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講 義: Lec 006(その3) 不変と変化
掲示板■ ハッブル・新しい講義
 


 さて、前回紹介した背理法を用いて不変がないことを証明しましょう。まずは、その考え方です。


 アインシュタインの宇宙方程式の論理上に問題は、前回紹介しました。今回は、現実の宇宙が不変か変化するかをみていきます。

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講 義: Lec 006(その3) 不変と変化

▼ 「この世」(宇宙)にはじまりがあること
1 静止宇宙観
 一般的に考えると、天体は、どの方向に運動していても、問題はないはずです。天体の運動を地球からみると、そのその方向はばらばらになっているか規則正しいかという問題です。ただし、太陽系の天体や銀河系の天体などのグループとなっていない、他の銀河のような地球とかかわりのない天体を考えます。そのような場合だと、でたらめの方がありそうなことに思えます。
 ニュートンの法則によると、すべての物質間には万有引力が働いています。宇宙全体を考えると、天体が引っ張り合っていれば、お互い近づきあっているはずです。有限の宇宙であれば、宇宙の中心に向かって収縮していなければなりません。つまり、このような場合だと、お互いに天体は近づきあいます。こうなると、ある方向に向かうか、あるいはすべてが地球に近づいてくるように見えるはずです。しかし、この状態が長く続くと、宇宙はつぶれてしまうはずです。
 しかし、宇宙は現に存在します。この矛盾を解決するにには、宇宙は無限でり、引力も釣り合っていると考えなければなりません。つまり不変の宇宙です。ニュートンの法則を満たしながら、宇宙を存続させるには、宇宙は無限でなければなりません。そこから、不変の宇宙像が導かれます。
 実際、20世紀はじめまで、宇宙が縮んだり、広がったりしているという観測データはありませんでした。ですからアインシュタイン、あるいは当時の常識であった不変の宇宙というのは、ごく当たり前の考え方だったのです。

2 ハッブルの法則
 さて、この講義のテーマであるこの世が不変か変化するかを考えていきましょう。考える方法は背理法を使うことでした。
 まず、「この世に不変のものがある」という仮定をしてみましょう。その仮定に矛盾をきたすことがあれば、背理法によって、この世に不変のものがないということを証明できます。その方法として、この世で最大のものである宇宙に、はじまりがあること証拠を探すことでした。もしはじまりの証拠をみつければ、背理法は完成します。ですから、問題の焦点は、宇宙のはじまりの証拠探しとなります。
 現実の宇宙にはじまりがあることを最初に示したのは、ハッブルというアメリカの天文学者でした。
 ハッブルの発見に先立って、1912年にローエル天文台のスライファーがある観測をしていました。それは、赤方偏移と呼ばれるものです。
 赤方偏移を知るには、ドプラー効果をいうものを、理解しておく必要があります。
 トプラー効果とは、自分の前を横切るパトカーが、よく例に使われます。パトカーが自分に近づき、そして遠ざかっていくとき、サイレンの音は、もともと同じはずなのに、近づいてくるときは高い音で、離れていくときは低い音になります。これがドプラー効果によって起こっているものです。
 近づいてくるパトカーのサイレンの音は、音のスピードにパトカーのスピードが加わっています。近づくものから発する波は、その波長が縮み、周波数は増えます。つまり音が高くなります。光でも同じことが起こります。近づくものから発せられる光は、青い方にずれる(偏移、シフト)ことになります。
 逆に、遠ざかるパトカーのサイレンは、音のスピードからパトカーのスピードを引くことになります。ですから、その波長が延びり、周波数が減ります。つまり音が低くなります。光では、赤い方にずれることになります。
 このドブラー効果を、スライファーが、天体で観測したのです。光の速度は、通常の運動と比べると格段に早いので、ドプラー効果が見つかるためには、かなり高速で動くものでないと発見できません。スライファーは、トプラー効果によって、遠くの銀河が赤方偏移していることを発見したのです。
 一般に天体が運動していたとしても、ばらばらの方向に運動しているはずです。ですから、スライファーの発見したのは、たまたま赤方偏移でしたが、別の天体では青方偏移でもいいわけです。たくさん調べれば、その結論が出せるはずです。
 遠くの銀河におけるドプラー効果をたくさん調べたのがハッブルでした。それは、思いがけない結果でした。すべての天体が赤方偏移を示したのです。さらに、地球からの距離に応じて、その赤方偏移の程度が変化したのです。
 ハッブルの論文には「遠い銀河ほど早い速度で地球から遠ざかっている」と書かれていました。
 銀河の後退速度(v)は距離(r)に比例して大きくなるので、式で書けば、
 v = H×r
という、単純な直線になります。ここで、Hは、ハッブル定数と呼ばれ、直線の傾きを表しています。
 これの関係を、ハッブルは1929年に発見、1931年に発表しました。この結果は、いったい、なにを意味するのでしょうか。
 これは、地球が宇宙の中心で、すべての天体が地球から遠ざかっていくと考えることができます。地球は、宇宙の中心であるという特異な存在となります。もしそうなら、なぜ地球は宇宙において特異なのかを示さなくてなりません。
 これは、コペルニクス以降、地球には、太陽系や銀河、宇宙において、なんら特異性がないということを示してきた科学の歴史的経緯に反するものですし、証拠もありません。
 地球が宇宙の中心と考えるより、どこにも中心などなく、どの天体からでも、同じような赤方偏移という現象が起こっていると考える方が普通です。この考え方を受け入れると、宇宙が膨張していることになります。現在では、このハッブルの法則が、宇宙の膨張の重要な証拠となっています。
 現在の宇宙が膨張しているということは、時間をさかのぼれば、宇宙が最小の大きさ、点というべきものになる時があります。それは、高密度、高温の状態の点となるはずです。宇宙はそこからはじまったのです。その点から、宇宙は光速で爆発していったのす。それが宇宙のはじまりです。現在の宇宙が膨張していることから、宇宙のはじまりが導けるのです。

3 ハッブルの10年間
 少し本題から外れますが、天文学者のハッブルについて少し紹介しましょう。
 ハッブルは、1920年代が「ハッブルの10年間」とよばれるほど、短時間に、さまざまな業績をあげました。その業績のいくつかを紹介しましょう。

・宇宙の広さを画期的に変えた
 1924年に、私たちの銀河系の外に、銀河があることを示しました。それまで私たちの銀河だけが、宇宙のすべてだと考えられていました。しかし、観測によって、私たちの銀河以外にも、たとえばアンドロメダ銀河のようなものが、たくさんあることを示しました。
 この発見によって、今までの宇宙観は、銀河だけのもので、同規模のものが宇宙にはたくさんあることがわかったのです。私たちの宇宙は、一気に広がりを持ちました。

・宇宙の年齢を求めた
 ハッブルの式の比例定数であるハッブル定数から、だいたいの宇宙の年齢が計算できます。宇宙が今のような状態で、一様に膨張していると考えると、ハッブル定数の逆数が、宇宙の年齢となります。
 さまざまな議論を経て、現在、宇宙の年齢は137億年(誤差1%)と考えられています。ただし、この値は、宇宙が一様に膨張してきたのではなく、膨張のスピードを変化させてきたという考えを考慮したものです。

・宇宙の大きさを計算できる
 宇宙年齢を計算するとの同じ原理から、宇宙の大きさが推定できます。
 地球から離れればそのスピードは速くなっていきます。最大のものは、光の速度となるはずです。そこより向こうには何が起こっていても、光あるいは情報は届きません。いってみれば「あの世」というべきところです。
 宇宙の年齢に光速をかければ、だいたいの宇宙の大きさが計算可能となります。もちろん宇宙が一様の膨張してきたという仮定をおきますが。宇宙の年齢が137億年ですから、宇宙の半径は137億光年となります。
 しかし、最新のWMAPという宇宙探査機のデータに基づいた推測では、宇宙の大きさは少なくとも780億光年以上というとんでもなく大きな推定値が出されています。ただし、これは、いろいろな仮定あるいは仮説に基づいていますから、今後も改定されていく値となるでしょう。

・銀河を分類した
 1923年にハッブルは、銀河にはいろいろな種類があことを知り、それを分類しました。ハッブルは「銀河の構造は多様であるからこそ、最初の分類法は単純でなければならない」といいました。
 ハッブルは、意図的に配置された分類図を書きました。つまり、その分類図には、銀河の進化の過程が暗示されていのたです。しかし、銀河の進化に関する答えを、私たちはまだ得ていません。

4 もっと証拠を
 さて、ハッブルの法則だけでは、宇宙のはじまりがあったことの完全なる証拠としては不十分です。宇宙の膨張の現象を、別の考えでも説明可能だからです。
 たとえば、ホイルの提案した定常宇宙というモデルがあります。このモデルでは、新しい原子が生まれることによって宇宙が膨張しているという考えです。その原子の生成は、観測にできないほどの量にしかなりません。この原子の生成によって宇宙の密度が一定に保たれると考えるものです。宇宙はゆっくりと広がってはいますが、密度一定の一種の不変状態を保っているということです。
 現在、このモデルは多くの科学者は信じていませんが、完全に否定されてもいません。
 もっと、はじまりの証拠が必要です。だれもが納得できるような証拠が必要となります。それについては、次回としましょう。


掲示板■ ハッブル・新しい講義  

・ハッブル・
ハッブルは若い頃、スポーツ選手でした。
高校の大会で7種目で1位、1種目で3位を獲得してます。
彼は走り高跳びでイリノイ州の記録も作っています。
大学時代にはボクシングもしており、
世界チャンピオンと戦ったらどうかと、勧められたそうです。
大学では数学と天文学を主に学びました。
その後3年間、オックスフォード大学で法学を学びました。
もちろんオックスフォード時代にもスポーツをしていました。
陸上のトラック競技に出場したり、
ボクシングでフランスのチャンピオンと戦っていました。
その後はアメリカで、法律事務所に勤めたり、
高校の教員やバスケットボールのコーチをしていました。
第一次世界大戦で軍隊に入隊し、終戦になってからは、
ヤーキス天文台からウィルソン山天文台で働きました。
ハッブルは、1953年9月28日に心不全でなくなりました。
ノーベル賞受賞の通知を受ける直前のことでした。
それまでノーベル賞には、天文学が含まれていませんでした。
しかし、1953年に天文学を物理学に含めると決定されました。
ハッブルの死後、受賞者に内定していたことを
奥さんには知らされました。
偉大の天文学者にも、波乱にとんだ人生があったのです。

・新しい講義・
私の大学では、どたばたがやっと終わりました。
まだ、少々校務が残っていますが、
狂騒的な忙しさは終わりました。
さて、これから気を抜くことなく、
落ち着いて仕事をしなければなりません。
この講義の後半部分も収録しなければなりません。
さらに来年度からはじまる2つの新しい講義の準備が大変です。
これは、教育に関する講義で、
まったく独自に、今までの蓄えを利用できない状態で
作成してかなければなりません。
その下準備をそろそろはじめなければなりませんね。


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