もどる


画像をクリックすると大型の画像が見ることができます。
ただし、大きなファイルの場合がありますので注意ください。

Essay ▼ 206 釧路湿原:氷河期と縄文海進
Letter▼ 豪雪の交通障害・来年度の調査


釧路湿原の北西部にあるシラルトロ湖。


シラルトロ湖から見える硫黄山。


釧路湿原の北西部にある塘路湖。


タンチョウ観察センターに保護されているタンチョウヅル。


温根内ビジターセンターの釧路湿原。


野生のタンチョウヅル。


釧野生のタンチョウヅル。


タンチョウ観察センター内のオオワシの剥製。


釧路湿原の木に生えている地衣類。

(2022.02.15)
 日本各地でs、まん延防止等重点措置の延長が起こっています。北海道は、現在、雪のシーズンなので、調査は冬眠中です。春から調査ができるかどうか不安です。今回は昨年、訪れた釧路湿原の紹介をしていきましょう。

 昨年は、COVID-19のまん延防止等重点措置や緊急事態事態宣言が、たびたび発令されましたが、その合間を縫って、道内だけですが、何度が野外調査に出ることができました。9月に釧路での校務のあと道東各地へ野外調査にいきました。また、11月にも校務でしたが釧路を訪れることができ、その後一日私用をとって阿寒を回りしました。西から釧路の街に入るときに、釧路湿原を通ることになります。今回は釧路湿原の紹介です。
 釧路湿原に水を供給しているのは釧路川です。巨大なカルデラ湖である屈斜路(くっしゃろ)湖に、釧路川は端を発します。弟子屈原野を流れるいくつかの支流と合流して、釧路湿原に入っていきます。そして久著呂(くちょろ)川、雪裡(せっつり)川などの支川が湿原内で合流します。釧路川が釧路湿原にとっては重要な河川となります。
 北海道では、石狩湿原(5.5万ha)がもっとも広い湿原ですが、釧路湿原(2.9万ha)はサロベツ湿原(2万ha)より広いものです。釧路川は154kmの長さですが、大正9年8月に大洪水が起こったことを契機として、洪水被害を防ぐ治水として、河川の直線化がなされてきました。農地開発や市街地の拡大などで、湿原は減少しててきました。釧路湿原に人手が入り出して変化してきています。
 しかし、北海道の他の湿原と比べると開発が遅れていたため、もとのままの状態で残されている地域も多くあります。そんな地域として中央北部は、天然記念物(5000ha)に指定されています。国内では最初のラムサール条約に登録された湿地ともなっています。
 釧路湿原は地質学的に見ると、新しい時代に形成されたものです。2万年前のビュルム氷期には、現在と比べて平均気温で10度も低く、海面も100mも低くなっていました。その後、縄文時代になると温暖化していきます。温暖化の時期には、海面が上がっていくので「海進」となります。縄文時代の海進を「縄文海進」と読んでいます。
 6000年前ころの海進では、海水が内陸(現在の釧路湿原のあるところ)に入り込んで、湾の状態(古釧路湾と呼ばれます)になっていきます。湾内では海成の泥(中部泥層と呼ばれます)が堆積します。その層の厚さは、10数mから30mに達するところもあります。中部泥層には、時々薄い砂の層がはさまれています。
 海面がもっとも高くなった頃には、貝が多数繁殖して、泥の層の上に、ホタテの密集している貝層ができています。そして、貝塚も発見されています。貝塚は、人が貝を採って食べてあとの貝殻を捨てたところです。釧路湿原の最初の貝塚は、7000年前(縄文早期)のもので小規模なものが見つかっています。6000年前(縄文前期初葉)になると最も規模が大きくなり、食べていた貝の種類も多くなっています。5000〜4000年前(縄文中期)にはまた小規模になり、カキだけを食べていたことがわかっています。初めと後の小さな規模の貝塚は、湿原の東の台地だけに見つかっています。
 中部泥層と貝塚のさらに上には、1mほどの厚さの泥層と、さらに上に4mに達することもある泥炭層が、現在の表層まであります。泥炭は淡水で溜まったものです。
 これらの地層から、釧路湿原周辺の歴史が推定できます。縄文海進の時期に、湿原となるための地形ができていました。縄文時代の早期(7000〜6000年前)には浅い海水の湾となり、泥層が溜まりはじめます。縄文早期から前期(6000〜5000年前)には最も海水面が上昇し、泥が溜まるとともに多くの種類の貝も生息していました。そして豊富な貝を採る人たちも、湾の周辺に多数住みつきました。縄文中期(5000〜4000年前)には、海水面が下がりだし(海退という)、住む人や貝を取る人はだんだんと少なくなっていきます。縄文晩期(3000年前)には、湿原が陸化していったと考えられます。
 湿原となる地形のおかげで、現在も泥炭が堆積し湿原形成が継続しています。泥炭の厚さは、1〜4mとさまざまですが、湿原全体に分布しています。泥炭の厚いところは、基底部が低いところや地殻変動で地盤沈降などがおこっているところです。
 泥炭中に3層の火山灰が挟まっています。この火山灰があったことで、同一時間面が決めることができます。火山灰の中の放射性炭素(14C)による年代測定ができます。下(古いもの)から順に、325〜210cmの深さに2280年前の火山灰が、60〜30cmの深さに500年前のもの(雌阿寒から由来したMe-a3という火山灰)、35〜15cmの深さに350年前のもの(同じく雌阿寒から由来したMe-a1)となっています。
 この時間軸と泥炭中の位置(層準といいます)によって、堆積速度が見積もれます。泥炭は3000年前くらいから形成されていますが、その堆積速度は1mm/年程度でした。速い(厚い)ところもでも、1.3mm/年と計算されます。非常に、ゆっくりとしたスピードでしか堆積していきません。
 ところが、水路の直線化や農地化などの結果、湿原の植生や生態系の変化も起こってきています。保護している地域に手を加えてないとしても、水系はその地域だけで閉鎖したものではなく、上流や流域全体につながっています。湿原の再生にも取り組まれています。
 人が成した区分どおりに、植生が切り取られたまま維持されたり、生態系が営まれているわけではありません。人の生活と自然との共存、ここでも切実な問題となっています。


Letter▼ 豪雪の交通障害・来年度の調

・豪雪の交通障害・
1月からの何度も豪雪があり、
北海道、特に札幌とその周辺では
交通に大きな障害がでています。
あまりに多い積雪で、除雪や排雪が間に合わず、
道路が半分ほどの幅しかなくなっています。
我が家の家の周りでも経験したことのない
雪山の高さになっています。
バスの運休、間引き運転になっています。
今も、家の近くではバスが運休しています。

・来年度の調査・
今年になって、COVID-19のオミクロン株が、
世界、そして国内でも感染爆発が起こっています。
今年の野外調査はどうなるのか、
なかなか見通しが立ちません。
研究は止めるわけにはいきません。
来年度の競争的研究費の申請を出す時、
調査についても考えました。
野外調査ができるものとして申請しました。
ただし、道内だけでの野外調査として、
まん延防止や緊急事態など措置がとられたら、
大学や行政の指示に従うことで申請しました。



もどる