もどる


画像をクリックすると大型の画像が見ることができます。
ただし、大きなファイルの場合がありますので注意ください。

Essay ★ 109 天鳥の褶曲:嫋やかな褶曲
Letter★ フェニックス・入試


天鳥の褶曲の位置。2万5000分の1地形図。


天鳥の褶曲の位置。GoogleMapの航空写真。


天鳥の褶曲の位置。Landsatによる画像。


天鳥の褶曲。


天鳥の褶曲の近接写真。


天鳥の褶曲の遠景写真。


天鳥の褶曲の反対の褶曲。


天鳥の褶曲の東側のS字褶曲。


天鳥の褶曲を反対から見た景観。


東にある黒崎の褶曲の一つ。


東にある黒崎の切り立った地層。


東にある黒崎の褶曲の一つ。


東にある黒崎のみごとなリップルマーク。


天鳥の褶曲全景のパノラマ写真


天鳥の褶曲周辺の地形解析の地下開度図。


天鳥の褶曲周辺の地形解析の地上開度図。


天鳥の褶曲周辺の地形解析の傾斜量図。

(2014.01.15)
 和歌山県すさみ町の海岸に、地質学や地元では有名な褶曲があります。海岸沿いを進んで、なんとかたどり着いた嫋やかな褶曲には、感動の覚えるとともに、大地の穏やかな変動を感じることができます。


Essay ★ 109 天鳥の褶曲:嫋やかな褶曲

 和歌山県西牟婁(にしむろ)郡すさみ町の口和深(くちわぶか)の海岸沿いに、みごとな褶曲があります。かつては、一部の地質学者や釣り人しか知らなかった地質の見どころだったのですが、教科書にも写真が紹介されたことで、有名になりました。私の地質学の論文で写真はみていたのですが、実物を一度は見ておきたと思っていた、有名な褶曲でした。
 ほぼこのあたりという場所はわかっていたのですが、厳密な位置は不明で、アプローチのルートもよく知りませんでした。国道42号線から海岸に降りればいいはずなので、海岸の崖に道路から褶曲が見えたので、この辺りかと思ったので海岸まで降りて行って、岩場を濡れながら進んでいったのですが、写真で見た褶曲はなく、行き止まりになっていました。場所が違っていたのです。
 気を取り直して、再度チャレンジするために、昼食を買いに近くの店に入りました。そこのご主人に話しを聞いたら、幸いなのことに、釣りでよく行くそうで、場所も知っておられました。海岸に下りるポイントをしっかりと聞きました。その位置さえわかれば、歩きやすい踏跡が海岸までついていました。
 海岸に降りて、大きな岩を回りこめば、褶曲があります。私が行った時は、台風の余波で、海岸の波が高く、風も強い日でした。波の合間をはかって渡るところがありましたが、なんとか目的の海岸にでることができました。案内には、波が高い時は行けませんと書いてありますので、注意が必要ですが、目的の褶曲の地点にたどり着きました。
 そこは、小さな岬状に海に突き出たところで、平らな海食台のような地形になっています。そこから陸側をふり返ると、みごとな褶曲がみえます。これは「天鳥(あまどり)の褶曲」とよばれています。天鳥地区にある褶曲なので、そのように呼ばれています。なかなかいい名称です。
 5mほどの高さに垂直に切り立った崖に、きれいな褶曲がでています。わやらかな褶曲ですが、よく見ると不思議な光景です。褶曲を形作っている岩石は、砂岩です。今は固い岩石ですが、みごとなカーブを描いて曲がっています。非常に嫋(たお)やかな曲がり方に見えます。
 天鳥の褶曲は、南東側に倒れています。砂岩を主とする地層ですが、詳細にみると、複雑な構成になっています。褶曲の中心部分には泥岩の少し多いところがあり、外側に砂岩の中に、薄い泥岩が地層境界に少し見られます。褶曲の先端でも砂岩は割れることなく、丸くきれいに曲がっています。
 天鳥の褶曲は一つではなく、すぐ上(地層の上盤といいます)には反対方向に倒れたもの、さらに上方(地層としては天鳥の褶曲の南東延長になるようです)には反対に倒れた褶曲があります。
 これらの褶曲の下(地層の下盤)は、海水面に近いところは、波の侵食を受けて窪んでいます。そこには泥岩の多い地層があったのですが、侵食されてなくなっています。露頭の上の方に、その延長部分が残されています。赤茶けた砂岩ととにも泥岩の多い地層が見えます。
 泥岩の多い地層のさらに下盤側には、いったん整然とした砂岩の多い地層が続くのですが、すぐにまた褶曲した地層が出現します。この褶曲は、複雑に曲がりくねり、一部S字に見えることから「S字褶曲」と呼ばれているものです。
 「天鳥の褶曲」から海食台を挟んで反対の海岸に突き出たところには、砂岩が一層だけが残った褶曲の一部があります。この奇異な形状をしていて、ひらかなの「つ」の逆さにした形になっています。「つ」の内がは、まるでベンチのように腰をかけるのにちょうどいい平らな面がでています。右手に持ち上がったところは、地層の内側がみえていて、そこにはリップルマークがみえます。
 リップルマークとは、海底に地層が堆積した時、波の作用で表面に波模様ができたものです。漣痕(れんこん)と呼ばれています。海底面にできた漣痕が、次にたまった堆積物よって覆われたものです。海食台の平らなところにも、侵食は受けていますが、リップルマークの名残りがみえます。
 さて、この付近には、褶曲した地層が上下方向、水平方向にいくつも繰り返しているようです。褶曲している地層の岩石が割れていないことから、地層が完全には固まっていない状態で曲ったことになります。上下の地層は整然としているのに、ある地層部分だけ褶曲しているようなものを、スランプ(slump)褶曲、あるいは単にスランプといいます。
 スランプ褶曲は、完全には固まっていない一連の地層が、何らかの原因(地震など)で、ある地層の上をすべって移動したとき、移動した地層だけが曲がりくねった状態になることがあります。その上に、地層がたまると、整然と地層の間にある部分だけが激しく褶曲した地層が挟まれている状態ができます。そのため、スランプを層間褶曲とよぶこともあります。
 この岬から東にいくと、もっとスランプ褶曲がみえるはずなのですが、潮が引いておらず、波をかぶっているので、それより先に進むことができませんでした。次の機会に、ここより先を見てみたいものです。
 天鳥の褶曲の周辺は、多数のスランプがあり、スランプ帯というべきところです。この地層ができた場は、次々と各地でスランプを形成するほど非常に変動の激しかったところだと考えられます。ところが、スランプ帯は、必ずしも大地の激しい変動の場ではないのです。
 天鳥の褶曲を作っている地層は、牟婁(むろ)層群に属しています。四万十帯の一部になります。四万十帯は、付加体として形成されたもので、沈み込む海洋プレートの陸側にできた、列島に固有の地質体です。
 日本列島には、四万十帯だけでなく、もっと古い陸側の地質体も付加体が多数あることがわかっています。日本列島の骨組みは、付加体によってできているといってもいいくらいです。付加体の代表的なものとして、四万十帯が挙げられます。
 四万十帯は、古いもの(北側)から日高川層群、音無川層群、牟婁層群となり、牟婁層群はもっと新しい付加体からできています。牟婁層群は、パレオジンから中新世初期(約5000万年〜1500万年前ころ)の地層が付加体したものだと考えられています。
 音無層群は深い海溝にたまった堆積物(海溝充填堆積物と呼ばれています)が付加したものであるのに対し、牟婁層群は浅いところでできたものが、激しく変動をうけることなく付加したものだと考えられています。付加体にも、激しく変動を受けたものもがあるのです。
 牟婁層群は、スランプが多数形成される程度には変動を受けていたのですが、海溝から陸よりで浅かったため、断層で地層がバラバラにされる(メランジュと呼ばれています)ことがほとんどなく、大陸斜面(正確には前弧海盆堆積物と呼ばれています)にたまった堆積物が、スランプを形成しながらもそのまま付加しました。牟婁層群は、昔の大陸斜面の「穏やかな」堆積と変動の付加体の記録といえます。
 天鳥の褶曲に感じられた嫋(たお)やかさの裏には、大地の「穏やかな」変動の記録があったのです。海の荒さに負けることなくたどり着いた先に、今も変動の記録を残している大地の営みを見ました。


Letter★ フェニックス・入試

・フェニックス・
本年最初のエッセイの地は、天鳥の褶曲です。
天鳥という名称から、
一部の地質学者は、
フェニックスの褶曲(Cliff Phoenix)と
呼んだこともあるようです。
海外の研究者向けの英名として使われたようですが、
定着していないようです。
私は、もともとの地名をいかした
「あまとり」がいいと思いますが、
いかがでしょうか。

・入試・
いよいよセンター試験の時期となりました。
高校はもとより、
大学も慌ただしくなります。
大学の一般入試の受付はもうはじまっています。
センター試験が終わり2月になれば、
大学の一般入試が始まります。
1月で後期の講義は終わるのですが、
落ち着かない日々が続きます。




もどる