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Essay ★ 57 二股ラジウム温泉:ミニの風格
Letter★ 地形でもミニ・効能


石灰ドームの表面に見られるリムストーン。ただし、小さいサイズである。


噴火湾上空から長万部後方を見たもの。数値地図による3Dの鳥瞰図。


二股ラジウム温泉の位置。


昔のリムストーン。現在は、温泉が流れていないので、表面が灰色にくすんでいる。


石灰ドーム。


石灰ドームの表面に見られるリムストーン。


石灰ドームの表面に見られるリムストーン。やや大きいサイズものが奥にある。


地形解析による地下開度。


地形解析による地上開度。


地形解析による傾斜量。


温泉宿の向こうに石灰華のドームがある。


上の写真の宿を反対側に回ったところ。


そこには、温泉をひくパイプがある。


そのパイプの沸きでもリムストーンがみることができる。


温泉宿に上る途中の崖。これも、もとは石灰華であったが、今では草に覆われ、よく見えなくなっている。


二股ラジウム温泉。

(2009.09.15)
  北海道の長万部の町からはずれた山奥に温泉があります。この温泉は、観光客もあまり訪れない鄙びたところですが、世界に誇れるほどの温泉があります。でも、それは、一番を誇るのではありません。ミニの風格を誇っているものでした。

Essay ★ 57 二股ラジウム温泉:ミニの風格

 2009年8月初旬、道南の島牧(しままき)というところに向かいました。本来なら、国縫(くんぬい)で高速道路を降りて、今金(いまがね)経由で行くのが早いのですが、長万部(おしゃまんべ)で高速道路を降りました。少々遠回りになりますが、黒松内(くろまつない)経由で行くことにしました。それは、途中にある二股(ふたまた)ラジウム温泉を訪れるためでした。
  二股ラジウム温泉は、長万部の北西の山奥にある小さな一軒屋の温泉宿です。地の利がないせいでしょうか。ひなびた温泉地という趣があります。でも、夏の暑い平日でしたが、何組かの湯治客がおられました。また、温泉に入るわけではなく見学に来ている観光客も、私以外に一組おられました。なぜか、物怖じしない痩せたキタキツネも、一匹うろついていました。
  私がなぜ、温泉を見に来るのかというと、ここでは地質現象として、面白いものが見られるためです。
  長万部の二股ラジウム温泉は、炭酸カルシウムを多く含でいます。そのため、温泉が流れた後には、石灰分の沈殿が形成されます。長期にわたって自噴している温泉であるため、流れた後に石灰華(炭酸カルシウムの沈殿物のことで、湯の華と呼ばれるもの)が、大量に形成されています。温泉が地上に噴き出しているため、鍾乳洞でみられるようないろいろな形態の沈殿物が、地表で見ることができます。
  温泉が穏やかにゆっくりと流れるとき、沈殿ができるのですが、条件によって水溜りつくりながら、流れることがあります。このようなとき、水溜りの仕切り部分が盛り上がって百枚皿や棚田のような形態をつくることがあります。このようなものをリムストーン(rim stone)、水たまりをリムストーンプールといいます。地下深くにあるはずの形態が、ここでは陽の下で見られるのです。
  秋吉台やマンモスでは、リムストーンがメートルサイズのものもありますが、ここでは一桁小さいものになります。数も、それほどたくさんありません。でも、遠めでもはっきりとわかるものが、確かにあります。ただミニなだけです。形成機構から考えれば分かりますが、鍾乳石や石筍はありませんので、誤解のないように。
  宿のすぐ脇では、温泉が、高台から沢にむかって崖を流れ下っています。湯量は少ないのですが、流れにそって長年沈殿してきたため、石灰ドームが大規模に形成されています。温泉宿があるため、少々見学しづらいですが、なかなか見事なものがドームがみられます。
  長万部の二股ラジウム温泉と同様のものが、アメリカのイエローストーン国立公園のマンモスにもあります。マンモスには、1993年と1999年に2度いったことがあります。最初の訪問では、マンモスの石灰華は、規模が大きくて、感動したのですが、2度目にいった1999年には、どうも温泉が枯れてきていたようで、以前のような見事な白ではなくなって、くすんできていました。残念なのですが、これも自然の営みなのでしょう。
  幸いなことに、二股ラジウム温泉は、まだ十分な湯量があるようです。奥まった秘湯ともいえるこの地で、世界に冠たる温泉があったのです。
  マンモスと比べれば、二股ラジウム温泉のものは、茶色の沈殿物であるのと、露出している部分の規模が小さいので、見劣りがしました。しかし、二股ラジウム温泉付近の沈殿堆積物は、実は大部分は河床にでていて見えにくくなっているのです。長さ400m、幅200m、厚さも25mほどもある大規模なものです。その規模は、世界一ではないですが、マンモスに匹敵するほどでしょう。
  温泉宿付近では、現在も沈殿がおこっており、流路に当たっているところでは沈殿物が見えています。その周辺が草に覆われて見づらくなっています。そのため、規模が、実際より小さく見えてしまいます。全貌の一部しか石灰華が見えませんが、それでもなかなか見事なものです。北海道の天然記念物にも指定されています。
  この温泉には、石灰の含有量が多く、沈殿のスピードが早いようです。ビンを一ヶ月ほど温泉につけておくと、石灰分を表面に付着してしまうほどです。茶色い石灰を沈殿させたビンが、置物や一輪ざし用として、宿の売店で販売されています。
  二股ラジウム温泉は、その名称のとおり、ラジウムをたくさん含んでいます。ラドンやラジウムの放射線濃度は、マッヘ(mache)という単位で、M.E.という記号で示します。少々聞きなれない単位ですが、SI単位系では、約1.33×104Bq/Lとなります。ドイツの物理学者であるハインリッヒ・マッヘ(Heinrich Mache)に因んでつけけられています。
  ラドンも、ウラン(238U)が崩壊して、ラジウム(226Ra)になり、さらにラジウムが崩壊して、ラドン(222Rn)になります。ですから、多くの放射線の温泉は、ウランを起源とするものです。ラドン温泉もラジウム温泉も同じ起源のものです。ラドンは、質量数が大きいのですが、希ガスの仲間です。希ガスは反応しにくいのですが、ラドンは水に溶けやすく、温泉に含まれます。ラジウムは放射線を出す元素で、少量であれば、放射線を浴びると、実害はなく、人間の健康に対して効能があるようです。
  日本には、ラジウムやラドンを含む温泉が各地にあります。日本のラジウム温泉には、玉川温泉(秋田県、0.76マッヘ)、三朝温泉(鳥取県、32マッヘ)、増富温泉(山梨県、世界一のラドン含有量730〜0.2マッヘ)、有馬温泉(兵庫県神戸市、167〜0.5マッヘ)、るり渓温泉(京都府、52〜8マッヘ)などがあります。
  二股ラジウム温泉の放射線量は、5.47マッヘです。最大の増富温泉と比べれは、2桁小さいミニというほどの量です。でも特別少ないわけでもなく、それなりの線量はあるので、放射線による効能も期待できるようです。
  昼過ぎの見学だったのと、余りの暑さのため、私や温泉には入りませんでした。宿の外には、蛇口から温泉が出しっぱなしだったので、味わってみましたが、炭酸特有の酸味ありました。
  二股ラジウム温泉は、鄙びた温泉宿で、知る人ぞ知るところでしょう。でも、客は少なく宿もミニサイズです。沈殿物がつくるリムストーンも小型で小規模です。石灰華の量は、マンモスでありませんが、巨大さを隠しているミニでした。放射線量は国内最大ではありませんが、十分な効能を得られるほどの線量はありました。二股ラジウム温泉は、マンモスでありませんが、ミニなりにそのよさを十分もっているとこでした。このまま、ミニの風格も維持してもらいたいものです。


Letter★ 地形でもミニ・効能

・地形でもミニ・
今回は、夏の北海道のすがすがしいものを
紹介しようと思ったのですが、
今年は、なかなかいく余裕なく、
天候が悪かったので、予定通りには
外へでれませんでした。
ですから、前回の賀老の滝の直前に訪れた
二股ラジウム温泉を紹介しました。
これはこれで、地質現象としては、
なかなか面白いものなのですが、
地形にはなかなか現れない規模です。
まあ、それもミニの風格だと思い、
今回、紹介することにしました。

・効能・
ラジウム世界一の増富温泉はいったことがないのですが、
三朝温泉には、5年間すんでいました。
そして毎日温泉に入っていました。
ラジウムの効能を用いて温泉治療をしている病院もあり、
私は、その付属の研究所にいました。
そのため施設内の職員用の温泉があり、
清掃時以外は24時間入れる施設がありました。
後輩の女性大学院生がいたのですが、
温泉に入りだしてから、黒い髪が、やや茶色がかりました。
しばらくすると、色の変化もストップしましたが、
黒には戻りませんでした。
この髪の色の変化は、放射線の影響でしょう。
もちろん、体調に異常をきたしてはいません。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の数値地図200000(地図画像)、
数値地図50000(地図画像)、
数値地図25000(地図画像)、
数値地図250mメッシュ(標高)、
数値地図50mメッシュ(標高)、
数値地図10mメッシュ(火山標高)及び
基盤地図情報を使用した。
(承認番号 平21業使、第53号)」

解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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