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講 義: Lec 006(その4) 不変と変化
掲示板■ QED・不変・α−β−γ理論
 


 いよいよ不変の変化の講義も最後です。ハッブルの発見以外の宇宙のはじまりの証拠を、みていきましょう。


 アインシュタインの宇宙方程式の論理上に問題は、前回紹介しました。今回は、現実の宇宙が不変か変化するかをみていきます。

▼ 講義ファイル
・Lec006_6の講義ファイル(講義時間 13:09)
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講 義: Lec 006(その4) 不変と変化

▼ はじまりの証拠
1 宇宙の元素存在度
 宇宙は、広くさまざまな天体があります。しかし、大きな範囲として、平均的な成分を元素みていくと、共通の特徴があることがわかってきます。元素として、水素が一番多く、ついでヘリウムが多いという特徴を持ちます。水素とヘリウムをあわせると、すべての成分のうち、95%以上を占めています。そして、宇宙のどこを見ても、水素とヘリウムの比率は一定でした。
 このような水素とヘリウムにとんだ宇宙の元素の構成(存在度といます)と、その起源を、どのように説明するかが、問題となります。
 その問題に、ガモフは、ビックバン(ガモフ自信は火の玉宇宙と呼んでいた)として答えを示しました。1948年に、初期の超高温高密度の条件で宇宙のすべての元素が形成されるという考えを発表しました。α−β−γ理論と呼ばれています。すべての元素は、ビックバンから20〜30分で形成されたと考えたのです。
 このビックバンによる元素の形成の理論と、そこから導きだされる元素の組成が、観測データに一致していました。ビックバン、いいかえると、宇宙のはじまりとして、元素の存在度が証拠となったのです。つまり、宇宙のはじまりがあることを、理論と証拠(観測)との両方から証明されたのです。
 ガモフは、宇宙のはじまりの30分間で、すべての元素合成されるという理論を示しました。しかし、現在では、これが間違っていることがわかっています。最初にできるのは、水素とヘリウムだけで、それより重い元素はできないことがわかってきました。重い元素は、星の中でできることがわかってきました。
 ガモフの予測は、元素の種類でいうと、ほとんどはずれたことになりますが、元素の存在度でみると95%以上の正確さで当てていたのです。もともと知りたかったのは、宇宙になぜ水素とヘリウムがたくさんあるのかということでした。その答えを、ガモフは示したのです。ですから、当初の目標としては達成されたのです。それに重要なのは、宇宙のはじまりの直接の証拠とその理論を示されたことです。

2 宇宙背景放射
 1948年に元素合成のα−β−γ理論の論文と同じ年に、ガモフは、ビックバンによる宇宙のはじまりの論文を発表しています。その中に、重要なことが書かれていました。それは、高温のビックバンから、現在まで、温度が下がってきても、絶対温度でゼロ度(0 K)にはならないと予測でした。つまり、ビックバンの名残の熱が宇宙にはあることを示していました。その名残の熱は、温度として、5Kだと予測していました。
 しかし、発表当時、このような温度をどう観測していいかわからず、その後この温度のことは忘れられていました。
 1965年、ベル電話研究所のウィルソンとペンジアスが、アメリカ合衆国ニュージャージー州ホルムデルで、エコー宇宙通信衛星からの信号を受信するための超低ノイズの20フィート角型アンテナの調整していました。調整しても、どうしてもノイズが下がりませんでした。ノイズは、宇宙の四方八方から出ていました。
 高感度のアンテナでしたので、ノイズはどのような可能性を考えても説明できませんでした。アンテナの内部についていた鳩のフンまで、掃除をしましたがノイズは消えませんでした。論文の中で鳩のフンのことを「白い誘電性の物質」と書かれています。
 考えられる可能性をすべて取りのぞいてもノイズが消えなかったので、二人は、これを宇宙から来るノイズの発見として論文で発表しました。
 その後、このノイズこそがビッグバンの名残の熱による電波であることがわかりました。これは、宇宙背景放射とよばれているものでした。この発見が、もうひとつのビッグバンがあった証拠となりました。
 宇宙背景放射による現在の温度は、2.73度です。放射は、宇宙のどこをみても均質でした。ガモフの見積もった温度の数値は違っていましたが、考え方(論理)は間違っていませんでした。
 宇宙背景放射とは、宇宙誕生から、30万年後、3000Kまで下がっとき、「宇宙の晴れ上がり」のときの光の放射の名残です。それをノイズとして観測していのたです。
 均質な背景放射ですが、もっと精度を上げてみると、ゆらぎ、あるいは「むら」が、あることがわかってきました。1992年にCOBE衛星によって、背景放射には10万分の1の精度でゆらぎがあることが発見されています。2001年には、NASAは2機目の宇宙背景放射の探査機としてWMAPを打ち上げました。これは全天にわたって大スケールのゆらぎを、COBEよりもって正確にはかろうとする計画でした。その結果が、宇宙のはじまりついて、多くの情報がえられています。

▼ 証明終了
 以上で宇宙にはじまりがあったことが、証明できたことになります。つまり、宇宙は変化することがわかったのです。「この世」で最大ものである宇宙に始まりがあったのですから、「「この世」に「不変」の何かが存在する」という仮定と矛盾することになるので、その仮定は間違っていることになります。背理法により、「この世」には、「不変」なものは、なにも存在しない、こということを示せたことになります。
QED


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・QED・
上で使ったQEDというのは、数学などで証明をする時に、
証明終了の記号として、使われています。
QEDとは、ラテン語でQuod Erat Demonstrandumの略で、
英語ではthat which was to be demonstratedとなります。
意味は、
「それが証明されるべきことだった」
ということです。
論理の終わりを示す言葉です。

・不変・
今回は背理法を用いた考え方ですが、
話が壮大すぎて、なかなか背理法の構図が
見えてこないかもしれません。
ここでは、背理法を意識的に強調して示しましたが、
結論として重要なことは、この世に不変なものはないということです。
言葉として不変はあるかもしれませんが、
現実には存在し得ないことが証明されてしまったのです。
ですから「私たちの愛は変わらない」、
「不変の真理」などは、存在しないのです。
愛も真理も、時間と共に変化するのです。
思い当たることがありませんか。

・α−β−γ理論・
α−β−γという理論には、面白い逸話があります。
ガモフ自信が本の中で書いています。
この理論が書かれた論文は、
ガモフ以外にアルファ、ベーテとの共同の論文になっています。
実は論文の著者の一人であるベーテは、
この研究にほとんどタッチしていなかったそうです。
しかし、ガモフは、アルファ(α)と、
自分の名前がギリシャ語でγになることから、
「βにあたる人が入れば語呂がいい」と考え、
ベーテを共著者として引きずり込んだそうです。
ガモフは、なかなか茶目っ気のある研究者のようです。


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