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講義■ Lec 014(その3) 見ること:この世の認識の拡大
掲示板■ 感覚・紅葉


 「見ること」の3回目で最後となります。今回は、実際にどのように「見ること」を拡大してきたのか、その結果どのようにして「この世」の認識を拡大してきたのかをみていきます。


▼ 講義ファイル
・Lec014_3の講義ファイル(講義時間 26:54)
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講義■ Lec 014(その3) 見ること:この世の認識の拡大

▼ 見ることの限界と拡大
1 見ることの限界
  知識の増大にともなって、私たちが「見えている」と思っているものは、それほど多くないことがわかってきました。
  たとえば、見える光は、可視光(波長では3.8〜7.8×10^-7mの範囲)とよばれる電磁波だけです。しかし、現在の技術を使えば、電磁波のうち、10^5m〜10^-15mまでの波長のものが観測できるようになりました。私たちの肉眼には、波長でいうと、観測可能な全波長21桁のうち、1桁分しか見えていないということなのです。
  そこに至るまで、私たちはいろいろな智恵を使って、人類は「見ること」を拡大してきました。それは、今も続いています。そんな「見ること」の拡大について考えていきます。

2 拡大のための条件
  拡大のための必要な条件として
・知恵の拡大
・技術の拡大
があります。
  かつて、いろいろなものを自分の目で見るためには、自分が行くしかありませんでした。これは、見聞を広めるということでした。しかし、さらに広く見るためには、知恵と技術が必要となります。
  知恵とは、論理と証拠によって広がる科学ともいえます。技術とは、科学の基礎となる証拠を得るための手段のことです。知恵は技術を進め、技術は知恵を深めるのです。
  以下では、距離、波長、大きさ、時間などの拡大についてみていきます。

3 距離を越える
  「見ること」を拡大する、つまり見聞を広げるためには、移動ための能力を上げることがいちばん手っ取り早い方法です。それは距離を延ばして、限界を越えていくということです。移送手段の変化には、いくつかの段階がたどれます。

・自分が行くこと
  なにごとも、実地に自分の目で見ることが一番です。実際にみること、それが、最大の見聞をえることになります。百聞は一見にしかずです。
  やがて、技術や智恵の拡大によって、移動手段の変化が起こります。
  陸では、最初は徒歩でしたが、馬や牛、らば、ラクダなどの動物に乗ることが考えられました。これらを利用すれば、疲れずに歩くことができます。あるいは、乗り物を動物に引かせる馬車などは、長期間移動するには便利です。
  海では、船が使われます。最初の風力による帆船でしたが、エンジンつきの高速艇になります。やがて海上だけでなく、海中にもいける潜水艇も利用されるようになりました。
  空では、飛行船から飛行機、飛行機もプロペラからジェットというより早く遠くまでいける手段となりました。今では、人が地球の外へ運ぶロケットも作られています。
  まあ、潜水艇やロケットは、誰でも使える移動手段ではありませんが、移動のための道具としては完成しています。
  技術の進歩によって、私たちの移動能力は大きくなり、距離も限界も広げていました。
  でも、自分の目による見聞だと、えられる知識の範囲(距離)に限界があります。少々情報量は減っても、より多様な情報をえることを目的とすれば、次のような方法があります。

・自分たちの代表が行く
  極地(砂漠、高山、南極、北極など)、未開とされる土地(ヨーロッパ人にとって、かつてのアジア、アメリカ大陸、アフリカ大陸奥地、オーストラリアなど)、海中、地球外は、危険でお金もかかるところです。
  そんなところへは、自分には行く能力がなくても、自分たちの代表にいってもらえばいいわけです。強靭な肉体と精神力を備えた代表者、あるいは厳しい訓練を積み、鍛え抜かれた代表者が行き、そのときにさまざまな情報を得て、経験をしてくるのです。その経験や知識を共有するという方法があります。
  この方法であれば、だれかが成功すれば、その見聞は人類の共有の知的資産となっていきます。

・自分たちの分身が行く
  自分たちの分身とは、人以外の、探査機、観測装置のことです。装置をそこに送りこんで、必要な情報だけを、手に入れるというかしこい方法です。地球以外のほかの惑星、あるいは彗星の観測、地球深部、深海などは、おもにこの方法がとられています。

4 波長を越える
  肉眼では、可視光しか見えませんが、可視光以外のものでも、技術によって、私たちは見ることができるようになりました。そして、さらに技術によって、それらすべての波長域を、可視光に変換することもできます。波長では、20桁以上の拡大ができました。

5 大きさを越える
  大きさを越えるとは、空間的に広がっていくことを意味します。非常に遠くのものも、今では見ることができます。非常に小さいものも、見ることができます。
  遠くのものを見る方法としては、行って見る(見聞を広げる)ことがあります。これは、先ほど述べた移動技術の進歩とえいます。
  行かずに見る方法として、道具の利用があります。肉眼から、(光学)望遠鏡、惑星探査機、(冷却)CCDカメラ望遠鏡、各種波長を調べる望遠鏡などへと変化してきました。現在、「この世」で一番遠くのものとして、宇宙の果て(地平)に限りなく近いものが見えています。
  小さいものを見る道具として、肉眼から、虫眼鏡(ルーペ)、顕微鏡、電子顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡などへと変化してきた。「この世」の最小の原子が、形として「見る」ことができます。「この世」の最小の素粒子が、飛んだ跡として「見る」ことができます。

6 時間を越える
  時間を越えるとは、時間的な広がりを意味します。時間は、現在、過去、未来に分けられます。
  過去のものとして、身近なものは、生物や地球の歴史です。これは、ある程度わかってきました。宇宙では、もっとも遠いものが、最も古いものとなります。もっとも古いもの、遠いものとしては、宇宙の果てがあります。
  宇宙で一番遠くの(古い)ものは、宇宙誕生の30万年後の宇宙背景放射、宇宙誕生の7億8000万年後の一番遠くの銀河、宇宙誕生の8億3000万年後のクエーサー(準星)、宇宙誕生の8億6000万年後の宇宙の再電離などが見えてきました。
  ところが見えない時間があります。それは、未来です。こればかりは、どんなに技術が進んでも、なかなか見えません。

▼ 考え方の拡大
  考え方の広がりとは、「この世」つまり宇宙の見かた(認識)の拡大でもあります。「この世」(宇宙)の広がり、時間の広がりなどを考えること自体が、認識を広げてきたことになります。
  新しい考え方が生まれると、「この世」(宇宙)は格段に広がります。ハーシェルという天文学者は、宇宙が銀河宇宙から、外にも私たちの銀河と同じような銀河宇宙があることを示しました。その後は、次の表のように、宇宙に対する認識をつぎつぎと広げてきました。

表 宇宙の認識の拡大
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理論  宇宙の範囲 大きさ  科学者
天動説  太陽系  10^10km アリストテレス、プトレマイオス
地動説  星界   10^15km コペルニクス、ケプラー、ガリレオ
銀河宇宙 銀河系  10^18km ニュートン、ハーシェル
静止宇宙 銀河系  10^18km アインシュタイン
膨張宇宙 銀河宇宙 10^21km ハッブル、フリードマン
進化宇宙 超銀河団 10^23km ゲラー
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掲示板■ 感覚・紅葉  

・感覚・
「見ること」について今回は取り上げましたが、
他の感覚器官についても、同様のことができるはずです。
音、匂い、味、感触などです。
しかし、「見ること」に比べると、
その技術や智恵の進歩は、見劣りがします。
それは、コンピュータなどを導入した
デジタル処理が可能かどうかが、
その進歩を左右するのかもしれません。
例えば、色はすべてデジタル化できます。
人が見分ける範囲のものはすべてデジタル化できます。
音のデジタル化もかなり進んできました。
人が聞き分ける以上のデジタル技術を持っています。
しかし、匂いや味などは、なかなか難しいものがあります。
なぜなら、物質を通じて伝達する感覚ですので、
デジタル化はできないかもしれません。
しかし、デジタル化が進んでも、
きれいな色、いい音は、人の感覚器官と脳が決定します。
それは、万人に共通する部分もありますし、
ある個人だけが感じるものもあります。
そんな解明ができない部分があるから、
人間は面白いのかもしれませんね。

・紅葉・
北海道は10月になって、荒天が続きました。
本当なら紅葉が始まっている季節なのですが、
紅葉が始まる前に、たくさんの葉が落ちています。
今年の紅葉は寂しいものになるかもしれません。
晴れれば北海道らしい澄んだ青空が見られるのですが、長続きしません。
まあこれも巡る歳月の一つの変化でしょう。
でも、週末に天気がよければ、森に行ってみようと思います。
冬の到来を知らせる雪虫が飛ぶ前に、
秋を楽しんでおきましょうか。


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