地球のつぶやき
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Essay■ 240 first half billionと劫
Letter ■ 新年・サバティカル


(2022.01.01)
 明けましておめでとうございます。今年こそは、いい年になりますよう願っています。まずは縁起のいい寿限無を取り上げ、それと関連した今後の研究テーマを紹介しながら、今年はじめのエッセイとします。


Essay■ 240 first half billionと劫

 年のはじめなので、縁起のいい話からはじめましょう。落語の「寿限無」があります。子どもが生まれた夫婦が、縁起のいい名前をつけたいというので、和尚さん(あるいはご隠居さん)にいろいろと縁起のいい言葉を聞いていきます。寿限無の次に「五刧擦り切れ」という言葉がでてきます。「五刧擦り切れ」るまで、幸せにという意味です。ただし、落語では、候補をすべてを名前にしてしまいます。
 さて、この「劫(こう)」ですが、古代のインドのサンスクリットのカルパ(kalpa)の漢訳だそうです。長い時間を意味しているのですが、その長さはいろいろな比喩があります。落語でも、いくつかの説明があるのですが、一般的なものを紹介しましょう。
 天人(天上界に住む超自然的な存在)が3000年(100年というものもある)に一度下界に下りてきて、岩を衣の袖で撫でます。岩が擦り切れてなくなるのを「一劫」とする時間のことです。長い時間であることがわかるのですが、どれくらいに時間でしょうか。調べるといろいろな解釈の時間がでてきます。
 ヒンドゥー教の考え方で示すと、1劫は、1000マハーユガというものになるそうです。1マハーユガ(mahayuga)は、神々の1万2000年に当たります。神々の1年は、私たちの360年に相当します。これを用いて計算すると、1マハーユガは4ユガ(yuga)にあたり、4つのユガはばらばらの長さで、1ユガは神々の1万2000年分にあります。神々の1年=360年(太陽暦の年)です。ですから、
  1劫=1000x12000x360年=43億2000万年
と計算されます。多くの資料ではこの計算結果が示されています。
 五刧擦り切れは、その5倍ですから、216億年になります。五劫は、あまりにも長い時代です。しかし、3劫は129.6億年です。これは宇宙の誕生の137.98 ± 0.37億年前に近い値となります。宇宙は、太陽系の3世代分の時代を過ごしているようです。
 1劫は、地質学に携わっているものには、いろいろ興味を沸かされる時間、年代となります。地球最古の物質の年代に近いからです。地球最古の時代は、冥王代(めいおうだい)と呼ばれ、40億年前から地球の誕生までです。その時代に、地球最初の出来事がいろいろ起こっています。
 現在のとろこ、最古の岩石は40.3億年前のもので、最古の鉱物は43.74億年前のものです。43.74億年前までは、断片的ですが、岩石や鉱物などの物質としての証拠がある時代となります。それ以前は、地球の物質としての証拠がない時代となります。
 地球の材料となった隕石が現在も存在し、地球に落ちてくることがあります。その隕石を調べると、45.50億年前ころの年代にそろっていますので、地球や火星の誕もその頃にできたと考えらます。
 さらに隕石の中の構成物でも年代を調べていくと、衝突による変成作用が見つかり、そこから「原始惑星」は45.58万年前にできたと推定されています。太陽系形成初期にあった微惑星の内部の核を形成していたと考えられる鉄隕石を調べていくと、熱変性が起こっており、そこから微惑星形成の時期は45.63億年前になりそうです。隕石の中でも最初に固化してきたのはCAIと呼ばれる鉱物の混合物なのですが、それは45.66億年前になる推定されています。さらに太陽系誕生の場の分子雲は45.70億年前となりそうです。
 以上、隕石から探ってきた太陽系形成のシナリオから、45.70億年前から45.50億年前までは、隕石の中に証拠がみつかりそうです。最古の鉱物の43.74億年前以降は地球に証拠となる物質があります。ですから、45.50億年前から43.74億年前の1億7600万年の期間は、証拠のない時代となりまが、最古の岩石の40.3億年前から、かろうじて証拠ある時代45.70億年前までの5億4000万年前が、地球のもっとも変動の激しい誕生の時期だといえます。
 今後の数年間の研究テーマを「first half billion of the Earth」というものに設定しようと考えています。billionは10億年のことなので、half billionは5億年のことです。「first half billion of the Earth」は「地球のはじまりの5億年」のことになります。先程述べてきた誕生のための変動の5億年間を、今後の研究テーマにしていこうと考えています。
 最初の5億年には、地球の誕生の場や条件、素材が定まります。そして、それらを反映した個性をもった、地球の誕生の物語がはじまります。誕生の激動の中で、マグマの海ができ、地球の表層で最初の固体となった大地ができます。その後、大気や海など地球の固有の特徴も明瞭になります。激動の時期が落ち着いてくると、地球の表層環境も整っていきます。その中で生命の誕生の物語もはじまります。そんな地球のはじまりの物語を地質学的にまとめていこうと考えています。
 実は、このテーマには、博物館にいるときに取り組んだことがありました。それから20年、地質学だけでなく、天文学、惑星科学も進んできました。その進歩を加えて、再度、地球最初の5億年を考えていこうとしてます。想定している時代は、冥王代の証拠が少なくなる40億年前から、地球や太陽系の形成がはじまった45.7億年前あたりまでを意味しています。
 現在から1劫前、43億2000万年前は、地球形成後の重要な期間です。地球に証拠がなくなる時代です。あったとしても限られた証拠、間接的な証拠やモデル、シミュレーションなどから推定していくことになります。わからない時代です。でも、だからこそ面白いそうです。


Letter■ 新年・サバティカル 

・新年・
今年こそは、新型コロナウイルスに
「打ち勝った」年になればと思います。
そんな気持ちとは裏腹に、オミクロン株が
国内でも感染も広がってきました。
全国的に3回目のワクチン接種が始まりそうです。
しかし、8ヶ月たってからですので、
もしかするとオミクロン株の感染爆発が
終わってからかもしれません。
効果はどれくらいかわかりませんが、
安心のためにも早く接種ができればいいのですが。

・サバティカル・
現在の大学の退職まで、3年3ヶ月となりました。
その間にすべきことを考え、
どのように達成していくかの計画を立ています。
その中で2023年度前期に研究休暇(サバティカル)があります。
サバティカルは非常に重要になりますが、
その不在の期間の講義調整を考えています。
2022年度から講義なども変動があります。
それも含めて研究計画を立てています。
その間、ここで紹介した研究テーマを
大学での最後の仕事として進めていくことにしました。


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