地球のつぶやき
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Essay ■ 51 落とし穴は明るかった
Letter ■ 移動の季節・待ち遠しい春


(2006.04.01)
 常識がなくては生きていけません。しかし、その常識には正しいことも間違ったこともあります。そんな正否を判別してくれるのが科学でです。しかし、科学の知識も使う人が賢くないと思わぬ落とし穴にはまってしまいます。


■Essay 51 落とし穴は明るかった 

 私は、常識の世界に生きています。私だけでなく、多くの人も常識の住んでいることでしょう。常識のある社会でないと、安全が確保されません。多くの人が常識を持っていることが重要です。しかし、常識には思わぬ落とし穴があります。
 常識的に振舞っていれば、安心できます。子どものころから、常識的に生きるように教育されてきました。もしそのような常識のある社会で、自分だけ常識を気にせずに振舞まってしまうと、何かとトラブルを起こしたり、生きづらくなくことでしょう。それに、非常識を取り締まる法律や警察などもあるので、犯罪者にもなりかねません。
 人は、大きく常識を外れなくても、常識的に考えずに振舞ってしまった経験があるはずです。そんな時、自分だけが他の人と違い、恥じをかいたり、損をしたりした経験が、常識から外れる損得を教えてくれます。そんな不安にかられるくらいなら、常識的に振舞ったほうがましです。
 そんなもろもろのことから、私も含めて多くの人は常識的考え、振舞っているのでしょう。
 しかし、その常識が正しいという保障はどこにもありません。もちろん、中には正しさが証明されていることもあるでしょう。しかし、常識的に判断しているとき、深く考えていませんから、そこには思わぬ落とし穴があるかもしれません。
 そんな常識の落とし穴を見つけて正していくのに有効なのが科学です。科学は、論理や証拠によってのみ、構築されています。「そう思う」、「皆そうしている」というような日常的には許されていることでも、科学では許してくれません。常識的判断も科学では通じないのです。ですから、ものごとを深く考えるときには、科学的に考えることが有効です。
 科学が作り上げている知識体系は、論理と証拠によって構築されたもので、信頼に足るものです。しかし、その知識も間違った運用をすると、とんでもないことになります。刃物、ダイナマイトや核融合は、人類の役に立ちますが、人を傷つけることもできます。科学的知識もうまく使えるかどうかが、問題となります。
 それはやはり、知識を使う側である人間が、賢いかどうかでしょう。まあ、大事にいたらなくても、ちょっとしたことでも科学的知識と常識がうまくかみ合わないと、思わぬ落とし穴があります。つまり知っていても、それを運用できなかったり、うまく運用できなければならないのです。
 私は、そんな落とし穴に気づかず、間違っていたことに最近気づきましたので、紹介します。ことの起こりは、視覚障害者の方との話でした。
 私は、なにかを伝えるとき、もし言葉でそれを伝えることができるのなら、イメージする力さえあれば、視覚障害者だろうが健常者だろうが、同じものを伝えられると考えていました。そして、もし伝えたいものが、実在するものでも、常識的なスケールを越えるものであればあるほど、視覚より重要なのはイメージする能力であると考えていました。その考えは今でも変わっていません。
 さて、イメージするとき、具体的な例として地球を用いて説明してきました。地球は大きなスケールなので最適でした。それは、次のような内容からはじまりました。
 地球は丸い球になっています。その大きさは半径約6400kmです。非常に大きなもので、その大きさはなかなか想像できません。もし、地球の大きさを10万分の1にすると、大人が両腕を広げて抱えられるほどの大きさとなります。1.6mの人間の身長を10万分の1にすると、0.016mmになり、砂粒より小さくなります。ちなみに砂の大きさは2mmから0.063mmで、砂より小さな0.016mmは、シルトと呼ばれる粘土の仲間になります。
 この大きな地球は、岩石と鉄からできます。外側が岩石で、内側に鉄があります。岩石の地球の一番外側にあるのが、地殻と呼ばれるところです。地殻は海では5km、陸でも50kmほどの厚さしかありません。地球全体と比べれば、地殻は本当に薄いものに過ぎません。
 さて地殻では、地下になるほど地表の温度変化を受けず、暖かくなります。10mの深くなれば、年中一定の温度なります。しかもその温度は、地球の内部にいくに従って上がります。・・・・
 という説明をしていました。ここまでは前置きで、本題は次からです。
 健常者に説明するときは、言葉よりイラストを描いた方が分かりやすいので、イラストを用いて説明していました。そして、そのイラストを描くとき、色をどうつけるかで、よく迷っていました。
 地球の深部になるつれて、温度が高くなります。ですから、イラストの色をだんだんと濃い赤にしていくべきなのか、それとも赤からだんだん白っぽくしていくのかとなどを、悩んだりしていました。しかし最終的には、実際には地下の岩石の色など見えないのだから、何色でもいいのだと考えていました。
 問題はそこでした。地下は暗いところだと思っていたのです。
 地下の鉱山や鍾乳洞は、太陽の光が当たることなく、人工の明かりなしでは、真っ暗なところです。これは、多く人が経験的に、そして常識的に知っていることでもあります。そんなところを自由に動き回れるのは、視覚障害者のような光のないところに馴れた人だけだと思っていました。
 そこに落とし穴がありました。太陽光のとどかないところは暗い、という常識に惑わされたのです。私達の経験している地下とは、地殻のほんの浅い場所だけです。ですから、ほんの一部の経験や情報を、地球のような大きなもの全体に当てはめるのは、非常に危険であることは、ちょっと考えればわかるはずです。でも、深く考えず、ささやかの経験による常識によって、地中は暗いと思い込んでいたのです。
 さらに、科学的知識とも結びつけることができませんでした。
 物質は、その温度が上がるに伴ってエネルギーを放射をします。それは、現実には物質の性質によって多少変化しますが、黒体と呼ばれる理想的な物質では、温度と放射エネルギーは相関があります。厳密にいうと、黒体表面の単位面積、単位時間当たりに放出される電磁波のエネルギーは、黒体の絶対温度の4乗に比例するというものです。これは、シュテファン=ボルツマンの法則と呼ばれています。
 高温のものは、温度に応じて似たような色の光を発することを、知識として私は知っていました。また、太陽もその原理で温度に応じた光を放射していることも知っていました。しかし、そのような科学的知識が使われず、地下は暗いところという常識で、先入観を持ってしまっていたのです。
 自分のほんの少しの経験に基づいた間違った常識をだったのです。そして、その常識が先入観となって、科学的知識を使うことができなくなっていたのです。知恵が足りませんでした。
 太陽の光が届かないところでも、温度が高ければ光を放射しているのです。地球内部でも、高温であれば、その温度の応じた放射をしているはずです。ですから、地球内部になるほど明るく色を変えていくはずです。
 地殻下部からマントルになると、800から1000度くらいの温度になり、岩石もオレンジ色になります。マントルの深くなると岩石の色は、オレンジ色から黄色、青っぽい色にまでなっていたはずです。地球の一番深部では鉄は6000度にも達します。そこで太陽のようにまばゆさに、目も開けられないほどでしょう。
 これが私の気づいた落とし穴です。この落とし穴は、深くなればなるほどまばゆく輝いていたのです。


■Letter 移動の季節・待ち遠しい春 

・移動の季節・
いよいよ4月になりました。
移動された方は、忙しい日々を過ごされていると思います。
私は、大学の学部再編で移動することになりました。
そこに配属され、今までの学部から、
別の学部の新設学科に新しい配属されます。
昨年の夏から予定されていて、
昨年後半はその準備に明け暮れました。
やっと新学科で新入生を迎えることになります。
でもこれからが、私たちの本当の仕事のはじまりです。

・待ち遠しい春・
今年の冬は体調不良の連続でした。
つぎつぎと風邪をひいていました。
重いのを3回、軽いのを2回ほどひいたようです。
今年の冬は雪も多く、寒いものでしたが、
暖かさも早くやってきました。
すぐに春になるかと思っていたら、
3月下旬には、北海道で湿った大雪となり、
ぐずついた天気となりました。
早く春になればと思っていますが、
入学式の方が早く来てしまいそうです。
今年は、春が待ち遠しいですね。


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