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Essay ▼ 179 仁摩:砂のカオス
Letter▼ 砂のデータ・小さな世界へ


琴ヶ浜の砂。


仁摩サンドミュージアムの巨大な砂時計。


仁摩サンドミュージアムの砂のカオス装置。


仁摩サンドミュージアム。砂は決まった高さの稜をつくる。


仁摩サンドミュージアムの砂と貝の展示。


仁摩サンドミュージアムの振り子が砂に刻むカオス模様。


仁摩サンドミュージアムの落下する砂がつくる模様。

(2019.11.15)
 仁摩(にま)は、きれいな砂浜で有名です。日本の各地に砂浜はありますが、仁摩の砂は、少々珍しい砂からできています。その珍しい砂に関する展示をしている、サンドミュージアムが仁摩にはあります。そこでカオスを考えました。


 人は、自然物に対して、どのような時に心地よさを感じるのでしょうか。生き物だけでなく、自然の造形にも心地よさを感じます。小は砂や石ころから、大は海岸線、水平線、山並み、地平線まで。そこにはかならずしも共通点があるようには思えません。同じものを見ていても、天候によって美しいと思えたり、恐ろしく思えたり、感じ方が左右されることもあります。すべての人がいいと思うものあるでしょうし、特定の人しかいいと思わないものもあるでしょう。その中で、すべての人の感動の共通項が、絵葉書になるような景色、観光地でしょうか。
 そうなってないところは、一部の人だけの興味になるのでしょう。みんながいいと思うところは、もちろん素晴らところなのですが、人が多すぎると少々興ざめをするのは私だけでしょうか。一時期流行った観光地で、今は人気がなくなっているところに、私は魅力を感じてしまいます。もちろん、そんなところばかりを選んで訪れているわけではありませんが。
 さて、美しい景色の中には、砂が重要な要素になっていることも多くあります。砂漠や砂丘、海岸の砂浜がその典型でしょう。海岸の砂浜にも、その色合いも美しさの重要な要素です。ハワイはワイキキの白い砂浜を思い浮かべますが、火山地帯では黒い砂からできた砂浜(玄武岩質の溶岩破片からできているところ)、緑がった砂浜(カンラン石を多く含む)があったりします。日本では、灰色の砂浜(火山地帯)や茶色い砂浜(堆積岩地帯)、白い砂浜(花崗岩地帯)が多いでしょうか。
 粒子のそろった細粒の砂が長くのびている砂浜は、心地良いものです。なにもない砂浜であっても、昔から子どもから大人まで、絶好の遊び場でもありました。乾いた砂で山をつくると、裾野と高さは一定しており、その高さだけを大きくすることはできません。これは砂の性質を反映しています。
 砂は、固体の粒子からできていますが、流体(液体)のような挙動をします。まるで水のように流れることがありますが、液体ではありません。液体とは異なり、山ができたり、表面の凹凸が残されたり、流体にはない性質もあります。しかし、集合体としては流体のような挙動をすることがあります。このような細粒の固体の集合物が、流体のように振る舞うものを粉粒体と呼びます。
 今年の夏の終りに、島根県大田市には仁摩(にま)という町に行きました。仁摩では、日本海に面したきれいな砂浜が広がっています。この浜は、琴ヶ浜(ことがはま)と呼ばれ、緑の林の前に白い砂浜が続く、まさに白砂青松と呼ぶにふさわしい海岸です。
 琴ヶ浜は、「日本の渚百選」と「日本の音風景百選」に選ばれています。「日本の渚百選」は、きれいな渚ですからわかるのですが、音風景に選ばれるとはどういうことでしょうか。
 波によく洗われた海岸の砂は、硬い鉱物だけた残り、粒のサイズもそろってきます。すると不思議な性質が生まれてきます。大きさと粒子の質が揃った砂で山を作ると、一般の砂より高い山になります。また、このような砂浜を歩くと、キュッキュときれいな音がすることがあります。このような砂を「鳴き砂」といいます。
 琴ヶ浜は、鳴き砂からできています。そのため、音風景百選になっています。かつて、日本には多くの砂浜に鳴き砂があったようですが、今では30箇所ほどになっているそうです。鳴き砂がある浜は、砂が綺麗に洗われていなければなりません。つまり、きれいな海岸でないと鳴らないということです。琴ヶ浜でも、海水浴シーズンになると鳴かなくなるようです。
 鳴き砂の条件は、かなり詳しく調べられてきました。0.2mmから0.6mm程度のサイズの石英の粒が多いこと、粒の形が丸いこと、ドロなどが混じらないこと、水でよく洗われていること、などが挙げられています。しかし、研究が進んできて、人工的に鳴き砂を作ってみると、必ずしも丸くなっている必要はないことが分ってきました。また、水で洗われている必要はなく、砂漠のようなところも鳴き砂がありますので、不純物がなくなるような仕組みがあればいいのでしょう。ただし、海岸の鳴り砂では、きれいな水で洗われている必要があるようです。
 琴ヶ浜の砂は、江の川を流れてきた砂が、海流で運ばれてきたものだとされています。周囲の山地を構成するのは、川合層の砂岩礫岩や久利層の泥岩、久利層のデイサイト質火砕岩などで構成されています。それらが、琴ヶ浜の鳴き砂とどのような関係があるのかは、まだ十分に解明されていないようです。
 今回、仁摩でサンドミュージアムを訪れました。そこで砂や、鳴き砂についていろいろ学びました。琴ヶ浜ですが、以前訪れた時は雨の後だったので、琴ヶ浜は鳴きませんでした。今回も、雨のために鳴きそうもありませんので、琴ヶ浜には行きませんでした。
 サンドミュージアムの訪問は2度目となります。サンドミュージアムでは、いくつかの装置に毎回見入ってしまいます。大きなオブジェがいつくかあります。定期的に回転する砂が、前回の様子が少し違っているため、次も違ってくるもの。定常的に流れ落ちる砂が、たまるところが少し異なることで不思議な動きをする装置。砂の上を重い振り子を揺らすと砂に不思議な模様ができる装置。これらは仕組みでは、砂や装置は、毎回同じ動きしたり、単純な構造なのですが。前の状態が少し異なっているため、毎回挙動が異なってきます。これは、カオスの不思議さを感じさせる装置となっているようです。私は、そのカオスに魅入ってしまいます。
 自然界では、カオスの多くは多様性に消されてしまいます。サンドミュージアムのように、砂に現れるカオスの状態だけを注目できる装置をつくると、カオスの不思議さを際立たせることができます。同じ装置内での砂の動きであっても、長時間見ていても、何度も見ても飽きないのでしょう。これがカオスの魅力ではないでしょうか。


Letter▼ 砂のデータ・小さな世界へ

・砂のデータ・
私は、砂も研究対象にしています。
砂を各地で集めています。
砂はだれもが親しんでいる自然中の素材です。
その素材を自然史として利用しようとするのが
もともとの狙いでした。
どう利用するのかというアイディアが浮かびません。
現在、700地点ほどの砂を収集しました。
その中に琴ヶ浜の砂があります。
2000年9月30日に採取したものです。
これは、博物館時代に訪れたときに
他の学芸員とともに採取したものです。

・小さな世界へ・
今回のエッセイでは、場所は仁摩でしたが、
仁摩の琴ヶ浜から、砂浜へ。
砂浜から砂の不思議な挙動へ。
そして鳴き砂に移動していきました。
砂の小さな世界に入り込んでいく旅となりました。
小さな砂が生み出す不思議な造形。
砂のカオスが生み出す魅力的な造形。
そんな世界への旅でした。



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