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Essay ★ 94 焼岳:主稜線上の火山
Letter★ 巡検・上高地再訪


焼岳から登る噴煙。


焼岳周辺の5万分の1地形図


上と同じ範囲の地上開度地形解析図。焼岳の山体崩壊の部分がよく見える。


上と同じ範囲の地下開度地形解析図


上と同じ範囲の傾斜量地形解析図。焼岳の山体崩壊の部分がよく見える。


焼岳の西側(新穂高温泉)からの景観。


焼岳の西側(新穂高温泉)からの景観。


焼岳へ展望台からロープウェイを振り返る。


焼岳の東側(上高地)の崖の景観。


焼岳の東側(上高地)の景観。


火山噴出物の崖。


焼岳の西側からの画像合成によるパノラマ。

(2012.10.15)
  北アルプスの主稜線をなす焼岳を見にいきました。予定通り、飛騨側から間近に眺めることができました。稜線上の安房峠からも眺めるつもりでしたが、予定を変更しました。信州側のから焼岳を眺めることにしました。


Essay ★ 94 焼岳:主稜線上の火山

 9月9日から野外調査にでました。最近、大学の校務が非常に忙しくなり、1週間の調査期間をとるのがやっとでした。校務が厳しいほど、気分転換も必要だと思って、忙しさの隙間を縫って出かけました。準備もほどほどに、9月9日、千歳空港から富山空港に飛びました。富山空港からは、レンタカーでの移動です。
  私が調査に出るときは、その地域で主にみたい地質の地点を決めて、それらをめぐるコースを決めて、日程にあわせて宿泊する宿を決めます。しかし、事前準備も、コースの様子も詳しく調べません。天候に左右されることもあるし、あまりコースを決めすぎると、無理してめぐってしまったり、予定外の見所や、思わぬ発見があっても、融通がきかなくなるからです。なんといっても先入観を持たないで、実物をみたいということがあります。ですから、最低限の情報しか収集しません。
  最初の目的地は、北アルプスの焼岳(やけだけ)を見ることでした。もともと登ることは予定していません。見るだけです。ですから、西側(新穂高温泉側)の眺めのいいところからと、できれば安房峠の稜線から見れればと思っていました。時間や天候、交通手段に都合で、安房峠を行くか安房トンネルをいくか悩ましいところでした。まあ、現地で決めるつもりでした。上高地は当初、予定していませんでした。以前にもいったことがあるからです。
  飛騨側から焼岳を見るために、岐阜県飛騨市神岡の宿をたって、新穂高温泉のロープウェイの駅に向かいました。平日でもあり、朝一番であったこと、紅葉には早く行楽シーズンとはずれていたので、道路は空いていました。しかし、海外からの団体客がバスで来ていたので、ロープウェイはかなり混んでいました。
  ロープウェイの終点は西穂高への登山口にもなっていて、展望台もあります。展望台からの眺めはいいのですが、周囲を散策したのですが、木々があり展望が開けていません。展望台からの眺めがベストです。いった日は、あまり天気がよくなく、山には雲がかかって北側がよく見えませんでした。ですから穂高や槍ヶ岳を眺めることはできませんでした。しかし、展望台から東から南方向はよく見えました。目的である焼岳は間近に見ることできました。噴気も明瞭に見ることができました。
  北アルプスは、飛騨山脈のことで、南の乗鞍岳から北に焼岳をとおり、穂高連峰から槍ヶ岳、烏帽子岳までが主稜線となります。そほこかに、立山連峰、後立山連峰、常念山脈などの山並みになります。焼岳は、主稜線の一部となっています。そして、アプローチのいい地となっています。
  焼岳は、周辺に分布する火山群の一つであり、焼岳火山群と呼ばれています。安房(あぼう)峠(標高1790m)の北に位置するアカンダナ山(標高2019m)から、白谷(しらたに)山(標高2188m)、大棚(おおだな)山、焼岳(標高2455m)山、岩坪(いわつぼ)山(標高1899.5m)、割谷(わるだに)山(標高2224m)の火山からなります。
  もちろんは主峰は、最高峰である焼岳です。焼岳は、信州(長野)側での呼び名であって、飛騨(岐阜)側では硫黄岳と呼ばれていました。しかし、近年では焼岳が定着しています。
  焼岳火山群の中で、焼岳とアカンダナ火山では、噴火の記録も残っており、活火山になります。
  アカンダナ火山は、1万年前よりあとに活動を始めました。この噴火によってたくさんの噴出物がでたため、山体が崩れて地すべりが起こりました。山頂の溶岩ドーム(アカンダナ円頂丘溶岩)と溶岩流(安房谷溶岩や安房峠溶岩)が見つかっています。さらに、6500年前までの活動によって、川がせき止められて、平湯の東にある安房平に湖ができました。
  アカンダナ山は、2003年に活火山の見直し作業で、1万年前以降の火山活動があったことがわかったので、焼岳とは区別して活火山に指定された。
  焼岳は、約2万年前から活動を開始し、現在も活動中の活火山です。溶岩ドームと溶岩流、それらの崩落に伴う火砕流堆積物が見つかっています。岩屑なだれ(黒谷岩屑なだれ堆積物)が起こったこともわかっています。
  焼岳は、マグマが噴出したのは約2300年前です。この時の噴火は、上高地側から見える焼岳の部分や山頂の溶岩ドーム(焼岳円頂丘溶岩)ができました。周囲には、火山噴出物(中尾火砕流堆積物)がゆるやかな傾斜ができました。岐阜側の中尾温泉は、この火砕流の上にできています。
  焼岳は、20世紀初頭(1907年から1939年にかけて)になって、激しい噴火をとなう活動を何度もしました。その後、1962年から翌年にかけて噴火では、焼岳の小屋が噴火で壊れて、小屋番をしていた数名が大けがを負いました。この噴火では、松本市でも火山灰が降りました。また、安房トンネルの工事に関連した道路工事で、中の湯で1995年に水蒸気爆発が起こり、その直後に泥流が発生して、作業員4名が亡くなっています。
  焼岳の東側は、一大観光地である上高地が広がります。上高地の景観に、焼岳は少なからず影響を与えています。
  焼岳の東のすぐ下には、上高地から流れる梓川(あずさかわ)があります。上高地から大正池までのゆったりとした流れが、そこより下流では急峻な地形となります。そのような大きな変化は、焼岳の噴火によってできました。
  焼岳が噴火して、東に噴出物が流れると、梓川をせき止めることになります。有名なのは、1915(大正4)年の噴火で、現在の梓川がせき止められて、現在の大正池ができました。また、1962年や1995年の噴火でも、梓川を一時的ですがせき止めました。大正池のたおやかさは、焼岳の荒々しさによってできたのです。
  焼岳は、規模は小さいですが、噴火を続けている活発な火山です。現在も山頂からは、噴気が出ています。
  午前中は焼岳を西側からみました。午後は、悩んだ末、レンタカーを平湯の駐車所にとめて、バスで安房トンネルを通り、上高地にいきました。その途上に焼岳を東側から眺めました。そして、車窓から焼岳の姿を眺めました。
  観光地として有名な大正池ですが、その名称は、大正4年の焼岳の噴火によってできたからです。今も噴気を上げている荒々しい焼岳が、大正池の西側に峻立しています。上高地に向かう険しい道も、焼岳の火山噴出物によるものです。北アルプスの奥深く上高地にも、火山があるのです。上高地の観光客や登山者のうち何人が、火山の存在に気づいているでしょうか。
  上高地を見学した後、バスで平湯にもどりました。レンタカーで再度安房トンネルを通り、焼岳のふもとの中の湯温泉に泊まりました。残念ながら、翌日は雨で、焼岳をもう眺めることはできませんでした。


Letter★ 巡検・上高地再訪

・巡検・
ある地域の地質を見て回ることを巡検と呼んでいます。
学会などでは、その地域を研究している地質学者が
案内者となって、めぐることが多いのですが、
私は、主に一人で巡検しています。
このエッセイでも何度か紹介したかと思いますが、
私は、代表的な地質の現場で、
事前に資料を集めることなくでかけます。
それは、先入観なしにじっくり眺めてたいと
考えてのことです。
帰ってきてから、資料を収集します。
まずは、個人で心ゆくまで
眺めていることにしています。
効率は悪いのですが、
新鮮な味わいができます。
見逃した場所やもっと優先度が高いところもあったりもします。
でも、そんな場がいくつもあるのなら、
再度そこに行けばいいだけです。
富山には何度がいっていますが、
今回のコースを富山からはじめたのは、
そんな見残しがあったからです。
もちろん、今回もいくつか見残していますが。

・上高地再訪・
実は今回の調査には、上高地の訪問は
予定に入っていませんした。
もともと、安房峠を通って、焼岳を眺めたいと考えていました。
しかし、山並みを見るには天気も悪そうだし、
トンネルも通りたいしというので、
午後は思い切って予定を変更して、
上高地に出かけることにしました。
翌日チャンスがあれば、
安房峠に戻ることも考えていましたが、
残念ながら雨でした。
まあ、次の機会ということで。



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