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講 義■ Lec 011(その3)生きているということ:生命とは
掲示板■ 夏休み 


 化石と生物の関係、生物の定義について、今回は考えていきます。しかし、これがなかなかやっかいなものなのです。


▼ 講義ファイル
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講 義■ Lec 011(その3)生きているということ:生命とは

▼ 化石と生命の関係
1 化石は生命か
 生命をめぐる考えを、これまでみてきました。それらの考えを基にして、今度は、化石について考えていきます。
 さて、「化石=生命」という論理は、正しいでしょうか。少なくとも、化石は、現在、生きていません。ですから、定義の上では、化石は、生命ではありません。
 過去の生物に対して、生命を宿していたかどうかは、化石からは論証不可能なのです。化石に対して、生命論的な議論を持ち込むと、訳がわからなくなります。この方向で考えるのは、やめたほうがよさそうです。したがって、実態のある生物というもので、考えていきましょう。

2 化石は生物か
 では、「化石=生物」は、正しいのでしょうか。過去の生物の一部や痕跡を、化石と定義しています。一方生物とは、生命を持つものです。ところが、化石は、現在、生命を宿していません。だから定義の上では生物とはいいがたいものです。
 では、「化石=過去の生物」ということは、大丈夫でしょうか。実はこれも、論理的には、化石に対して、かつて生きていたかどうかを問うことになるので、論証不可能です。
 この化石については、別の講義で深く考えてきますが、証明することはできないのに、過去の生物と扱っているのです。現在の科学は、これを切り抜けるために、傍証として、大量の化石と、現生生物との各種の観点での比較おこない、その量を持って、一見質的に正しいという錯覚のものに、「過去の生物であった」と仮定されているのです。
 しかし、生物の起源を考えるとき、やはり「生命とは」や「生物とは」ということを、どうしても考えざるえない状態になっていきます。古生物学者で最古の生物化石を探すとき、いつもこの問題にたどり着いてしまいます。これも、一種の循環論法であるのですが。

▼ 生物とは
1 生物の定義(暫定版)
 まず、生物は、厳密には定義できないことをおことわりしておきます。しかし、すべての生物に「生命」という言葉で呼べるような何らかの共通性がありそうです。
 一般的にいわれている共通性を、ここでは生物の定義として、とりあえずのものとしておきましょう。それは、
・食べる
・入れ物にはいっている
・コピーをつくる
・変化する
の4つです。それぞれをみていきましょう。

・食べる:代謝
 生物は食べなければ生きて(生命活動する)いけません。「食べる」とは、自分が生きていくのに必要な栄養を外から取り入れる(摂取)ことです。そして、いらなくなったものは、外に捨て(排出)ます。このような仕組みを代謝と呼びます。代謝は、タンパク質がおこないます。タンパク質はアミノ酸からできています。ヒトの場合、20種のアミノ酸からタンパク質ができています。アミノ酸は、遺伝情報を元にして合成されていきます。

・入れ物にはいっている:個体
 生物は、自分と自分じゃないもの、つまり外界とを区別できなければなりません。1個、2個と数えられるような存在で、個体と呼ばれます。膜(生体膜)で、自分と外が区分されています。膜の材料は、脂質からできていて、個体を構成するのに必要な成分となります。

・コピーをつくる:複製
 生物は、自分と同じ個体のコピーがつくることができます。人間でいえば、子供を作ることができるということです。これは、自己複製と呼ばれるもの機能です。自己複製をになっているものは、リボ核酸(RNA)とよばれるもので、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの4種の塩基があります。生物の中で、遺伝情報の伝達し、タンパク質を合成することが重要な役割となっています。

・変化する:進化
 生物は、環境の変化に応じて変化します。それは、適応といわれているものです。どんなに環境が変化しても、いずれかの生物がその環境に適応していきました。環境の変化にともなって、多様な生物が変化をして形成されてきました。これを進化と呼んでいます。進化をになうものは、デオキシリボ核酸(DNA)で、やはり4種の塩基からなっています。DNAには、遺伝情報の蓄積されています。

2 定義外の生物
 以上の4つを生物の定義としましたが、これらの定義を満たない生物もいます。
 例えば、ウイルスは、自分で栄養をつくれない、いや、つくらないという戦略をもっています。そして、寄生のためにいい生物(宿主)を見つけるまでは、じっとして、まるで生物でないかのような状態でいます。こんな状態のとき、生物かどうかを判定しなさいといわれたら、生物でないと判定することでしょう。生物でないとする研究者もいるくらいです。でも、ウイルスを調べているのは、生物学者なのですが。
 だから、ここで示した生物の定義はとりあえずのものなのです。

3 定義を満たす無生物
 逆に、生物と似たようなことをする無生物もあります。例えば、鉄のサビです。鉄は、水がありサビができると、サビ自身が、サビをつくりやすく(自己触媒作用といいます)によって、あたかも生物が増殖しているかのようにみえます。まさに、コピーを作っているのです。そして水と空気、鉄を利用して代謝しているようにみえます。一つのサビが一個体とみなせます。これは、生物の定義を3つを満たしているかのように見えます。
 進化の現場を、現在生きている生物の中で、観察することはできません。ですから、実用的には、生物の3つの定義で判定することになります。しかし、サビは鉄が酸化する化学反応であることを私たちは知っているので、生物とはしません。

8 セントラル・ドグマ(中心教義)の崩壊
 生命に共通する仕組みとして、遺伝情報の流れというものがあります。それは、DNA→RNA→タンパク質となります。これは、ドグマ(教義)とよばれ、生物に普遍的に持つものだとされていました。そしてこれこそが、生物共通の一番の性質だとして、セントラル・ドグマ(中心教義)と呼ばれていました。しかし、このドグマは現在、崩れています。
 あるウイルス(レトロウイルス)は、遺伝情報をDNAに書きこむ(逆転写と呼ばれます)酵素を持っていることが発見されました。また、RNAの中で遺伝情報の書きかえ(自己スプライシングと呼ばれています)が発見されています。また、タンパク質に自己複製機能が見つかっています。情報が一方向ではなく、行き来していることがわかってきました。
 ですから、現在では、DNAとRNA、タンパク質には、密接な関係があり、RNAとタンパク質には、多様な機能があることがわかってきました。
 生物とは、なかなか一筋縄ではいかない謎に満ちた存在なのです。


掲示板■ 夏休み  

・夏休み・
いよいよ夏休みです。
小中高校は、子供たちも来週1日で終わり、夏休みとなります。
大学の講義も今週で終わりました。
しかし、定期試験が来週一週間にわたってあります。
非常勤をやっている某国立大学は、
8月にはいってから定期試験です。
7月一杯は、大学は気の抜けない状態が続いています。
定期試験も一番暑いときですから、
学生も大変な思いをすることになります。
私たち教員は、8月中旬までは、前期の終わりにとして
採点をして、成績評価がまっています。
これはミスがあってはならないことです。
その仕事を、北海道でも一番暑いときにこなさなければなりません。
これがなかなか大変なのですが、これも仕事です。
大学生は9月一杯まで夏休みです。
北海道は一番いい時期が、大学の夏休みとなっています。
定期試験が終わっていますから、
夏休みの間、勉強を忘れて遊ぶことができます。
これが大学生の一番いい時ではないでしょうか。
有効に使って欲しいものです。


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