はじめてこの講義を受講するかた、
PC Lectureを試したいかたは
まずはじめにここをお読みください。

もどる


講 義■  Lec 015(その3)相互作用:階層間のかかわり
掲示板■ チリも積もれば山となる・秋から冬へ


 相互作用の最終回です。今回は、実際に地球上で起こった壮大な相互作用をみていきます。


▼ 講義ファイル
・Lec015_3の講義ファイル(講義時間 36:46)
ブロードバンド用(ファイルサイズ 9.0MB)
ISDN用(ファイルサイズ 4.5MB)
倍速用(ファイルサイズ 15.7MB)


講 義■ Lec 015(その3)相互作用:階層間のかかわり

▼ 生命と地球の相互作用のプロセス
1 大気の組成は変化した
  昔の大気は、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水蒸気(H2O)が主成分であり、酸素(O2)が微量成分でした。それが、現在のN2とO2を主成分として、CO2が微量成分とする大気に変化しました。

表 惑星の大気組成
    金星   火星     地球
圧力 92 MPa  700 Pa    0.1013 MPa
CO2  96.4 %  95.32 %   0.34 %(5〜10 MPa)
N2  3.4 %   2.7 %    78 %
H2O  0.14 %  0〜0.03 ppm 0.483 %(海に30 MPa)
Ar  18.6 ppm 1.6 %    0.934 %
O2  69 ppm  0.13 %    20.9 %

 このような昔と今の大気の違いを解決には、3つの成分についてそれぞれ考えなくてはなりません。
・CO2とH2Oがどこへ行ったのか。
・O2はどこから来たのか。
ということになります。
  この謎を解いていくとき、地球と生命の相互作用、つまり階層間のかかわりが見えてきます。

2 N2
  N2についてまず見ていきましょう。N2は、昔も、今もあります。ですから、変化することなく、もともと、あったと考えればいいわけです。

3 H2Oは、どこへ行ったのか
  H2Oは、地球の初期に材料物質から脱ガスして抜け出して、大気となりました。地球の初期は、表面がマグマの海におおわれるほど高温でした。そのころは、H2Oは、気体の水蒸気として大気中にありました。その後、隕石の衝突がおさまり、40億から38億年前頃になると、地球の表面全体が冷えだし、やがて液体の水、つまり雨となって降ります。大量の雨が降り、川となり、地表の低いところに向かって流れていきます。そしてやがて海となります。
  38億年前以後、海(海洋)に液体として蓄えられています。それは、堆積岩がいつの時代にも形成されていることから、海があったことがわかります。
  H2Oが液体として地球に存在できるのは、もともと地球の公転軌道が、太陽から水の存在できるほどの位置にいたからです。同じような条件の位置に、火星もいました。ですから、火星にも、かつて海洋が存在しました。しかし、今では、火星に海はありません。それは、火星の大きさが小さいかったため、大気を引き付けておく引力が弱かったからです。
  金星は地球と同じほどの大きさを持っています。ですから厚い大気を今でも持っています。しかし、金星は地球より太陽に近い位置にいます。それは熱いということを意味します。金星の位置は、液体の水ができるには太陽に近すぎたのです。
  地球は、ほどよい位置に、ほどよい大きさの天体として形成されたのです。もしかすると、地球は惑星として幸運なスタートをしたのかもしれません。

4 CO2は、どこへいったのか
  結論からいいますと、CO2は石灰岩として、地殻へ蓄えられています。その仕組みは、つぎのような複雑なプロセスによるものです。
  まず生物が関与する以前には、CO2が固体として岩石に固定されるには、次のようなプロセスがあります。
  二酸化炭素は気体として大気中にあります。しかし、海ができると、炭酸イオンとして海水中に溶けこみます。しかし、その量には限界があり、海水の探査イオン濃度がある値に達すると、平衡状態となります。炭酸イオンは、カルシウム(Ca)などのイオンと結びついて、炭酸塩(CaCO3)として化学的に沈殿します。しかし、この沈殿物も、深海ではゆっくりとですが時間を経るとともに溶けていきます。しかしプレートテクトニクスの作用で海底が移動し、大陸に上げられた炭酸塩の沈殿物は、長期間固体として保存されることになります。
  大気中のCO2は、海水の溶けこみます。大陸の岩石に含まれているカルシウムは雨で溶け、川で海に運ばれ、海水中の炭酸イオンと結びついて、CaCO3として沈殿します。その沈殿物は、プレートテクトニクスによって、石灰岩として大地に保存されてきました。
  現在では、二酸化炭素の固定に生物が関与するようになりました。かつては、炭酸塩として化学的に沈殿していたものが、生物誕生後は、生物の骨格や殻など材料(サンゴ礁)として固化されることにより、炭素の固定のスピードが速まりました。
  地球の大気、海洋、大陸、生物、プレートテクトニクスというさまざまな階層間の作用で、CO2の気体から固体への変換が絶え間なく続けられていることになります。

5 O2は、どこから来たのか
  現在の酸素は、生物がつくっています。その作用はいつごろからはじまったのでしょうか。それが酸素の由来を知ることになります。
  20億年前頃の地層の中に、大量のストロマトライトとよばれる岩石があります。その起源が長らくわからなかったのですが、西オーストラリア、ハメリンプールでは、現在も生きてストロマトライトを形成しているところが見つかりました。
  現在のストロマトライトは、シアノバクテリアが表面にいて作り出しているものです。ストロマトライトの形は現在のものも昔のものも似ていることから、同じシアノバクテリアがつくったのであろうと考えられています。
  シアノバクテリアは光合成をする生物です。20億年前に大量のストロマトライトがあるということは、そのころに大量の酸素が形成されたことになります。
  これは、酸素がそのころに量産された証拠であります。それは、35億年前〜17億年前かけてみつかる縞状鉄鉱層というものです。特に20億年前ころに大量の縞状鉄鉱層があり、今では、鉄鉱石として利用されています。縞状鉄鉱層は、鉄が海水中で酸化して海底で沈殿し、それが陸地で鉄鉱石として見つかるのです。これは、海洋で酸素が急激に増えたことを示しています。
  シアノバクテリアが作り出した酸素は、海水中の鉄を大部分を酸化して沈殿させていきます。酸化するものがなくなると、やがて酸素は大気中に放出されることになります。大気中の酸素の量は増えてきます。酸素は、現在も生物によって大量につくり続けられています。

 プランクトンの殻に含まれる二酸化炭素の量、ひとつのシアノバクテリアがつくる酸素の量、鉄が酸化して沈殿したものは、いずれもほんの少しです。しかし、大量の数と、長い時間をかけることによって、大きな変化となります。大気、海洋、大陸、プレートテクトニクス、生物は、相互作用をしながら、変化してきました。その結果が現在の環境となっています。今私たちが住んでいる環境には、このような長い相互作用の歴史があったのです。


掲示板■ チリも積もれば山となる・秋から冬へ  

・チリも積もれば山となる・
この相互作用を考えるときには、
いつも「チリも積もれば山となる」ということわざを思い出します。
小さなことも継続すれば、大きなものとなります。
そしてそれは、自分の生き方をも考えさせてくれます。
私は、今の研究のいくつかは、
それぞれ違ったグループでやっているものがあります。
ここでは、私の持つ「個」の力は小さくても、
個性の違う力が集まることによって、
今までにないものを生むことができます。
また私一人でやっている研究もあります。
このような研究は、毎日できることは少しですが、
一人でこつこつと休むことなく続けることによって、
やがては大きな成果になります。
5年目にしてやっと成果が出始めたもの、
まだ成果がでてないものなど、色々な段階のものがありますが。
しかし、「チリも積もれば山となる」ことを信じて
こつこつと研究を進めています。

・秋から冬へ・
いよいよ11月となりました。
快晴の日には、朝夕冷え込みます。
我が家でも朝夕はストーブを炊かない日はなくなりました。
日も短くなり、朝型生活の私は暗いうちに自宅を出て、
朝日が昇ることに大学に着くということになります。
夕方も4時過ぎには暗くなり始めます。
ですから暗い夜道を歩いて帰ることになります。
紅葉もそろそろ終わりで、近くにみえる手稲山には、初雪も降りました。
里にもいつ初雪が降ってもおかしくない頃となりました。
季節の移ろい、そして秋から冬への変化は、
北国ではなんとなく寂しさをともないます。
そんな気持ちを日々の天気に感じる頃になります。


もどる