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講 義■ Lec 016(その3)予測:未来を考える
掲示板■ あと少し・根雪


 未来予測の方法について前回まで見てきました。今回は、未来予測するときに重要なことについて見ていきます。


▼ 講義ファイル
・Lec016_3の講義ファイル(講義時間 20:51)
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倍速用(ファイルサイズ 8.9MB)


講 義■ Lec 016(その3)予測:未来を考える

▼ 重要なこと
1 常識にとらわれないこと
  未来予測するときに重要なことがあります。それは、この講義「Terraの科学」の最初に示した考え方でもあります。
  重要なのは、常識にとらわれないことです。常識からは、新しい大発見がなかなか生まれてきません。常識的に考える人がたくさんいるので、常識的な考えは常識人にまかせておけばいいのです。少なくとも、自分がもっとも大切だと思っていることでは、自分なりの証拠や根拠に基づいて、自分が納得できる考え方、筋道、論理で結論を導き、その結論を信じて、進むことが大切です。
  こんな例をみてきましょう。地球温暖化という現在話題になっていることです。地球温暖化は、前回の講義で、「理論予測あるいは経験予測」だといいました。多くの研究者は、地球温暖化はもう常識的な未来だと思っています。その一つには、権威ある研究者組織(IPCC)が、「理論的に」予測した未来だから正しいという常識があります。
  その予測の重要な根拠となっているのは、ハワイのマウナロアでの大気中の二酸化炭素の濃度の観測データです。この値は年々増えています。これは事実です。そして大気中の二酸化炭素は温室効果ガスであるというのも事実です。この2つが合わさって、地球は温暖化しているという未来予測がでてきました。
  しかし、温暖化効果ガスとして水蒸気のほうが圧倒的に多く、その挙動は不規則でなかなか予想できません。温室効果の97%以上は水蒸気によるものだとする説もあります。また、二酸化炭素の地球規模の循環やその滞留時間、そして平均気温と変化との因果関係は、まだ科学的に十分解明されていません。二酸化炭素の平均気温の関係はよくわかっていませんし、地球の平均気温上昇が本当に起こっているかどうかという点でも、研究者の間で一致はみていません。
  マウナロアの観測データは、約50年分です。いろいろなデータや理論を用いていますが、正確な観測データの過去100年程度のデータから、2100年(つまり100年後)の温暖化を予測しています。100年後の予測がどの程度確かでしょうか。統計上、計算上は、確かさを示すことができるかもしれませんが、その統計や計算は、いろいろな仮定の上ででるものです。仮定に含まれる不確かさは、なかなか見積もることは困難です。そして、なんといっても、本当にそうなるかどうかは、誰もわかりません。
  少なくとも温暖化という現象を認めない研究者もいることは確かです。ですから、だれも納得できるような地球温暖化と二酸化炭素の因果関係は、まだ解明されていないということです。その程度の未来予測であるということを理解しておく必要があります。
  常識にとらわれなければ、このような視点もでてくるのです。

2 科学的に考えること
  もうひとつ重要なことがあります。それは科学的に考えるということです。科学的であれば、どれも同等と価値があるはずです。さまざまな素材やデータを持ち、自由に寄って、さまざまな考えを示して考えるべきです。
  たとえば、先ほどの地球の温度の変化を、時間スケールを変えてみると、さまざまなパターンが見えてきます。
  1億年のスケールで考えると、「暗い太陽のパラドックス」というものがでてきます。「暗い太陽のパラドックス」とは、太陽が恒星として進化していくと、太陽の核融合の理論から、太陽光度が大きくなることがわかっています。それが、地球環境に大きな影響を与えることを最初に指摘したのは、カール・セーガンとミューレン(Sagan & Mullen, 1972)でした。
  もし、今より太陽が暗かったのなら、地球は20億年前より前の時代は、表面はすべて凍結していたはずです。ところが、地球には38億年前より海が存在していました。これはパラドックスです。このパラドックスを解くには、地球の大気組成が、時代と共に変化してきたと、考えればいいのです。温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の大気成分が変化してきたのです。二酸化炭素が時代と共に減ってきたと考えれば、解決できます。
  現在は、二酸化炭素が非常に少ない状態です。20億年前以前は、二酸化炭素の温室効果で、暗い太陽を補っていたのです。20億年以降から現在は、二酸化炭素を減らすことによって、太陽の暑さをしのいでいるのです。今までは、二酸化炭素の減少で、明るくなる太陽の効果を克服していたのですが、これからは、もっと暑くなるのですが、それを冷ますための二酸化炭素削減は、もう限界なのです。億年のタイムスケールでは、太陽光度は、上昇していき、地球は暑くなり、生物が住めない環境となるかもしれません。これも理論予測です。
  1000万年のスケールで考えると、古第三紀初期(約5500万年前)から、地球の気候は寒冷化の一途をたどっています。この寒冷化は、現在も進行中です。これは経験予測です。地球温暖化というのは、長い地球の歴史から見れば、ほんの小さな一時的な事件に過ぎないかもしれません。しかし、過去の歴史から見ていくと、寒冷化傾向は、続いていく可能性があります。寒冷化の原因として、プレートの生産速度の低下で、火山活動が衰え、火山によって大気に持たされる二酸化炭素の量が減り、二酸化炭素の温室効果が低くなったため、と考えられています。もしこの原因が本当なら、理論予測として、今後寒冷化はつづくことになります。
  10万年のスケールで考えます。温度の変化と二酸化炭素の濃度の変化は、少なくとも過去50万年間は、連動しながら、周期的な繰り返しが起こっていることがわかっています。周期性があることは、過去の歴史をみると、経験予測できます。もしかしたら、現在の温度の上昇も、二酸化炭素濃度の上昇も、気候変動の周期の一つに過ぎないのではないでしょうか。経験予測から、そのうち寒冷化に向かうといっても、ありうる未来予測といえるでしょう。
  1万年のスケールで考えると、ここ数千年ほどは、温度が高い時期といえます。温度変化と二酸化炭素の濃度変化は、このスケールでも連動しているようにみえます。ですから、数千年のスケールで考えると、将来寒くなるという経験予測が可能です。二酸化炭素は、人類の影響がないころから、つまり人類の化石燃料の使用がない時代から、自然界の何らかの原因で変化しているのです。その時代の二酸化炭素の増加の原因はなんだったのでしょうか。まだ不明です。そのような変動の原因が、もしかすると現在の気温変動に影響を与えていることはないでしょうか。もしかしたら、温度上昇が二酸化炭素の増加をもたらしたかもしれません。まだ原因は分かっていませんが、二酸化炭素の増加は、本当に人間の影響だけといえるのでしょうか。
  さて、常識的な地球温暖化の予測は、100年ほどのデータから、100年先を予測しています。はたして100年のスケールでの予測は、本当の環境変化の傾向をとらえているのでしょうか。いろいろな視点で考えてみると、どうも温暖化だけではない予測がいろいろ出てきました。そのうちどれが重要なのか、確かなのかは、もっと研究し、議論しなければならないのではないでしょうか。

3 地球の未来はみんなもの
  未来予測をして、その予測に基づいて行動を起こすことは、人類全体に影響することです。
  科学的に未来予測をして、もし悪い未来が予測されたのであれば、対処を考えることは、大切です。未来予測の結果は、人類全体に影響を及ぼすことなので、先進国だけのエゴ(経済、政治など)によって判断するのは、間違っています。途上国の意見も十分汲み取る必要があるのですが、そんなシステムは必ずしも十分ではないように思えます。
  そしてさらに重要なことは、未来への大規模な対処は、地球全体に影響するということです。地球は誰のものかということです。地球は人類だけのものでないことは確かです。それに人類だけでは生きていけません。地球の未来を、人類のためにだけに、変化させることは、本当にいいかどうかは、十分議論すべきです。人類だけが生き残っても、やがては人類も滅びるのです。
  未来を考えるとは、大切です。そして、行動することも大切です。しかし、未来に対してとった行動が、地球全体に影響を及ぼすのであれば、慎重であるべきです。私たち人類は、それだけの力を持つようになり、そしてそれだけの智恵を持つようになります。でも、人類はもっと賢くならなければならないのです。もっと地球全体のことを考えなければならないのです。それだけの影響力をもつ種となったのです。


掲示板■ あと少し・根雪  

・あと少し・
この講義も残すところ、あと少しとなりました。
次回の第16講の「その4」で講義の本体は終わりとなります。
あと、最終講義をしようかと考えています。
1年以上かかった講義ですが、充実したものとなったでしょうか。
評価は、受講者の判断に待つしかありません。
どのような効果があったかは、受講者の方の満足感があったどうかです。
講師がどれほど努力しても、評価は受講者自身が考え、感じることです。
ただ、私自身にとっては、良い経験になりました。
もともとこの講義は、本当の講義に近い状態で記録できる
システム(PCレター)との出会いからはじまりました。
それを実験的に試すことが、この講義のスタートでした。
受講者の方は、その実験に暗黙のうちに、
協力していただいたことになります。
私は、この講義で、論文を一つ書きましたが、これは私側の事情です。
ですから、この講義の評価ためにアンケートなどをする気になりません。
アンケートで、評価を聞こういうことは、
この講義の本来の目的から反します。
あくまでも、これは地球科学の講義であって、
それを試験的と考えているのは、私の立場に過ぎません。
ただ、この講義を聞いていただいた方から
いろいろな感想がいただければ、私としては助かります。
それは、この講義が役に立ついうことは、
このようなシステムでの講義は、
これからも存在意義があるということを判断できるからです。
感想は、あくまでも、皆さんの自主性にお任せします。
ないよりも、私は、1年に渡ってこの講義を続けてこられたのは、
受講している方がおられるからです。
私には直接受講者が見えなくてもいいのです。
そこに受講者がいるという事実だけでいいのです。
それが私にとっては、重要でした。
ですから、受講いただいた方に感謝いたします。
あと残り少ないですが、あと少しだけお付き合いください。

・根雪・
北海道は寒波で、雪がかなり降りました。
金曜日は一日雪で、一面銀世界で真っ白になりました。
まだ根雪ではないでしょうが、もうすっかり冬です。
しかし、根雪まで、まだまだ時間が欲しいです。
根雪になると、今年ももう終わるということです。
今年中にしなければならないことが、まだたくさん残っています。
ですから雪がたくさん降るとかなりあせります。
もっとしたいこと、すべきことがいろいろあります。
特に今年は、新学科への配置転換で忙しく、
十分野外調査に出歩けませんでした。
それに体調不良も重なり、調査に関しては、まったく不本意な年でした。
あと数年間、このような忙しさは続きそうです。
私の研究は、野外にでて石や自然をみるとからスタートします。
野外に出れないと、研究が進展しません。
だから根雪になると一種の恐怖症的な反応なるのかもしれませんが。


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