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127 箱根:理屈、心情、損得
Letter▼ 新知見・蒸し暑さ  


箱根の5万分の1地形図。


上と同じ範囲の5mメッシュ数値標高による鳥瞰図。青く抜けているところは、データがない部分。


上と同じ範囲の10mメッシュ数値標高による鳥瞰図。


上と同じ範囲の地形解析の地上開度図。


上と同じ範囲の地形解析の地下開度図。


上と同じ範囲の地形解析の傾斜量図。


上と同じ範囲のLandsat衛星画像。

(2015.07.15)
 箱根の大涌谷は、噴火の兆候があり、観光客が半減した、というニュースも流れました。その後、噴火レベル3に上げら、観光には大きな打撃となっています。噴火レベル変化には、理屈通りにはいかない心情と損得がありそうです。


 昨年、多くの犠牲者を出した御嶽山の噴火、今年になって口永良部(くちのえらぶ)の噴火、都圏に近い箱根の大涌谷の噴火のニュースが続いています。特に箱根の噴火によって、それまであまり気にしなかった「噴火レベル」が、多くの人の耳に届き、その意味と重要性が認知されるようになってきました。本来であれば、このような注意を促す警報は、危険を避けるための情報のはずなのですが、多くの人の心に届くのは、事件や事故があってからになることが多いようです。
 箱根は、2015年6月30日に噴火レベルが2から3に上げられました。レベル2は「火口周辺規制」とよばれるもので、火口付近への立ち力の禁止をするものです。レベル3になると、想定される火口域(今回は大涌谷)から、700mほどが立ち入り禁止となります。6月26日から30日にかけて、多数の火山性地震が観測されました。その後、地震はおさまっているようですが、まだまだ警戒が必要でしょう。この警報を発するのは、気象庁です。研究者ではなく、公官庁が発する警報です。そこには、研究のような理屈だけではすまない事情が生じます。
 まず、箱根火山です。箱根の火山の発達史を概観しましょう。
 箱根は、大きな成層火山ができ、それが陥没してカルデラを形成し、そのあと再度活動が活発化して新しい火山ができ、そこもまたカルデラを形成し、最後に中央部で火山がおこったというものでした。複雑な火山の歴史と構造を守ることがわかってきました。箱根の火山発達史モデルは、久野久(くの ひさし)という有名な火山学者が提唱したものです。
 科学は進歩しますので、箱根の火山の研究も進んでいます。久野氏のモデルも修正されてきています。最初の大きな成層火山というものは存在せず、いくつかの成層火山が存在していたことが明らかになっています。また、カルデラ形成も、大規模な陥没を伴うような噴火が起こったとされていましたが、そんな地下構造はないことから、カルデラをつくような大規模な噴火はなかったことがわかってきました。
 箱根の火山活動は、規模も場所も、活動期間も、非常に複雑であることが明らかにされてきました。その複雑さは、タイプの違う火山活動が、同じ場所で繰り返されてきらからです。
 激しい火山活動の多くは、65万年前から4万5000年前までで、その後は小さな噴火活動になりました。一番最近の噴火は、鎌倉時代(12世紀後半から13世紀)だとされています。火山灰の年代測定がその根拠となっています。鎌倉時代の箱根のことですが、きっと人が見ていたはずです。でも残念ながら、噴火の記録はまだ見つかっていません。
 通常火山噴火の予知は、火山学の一般的知識をもとに、それぞれの火山固有の記録(過去の火山活動データ)からなされます。もっとも重要なのは、それぞれの火山における過去の噴火の歴史です。いつも同じパターンで噴火する火山なら、次回の噴火もそうであろうと予知され、その信頼度は高いでしょう。箱根は、タイプの違ういくつもの火山が、複雑な噴火をしているところです。複雑な噴火をする火山では、予知は難しそうです。
 複雑な火山活動では、いろいろな可能性を考えて警戒をするしかありません。では、注意を促すために出された噴火レベルを守れば安全かというと、そうでもありません。それは火山噴火史の複雑さを考えればわかります。パターン化されていない噴火では、次の噴火がどのようなものかは、予測不能だからです。一般論の理屈でできる限りの警戒をすすめるしかありません。
 警報が出されると、観光産業は大きなダメージを受けます。たとえ観光施設が立ち入り禁止地域に入っていなくでも、噴火レベルが上がったりすると、危ないものには近づきたくない、という人の心情が働きます。私は、これは不評被害ではなく、正しい行動だと思います。噴火レブルが上がるということは、危険性が増えたことになります。火山予知の難しさを考えればわかることです。理屈に合った心情的な行動ですから、やむなきことでしょう。
 日本は火山国で、噴火の被害とともに、温泉や景観などの観光資源という益も得ています。箱根はまさに火山観光で成り立っている地域です。そこには、火山の恩恵によって暮らしを立てている人が多数いるわけです。噴火レベルが上がると、観光施設には大きなダメージがでます。
 単純に安全だけを考えるのなら、早めに、広めに警戒をしておいたほうがいいはずです。そうもいかないのは、箱根が大観光地で、そこには大きな利害関係が発生するからです。
 火山だけでなく、自然災害への対策、警戒など全般に対して、同じような課題があります。人のいないところであれば、安全対策など必要でありません。危険を承知で調べに行く研究者やメディアの人に、ただ注意を促せばいいのです。彼らは危険は承知しいるはずですから、自己責任で対処するはずです。しかし、人の居住地域になると、急に問題が複雑になります。まして多くの人が住む所であれば、なおさらです。
 一方、立ち入り禁止区域の外だから安全だと思ってしまう人がいますが、それは大きな間違いです。なぜなら、火山学や自然科学は、火山や自然の仕組みを、まだ解き明かしているわけではないからです。火山がいつ噴火するのかは、まだまだ完全な予知はできません。それに火山ごと、地域の自然ごとに個性があり、その個性をひとつひとつ解き明かすまでにはいたっていません。
 噴火レベルにの見える迷いは、理屈ではいかない科学者の迷いでもあります。観光する人の心情での迷いでもあります。観光に携わる人たちは、自分たちの身の危険を考えながらも、観光客の回復を願っています。さてさてこのような理屈、心情、損得がからむ問題の落とし所は、どこにあるのでしょうか。


Letter★ 新知見・蒸し暑さ

・新知見・
久野久先生は東大の教員で、
世界的にも有名な地質学者でした。
本来なら箱根は地の利もいいので、
もっと多くの研究者が新しい調査研究をして
つぎつぎと成果が出ていてもよいはずなのですが、
なかなか進みませんでした。
一つには久野先生が偉大すぎて、
それを越える研究がなかなかしづらい
という先入観があったのでしょう。
しかし、最近、神奈川県立生命の星・地球博物館や
隣接する温泉地学研究所などの研究者が
調査を進め成果を挙げてきました。
その結果、上での述べたような
新しい知見がでてきました。
調べればもっといろいろ分かるはずです。
今後の進展に期待したいものです。

・蒸し暑さ・
北海道は、不順な天気が続いています。
先日まで、北海道らしい快晴が数日あったのですが、
急に蒸し暑くなり、どんよりとした天気になったりします。
先日も蒸し暑い夜があり、熟睡できないことがありました。
まあ、今のところ一日だけですが、
それでもぐったりとなります。
もちろん大学も冷房やエアコンはナシです。
北海道はカラッとした青空がウリなのですが、
北海道の人は、暑さ、それも蒸し暑には弱いです。
特に我が家のように暖房だけで、
エアコンのない家は、窓を開けるしかありません。



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