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講 義■ Lec 007(その4) はじまり:この世のはじまり
掲示板■ 訂正・卒業式シーズン
 


 今回の講義「はじまり」の最後となりました。最後に、少し非主流派の巨頭のホイルの話をしましょう。


▼ 講義ファイル
Lec007_4の講義ファイル(講義時間 36:26)
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講 義■ Lec 007(その4) はじまり:この世のはじまり

▼ ビッグバンへの反論:定常宇宙論
 現在、多くの研究者は、前回までに紹介したビックバンによる宇宙の誕生があったという考えを持っています。しかし、それに真っ向から反対する説があり、1950年代から1960年代にかけては、多くの研究者も指示していたものがあります。それは、定常宇宙論というものです。
 これは、1948年に、フレッド・ホイル卿 (Fred Hoyle)が、ボンディ (Hermann Bondi)、ゴールド (Thomas Gold)らが提唱したもので、宇宙にはじまりがなかった、という考えに基づくものです。宇宙は常に不変であると考えています。
 定常宇宙論は、アインシュタインが示した静的な宇宙は安定ではないこと、それにハッブルの宇宙が膨張しているという観測結果を受けて考え出されたものです。
 そのために、定常宇宙論では、宇宙が膨張しているのですが、宇宙の性質は時間とともに変化しないことになります。これが成り立つためには、宇宙の密度を不変に保つ必要があります。時間とともに新たに物質が、生成されなければなりません。つまり、膨張して密度が下がる分、宇宙全体で物質が新しく生まれることになります。
 彼らのビックバンに対する反論の一番の根拠は、「この世」で一度しかないことは、不自然であるというものです。そんな不自然さを繕うために、虚の時間や、無からの創生、などという不可知なことを、はじまりでは考えなければならないのです。はじまりがあるということは、はじまりにいろいろな不自然なことを起こります。そして、その不自然さは、理論によっていろいろ説明されていますが、実証できないことも多く、不可知なこととなります。つまり、はじまりは、どう考えても不自然なのです。
 そんな不自然なものを考えるより、むしろ、物質が1年間に1立方kmあたり、水素原子1個程度生まれる、という起こりうることを受け入れた方が、いいのではないかというのがホイルらの主張なのです。
 1年間に1立方kmあたり水素原子1個という物質生成の速度は、非常に小さな割合なので、現在の技術では観測できないほどです。これは、新たに無から物質が生まれるということですから、質量保存の法則を破るという不自然さはあります。しかし、定常宇宙論には、宇宙のはじまりというもっと大きな不自然さを必要としない点が長所になります。
 ビッグバン宇宙論で、宇宙の誕生や宇宙の現象のすべてが説明されているわけではないのです。定常宇宙論の物質生成という欠点を攻撃するのは酷かもしません。
 しかし、現在では、ビッグバンによる宇宙の誕生を、多くの研究者が信じています。そのきっかけとなったのが、前に説明した1965年に発見された宇宙背景放射でした。
 もちろん定常宇宙論では、この宇宙背景放射に対する説明も用意されています。それは、古い天体から放出された光が、銀河内の塵によって散乱されたものであると説明しています。
 残念ながらこの説明は、モデルと観測に少しずれがあること、宇宙背景放射が非常に均質であること、天体という点の光源からこのような均質な分布をつくるのが難しいこと、散乱光に見られるはずの偏光のような特徴がないこと、宇宙背景放射が理想的な黒体放射に近いこと、などなど、多数の問題点があるため、研究者から指示されなくなりました。
 さらに、1990年代終わりには、現在の宇宙が、加速膨張しているという観測結果が得られています。このような現象は、もはや定常宇宙論では、説明できなくなりました。そのため、現在では非主流派の考えとなりました。
 しかし、定常宇宙論は、ビックバンの対案として、ビックバンのいろいろな弱点を指摘して、重要な議論を起こしました。このような議論が起こることによって、多くの研究者がその議論に目を向けると、いろいろな観測が行われたり、新しい理論が考えられたりして、その研究領域が非常に活発になります。これは、科学全体にとって非常にいいことになります。定常宇宙論はそんな役割を担ったのです。

▼ ホイルという科学者
 ホイルは、実は、定常宇宙論の敵であるビックバン宇宙論の名付け親という皮肉なエピソードがあります。
 ホイルは、The Nature of Thingsという BBC のラジオ番組の中で、「やつらは宇宙が大きな爆発(big bang)で始まったと言っている」といって、ビッグバン理論を批判したことがありました。このうわさを聞いたビックバン理論の提唱者のジョージ・ガモフが、面白がってビックバンという言葉を使ったことから、以後「ビッグバン宇宙論」と呼ばれるようになった。
 ガモフ自身は、「火の玉宇宙論」という呼び方をしていました。ガモフの方が、ホイルより、ジョークにかけては、一枚上手だったのかもしれませんね。
 ホイルについて少し紹介しましょう。ホイルは、無冠の科学者と呼ばれています。彼は、ケンブリッジ大学天文学研究所 (Institute of Astronomy, IoA)で過ごしました。ホイルの残した重要な業績と、彼が巻き起こしたさまざまな議論は、その後の科学の発展に、大きな影響を及ぼしたものも少なくありません。
 ここで示した定常宇宙論のほかに、人間原理や恒星内部での元素合成の考え方など、重要な業績をいろいろあげています。また、生命起源に関してのパンスペルミア説、始祖鳥の化石の真贋について、ノーベル賞へのクレームなど、なにかと話題を提供したことでも知られています。
 ノーベル賞へのクレームとは、1974年のノーベル賞は電波干渉計の開発とパルサーの発見に対して贈られたのですが、それに重要な役割をはたしたジョスリン・ベル・バーネルが受賞者に含まれなかったことを非難したものです。
 実は、ホイル自身も同じ経験をしています。彼は、パルサーからのパルス電波を決定するのに重要な貢献を果たしたのですが、ノーベル賞の受賞対象にはならなかったのです。
 そのような経歴から、ホイルは無冠の科学者と呼ばれています。しかし、イギリスでは、彼の業績は評価されていて、1957年に王立協会の会員になり、1972年にはナイトに叙せられています。
 そんなホイルも、2001年に死去して86年の人生を終えています。彼の科学に対する多大な貢献を感謝して、ご冥福をお祈りします。


掲示板■ 訂正・卒業式シーズン  

・訂正・
前回の講義の内容に、間違いがあることが指摘されました。
指摘された方は、Sさんで、
以前からこの講義をご覧になられているイギリス在住の天文学者の方です。
その内容の詳細に関しては、次回に特別講義でするとして、
間違っていた点だけを示します。
宇宙の誕生のストーリで、物質が形成された後、
物質が集まりだして、大きな質量を持つ星がたくさん生成されては、
短い寿命を終わらせたという現象があったと考えられます。
その様子を「スターバースト」と、私は表現しました。
そのような表現は、宇宙の創生に使わないということが一点、
それと「スターバースト」とは、
星が、銀河同士の衝突や銀河の中心などの領域で
爆発的たくさん生成される現象のことです。
あくまでも星の生成についてです。
ですから、星が短い寿命で次々と超新星爆発することは、
「スターバースト」には含まれていません。
ですから、「スターバースト」に関して2重の間違いを犯したことになります。
「大質量星の爆発的星生成(スターバーストのようなもの)と
それら星々の相次ぐ爆発(超新星爆発)」
というものに訂正します。
次回は、春の特別講義で、このSさんに指摘された内容に関して、
講義をしたいと考えています。

・卒業式シーズン・
大学は、今、卒業式シーズンとなりました。
私の大学の卒業式は24日に行われます。
お隣の大学は、15日にすでに行われました。
卒業生たちは、4年間の努力が実のって、
晴れて門出となります。
大いに、祝福してあげたいと思います。
わが大学は、1000人ほどの卒業生がいるために、
大学の施設で卒業式を実施できなくて、
札幌市内の大きなホールを借りて行うことになります。
隣の大学は、校内の施設で卒業式を行います。
私たちの大学は仰々しい気がしますが、
多くの人が一同に会して式を行うには
仕方がないことなのでしょう。
大学にとっても、卒業生にとっても、
一番のセレモニーです。
最大限の敬意を払って行うべきでしょう。
我が家では、今年は進級だけで、卒業はありません。
皆さんの周りにも卒業をされる方はおられるでしょうか。
そんな季節になってきたことを、感じさせてくれます。


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