地球のつぶやき
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Essay■ 239 地声人語:大地の声を聞け
Letter ■ 冬到来・天声人語


(2021.12.01)
 地質学とは、大地の岩石を調べていきます。岩石は物言わぬ存在です。しかし、聞き耳を立てれば、いろいろな声が聞こえてきます。地質学という耳は、日夜、聞く範囲を拡大しているのですが・・・。


Essay■ 239 地声人語:大地の声を聞け

 地質学を専門としているのですが、研究テーマは地質学の概念や本質的な属性を深く考えることにしています。地質学のプロパーな研究テーマとはかなり異なっています。
 野外調査を、年に何度も実施しています。野外調査の通常のものではなく、地質学で典型とされる露頭を中心に見ています。典型的な露頭を観察することで、地質学の概念や本質について考えるきっかけにしています。そのため、重要と考えている露頭には、何度でも足を運びます。
 大学に来て20年近くになりますが、この研究スタイルでの野外調査が定着してきました。日本各地で、露頭を探し出しては、その前で五感で岩石を接し、感じながら、いろいろなことを考えています。
 地質学の一般的な研究手法は、露頭を調べことからはじまり、岩石を採取して、実験室でさらに詳しく分析、計測などして特徴を調べて、地質学的情報を引き出していきます。露頭や試料から得た地質学的情報は、客観的根拠、検証可能性と再現性を持っているものになります。
 地質学は、岩石、つまり大地を研究対象にしています。大地の素材としては、岩石や鉱物、地層、化石などを固体物質が中心になります。
 時には、液体を対象として、地層の形成状況から、海洋の起源や変遷や堆積盆、湖沼、河川などの復元することがあります。気体の反映として、堆積物の特徴(酸化、還元など)から大気の特徴を捉えその変遷を考えたり、火山噴火に伴うガスや揮発成分の関与を調べることもあります。さらに、生物の痕跡として化石を扱い、そこから生物個体だけでなく、過去の生態系や古環境を推定していきます。
 地質学は、固体が中心でしたが、それ以外液体、気体、生物へと、対象を広げてきました。
 地質学者が野外で調査して素材を入手していくので、対象は、地球表層の物質になります。ところが、岩石には、地殻内部や、マントルからマグマを経由して噴出することもあります。深部からもたらされた岩石によって、地球内部の情報もえることも可能となっています。
 地質学の対象は、地表の2次元から地下へと伸びる3次元へと広がりを持っています。
 現在、存在している素材を用いていますが、素材の年代測定ができれば、岩石が形成された過去を復元して、地球の歴史を編むことがきるます。時間軸で過去に、4次元的に拡張できるようになっています。
 以上みてきたように、地質学は、身近な岩石から、地球内部へと3次元的、過去へと4次元的に拡大してきました。
 地質学者は、拡大された時空間にある大地の声を聴きとり、人の言葉へと変換していくことになります。深くなればなるほど、大地のつぶやきは聞こえにくくなります。古くなればなるほど、大地のささやきは小さくなります。しかし、技術の進歩、地質学の体系化が進むと、そのような小さな大地の声を聞きとれるようになってきました。これは、「地声人語」と表現できるのではないでしょうか。
 今後、地質学者の地声人語の役割も、ますます重要になってきてます。なぜなら、地質学の対象は、いまや地球に留まらないからです。
 月や小惑星のイトカワやリュウグウから岩石試料が入手できています。隕石もその母天体である小惑星を調べるための重要な素材となっています。実物さえ入手できれば、地質学的手法(岩石学、鉱物学、地球化学、年代学などの分野)を用いることができ、地質学的解釈も適用できます。岩石の声を聞き、言葉にするのは、地質学の出番となります。
 実物試料が入手できない場合でも、探査機が着陸した火星などでは、現場での観測や分析が実施され、客観性のあるデータがえられています。そのデータの解釈には、地質学の知見は不可欠でしょう。また、火星から由来した隕石も見つかっているので、探査データと付き合わせることで、火星も地質学的な検証の圏内になってきました。
 惑星探査として、太陽系内の天体も各種の観測が進められてきました。固体表面をもった天体で、表層地形が、探査機の精細な画像によってえられています。地形の成因や形成過程において、地質学的体系は重要な働きをしています。地質学の適用は、太陽系の地球外の惑星や衛星、小天体、彗星などにも広がっています。3次元の広がりも、地下だけでなく天空方向へと伸びています。
 近年、太陽系より外の恒星の周りで見つかってきた、系外惑星が多数あります。太陽系しか知らない地球人にとって、異形といえる惑星が多数発見されてきました。しかし、異形な惑星であっても、惑星系形成に関しては、地質学が応用されていくはずです。
 惑星探査や天文学的観測などとともに、地質学も宇宙に向けて適用範囲を広げていきます。対象が天空に向かっていくと、地質学は「天声人語」となってきそうです。
 どんなに地質学の裾野が、地球を飛び出し、太陽系の天体、太陽系外惑星に広がっていったとしても、足元の自然の理解が、地質学の基礎となっています。地質学にとって、足元の大地の理解は、露頭を地質調査することからはじまります。地質調査の重要性は、地質学者なら充分認識しているはずです。地質学者は、必要となれば天声人語の果たせますが、地声人語の姿勢は、常にもっている必要がありますね。


Letter■ 冬到来・天声人語 

・冬到来・
我が家の車は、10月の遠出のときに
早々に冬タイヤにしています。
10月末にでかけたとき、峠で雪に見舞われ、
11月中旬にも、峠で雪になりました。
ドカ雪も降った地域もあり、
冷え込みあり冬らしくなってきましたが、
里は、ではなかなか雪が降りませんでした。
11月下旬になって、わが町にも、連日の積雪があり
少々遅めの初雪となりました。
12月には、本格的に雪の季節になります。
根雪の時期は今年はどうでしょうか。

・天声人語・
天声人語は、朝日新聞のコラムのタイトルで有名です。
「天に声あり、人をして語らしむ」
という中国の古典とされているそうですが
その由来を、何人かが調べているのですが、
どうも定かではないようです。
この意味や解釈はいろいろできるでしょうが、
なかなかいい言葉です。
「地声人語」は、「天声人語」を借りた
地質学者の立ち位置に転用した造語です。
これも、いい用語に思えるのですが、
自画自賛でしょうか。


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