論文を書いていた時は、簡単に答えが出たように思えました。ところが、論文を書きながら、かなり複雑であることとわかってきました。ですから、趣旨の違うその論文では深入りしせずに、次なる課題としました。
 地球の岩石の成因や多様性の形成のプロセスは複雑ですが、その素過程はかなり解明されてきました。もちろん、まだわかっていないことも、いろいろありますが。
 古い岩石を考える場合、深刻な問題があります。地球深部が本当に予測通りなのか、過去に起こったことが本当に推定されたシナリオや原因だったのか、などは、なかなか実証できないことがあります。地質学には、科学的、あるいは論理的に、実証不可能なことを探るという難さが、宿命としてつきまといます。そこには、確からしさを増すことはできても、証明が完結しないというジレンマがあります。これは、時間経過、あるいは歴史性を内在する自然科学、人文科学のどの分野にもある悩みだと思います。
 さて、「はじまりの石」です。「はじまりの石」とはどんなものかということについて、石の名前を定めるのではなく、もっと単純に成因を探るところからスタートしました。石の成因には、火成岩、変成岩、堆積岩の3つがありす。私は、「はじまりの石」は火成岩だと考えました。その理由は、地球の形成過程を考えるとそうなったからです。
 地球は、材料物質である隕石が、衝突、合体して形成されました。形成直後の地球は、隕石の混合物であったはずです。これは、地球をつくった石が集まったもので、地球固有の石ではありません。そして、混合物を3つの成因に区分すると、一種の堆積岩になるのでしょうか。ただし、集積の過程を考えると、そこには変成作用や火成作用も働いていたはずです。成因で考えると、堆積岩の中に、変成岩や火成岩も混じっていることになります。
 そこで私は、「はじまりの石」は地球の固有の石と限定しようと考えました。地球形成の後、衝突時の重力エネルギーの開放と揮発性ガスによる厚い大気により、地球表層は加熱され、温室効果が強烈に働き保温されることで、表層部が溶けてマグマオーシャンが一定期間、形成されたと考えられます。隕石の衝突がおさまると、重力エネルギーの供給がなくなり、地球は徐々に冷却してきます。やがてマグマオーシャンは冷え固まり、地面ができます。この地面を構成していたものが、「はじまりの石」になると考えました。
 その石は、今は存在しませんので、実証はできません。しかし、マグマオーシャンの表層は固まれば火山岩になり、玄武岩や超塩基性岩(ピクライトとも)と呼ばれるようなものになるはずです。深部でゆっくり冷えたものは深成岩になり、斑レイ岩やカンラン岩になったと推定されます。つまり「はじまりの石」は、マグマからできた、火成岩だということは確からしく見えます。
 このようなシナリオであれば、単純でいいのですが、マントルが問題となります。地球全体を考えると、マントルは地殻と比べると非常に多くの比率(体積、質量)を占めています。マントルを構成している岩石は、カンラン岩です。マントルが顔をだしているところ(アルパイン型カンラン岩やオフィオライト)や、深部でできたマグマが途中で取り込んできたマントルの捕獲岩(ゼノリス)、海洋深部掘削計画で掘られたものなどから、カンラン岩であることが、検証されています。
 マントルは、隕石とは化学的に明らかに違ったものです。隕石に含まれていた鉄の成分は、核の形成に使われたため、抜けています。地殻の岩石も、マントルからマグマとして抜けていったものです。量的に考えて、マグマオーシャンはマントルの上部のほんの一部でしょうから、マントルの大部分は地殻形成には関与していないはずです。
 隕石の混合物からマントルができるとき、鉄が大量に抜けていったことが重要です。ですから、マントルも地球固有の石ではないかと考えられます。ということは、「はじまりの石」の候補でもあります。
 その前に、核の話をしておきましょう。核にも「はじまりの石」の候補があります。核は、地球では大きな比率を占めています。外核は液体ですが、内核は固体の鉄です。内核は、液相から形成された固相です。これは地震波探査からわかっています。
 火成岩を広義(汎用的)に定義にすると、液相(マグマ)から固相(火成岩)ができる、といえます。ですから液体の鉄からできた固体の内核は、火成岩の一種と考えられます。そうなれば、「はじまりの石」と呼べるかもしれません。
 では本題にもどって、マントルです。マントルでは、地球形成初期に、地球の化学的な再構成が起こりました。地震波のデータや捕獲岩、火山岩の化学組成をみると、マントルの比較的均質に見えます。地震波は大きなスケールでみていますので、詳細な不均質はみえていません。また、火山は小さなスケールで、さらに溶融や固化という過程を経たもの(火成岩)からみています。そのため、マントルに複雑な化学的多様性があったとしてもが、見えていない可能性があります。いずれにしても地球深部の多様性、複雑性があったとしても、現在の情報からは、うかがい知れないものとなります。しかし、得られている情報から、マントルはある程度の均質性があると考えられています。
 均質なマントルは、地球初期に、地殻だけでなく核の成分が抜けて化学的再構成が起こった結果ですから、地球固有の石と考えられます。このような石は、「はじまりの石」と呼べるのではないでしょうか。
 ところが、マントルの岩石は、3つの成因のどれにあたるか、よくわからないのです。
 隕石の混合物から、鉄(多分液体として)が抜けていったと考えられます。マグマオーシャンは表層部分だけの出来事です。深い部分になる大半のマントルの石は、溶けてはいないはずです。マントルは、隕石の混合物から、固体のまま、ある成分が液相として選択的に抜けていったことになります。まあ、出がらし、抜け殻の石といえます。このようなタイプの石は、3つの成因には当てはまりせん。
 ですから、マントルも「はじまりの石」と呼べそうですが、石の成因に区分できないというジレンマがあります。「はじまりの石」には、最初の地殻、内核、深部のマントルと、3つの候補が挙がってきました。少々迷っています。再度考えていきたいと思っていますが、なかなか面白いテーマではないかと考えています。


Letter■ 蒸し暑さ・二次試験

・蒸し暑さ・
いよいよ8月です。
北海道は、蒸し暑い7月末を過ごしました。
晴れても、湿度が高いため、
体力が奪われます。
しかし、夜には涼しくなるので、
睡眠が比較的とれるので、
なんとか体力維持ができます。
我が家には扇風機しかありませんので
帰宅後の夕方の蒸し暑さは、扇風機でしのぐしかありません。
大学では、うちわや扇子です。

・二次試験・
教員採用試験の一次試験の結果がでました。
学科の一次試験の成績はまずまずですが、
問題の二次試験があります。
模擬授業や集団面接、一般面接、
実技などがあります。
その対策を教員はボランティアで
代わりばんこに行なっています。
あとは、学生本人の努力となります。


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