地球のつぶやき
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Essay■ 234 シシュフォスの岩:摂理と不条理
Letter ■ 野外調査の準備を・撮影日和


(2021.07.01)
 永遠に繰り返されることを、それも無目的だと、徒労感が湧きます。そのような徒労は、人には不条理や虚無感を生みます。自然現象では、似たような現象がありますが、自然の摂理に従っています。


Essay■ 234 シシュフォスの岩:摂理と不条理

 以前、学校教員とともに、研究会をしたことがありました。私が講師として、数十名の小学校教員に、試験的な研究授業をしました。河原で石を積むことから、河原の石の種類と由来を考えようとするものでした。構想としては、上流で同じことをして、石の違いや由来を考えていこうという企画でした。子どもも大人も、単に石を積むということですが、倒れれば大騒ぎし、高く詰めれば歓声があります。石ころを積み上げることは、楽しめる遊びになります。
 海岸や山頂には、石が積まれたままになっていることがあります。積み上がった石は、バランスは安定しているようにみえるものがほとんどです。ところが、人が重心をうまく見つけて、意図的に不思議なバランスを持たせて積み上げたものがあります。ロックバランスと呼ばれています。コツがあるのですが、積み上げるには、コツを習得しなければなりませんが、それには熟練を要します。
 自然界にはバランスロックと呼ばれる景観があります。どうしてこのようなバランスで、大きな石が立っているのかが、不思議に思えるものもあります。そのようなところは、観光名所になっています。
 宗教的な聖域には、死者を弔うために石を積み上げられた「賽の河原」と呼ばれるところがあります。賽の河原とは、死んだ子どもが、苦を味わうことを意味します。冥土の三途(さんず)の河原で、子どもが石を積みあげようとするのですが、鬼(餓鬼)が来て壊していくので、高くは積み上がらず、子どもをさいなめるというものです。そのうち地蔵菩薩が来て、子どもを救ってくれるというものです。
 賽の河原では、石を積んでは壊されるということが繰り返されます。西洋にも似たことがあり、その言い回しとして「シシュフォスの岩」というものがあります。西洋では、古代の神話がよく使われますが、「シシュフォスの岩」もギリシア神話にちなんでいます。
 シシュフォス(Sisyphos)は、シーシュポス、シシュポス、シジフォスなど、いろいろな表記があるのですが、ここではシシュフォスを用います。
 ギリシアの神々の系譜は複雑で、シシュフォスの岩に関わるところだけ紹介しましょう。河神アーソーポスから逃げているゼウスの居場所を、枯れないペイレーネーの泉の作ってもらうために、シシュフォスは告げ口をしました。また、兄弟のサルモーネウスの娘テューローを誘惑したことでも、ゼウスの怒りを買いました。そのため、シシュフォスを捕まえタルタロス(奈落)に連行するように、タナトス(死の象徴の神)に命じました。しかし、タナトスはシシュフォスにだまされて幽閉されてしました。
 タナトスがいなくなったので、誰も死ぬことができなくなり、困ったアレースは、タナトスを助け出しシシュフォスを捕らえタルタロス(冥界のこと)に連れていきました。その時も、シシュフォスは妻に策略として葬式をするなと命じていました。シシュフォスは、妻が葬式をしないので、復讐するために三日間だけ生き返らせてくれと頼み、再度、この世にもどったのですが、そのまま居座りました。ゼウスの使いのヘルメースがシシュフォスを、冥界に連れ戻しました。
 シシュフォスは犯した数々の罪として、冥界で罰を与えられました。それは、大きな岩を山頂まで上げるというものです。その岩を持ち上げて山頂に着きそうになると、岩は転げ落ちます。持ち上げてはまた落ちる。これが永遠と繰り返されるという罰です。
 このような神話から、シシュフォスの岩は、終わりのない労働、徒労の意味で使われます。カミュは、「シーシュポスの神話」という短い随筆を書きました。これはカミュの「不条理の哲学」の真髄として、有名でもあります。
 シシュフォスの岩と似た地質学の現象として、タービダイト流があります。タービダイト流とは、海底の斜面に溜まった堆積物が、地震や洪水などをきっかけに、一気に土石流となって流れ下るという現象です。タービダイト流は、さまざまなサイズの土砂を含んだ、密度や粘性の大きい流体(混濁流、密度流などと呼ばれます)になります。そのため、水中であっても、海底の斜面に沿って流れていきます。大陸斜面にはこのようなタービダイト流によって溜まった地層(タービダイト層)が、何層も形成されています。
 タービダイト流は土砂が混じった粘性の大きな流れなので、前に溜まったタービダイト層が削られるという現象が起こります。タービダイト流が大規模になれば、いくつも前のタービダイト層をも削剥します。削られた土砂はタービダイト流に飲み込まれます。せっかく溜まった地層が、削られるという現象です。賽の河原やシシュフォスの石のような不条理さを思わせます。
 しかし違いがあります。それはタービダイト流が自然現象として起こることです。賽の河原やシシュフォスの石は、子どもが積んだり、シシュフォスが持ち上げたりしていました。石の積み上げには、人の労力、エネルギーが関与してました。タービダイト流は、エントロピーの法則にかなった現象になっています。
 また、削られた土砂は、そのタービダイト流に取り込まれるので、別のところに運ばれ、今回できるタービダイト層として堆積します。削られた土砂は、無に帰する訳ではなく、再配置されるます。これも質量保存の法則にかなっています。
 タービダイト流は、人は関与しない完全な自然現象です。日本列島には、タービダイト層が典型的な地層として、各地に分布しています。自然の摂理にかなった地層が日本には広く分布しています。


Letter■ 野外調査の準備を・撮影日和考 

・野外調査の準備を・
6月は、暖かい日や寒い日、湿度の高い日など、
天候の変動が大きかったように感じます。
しかし、夏の気配は濃厚になってきました。
エゾハルゼミの声は聞こえなくなりました。
木の葉も若葉から濃い青葉になりました。
いい季節になってきたので、野外調査にでたくなります。
あとしばらくは、自粛、我慢が必要ですが、
そろそろ準備をはじめています。

・撮影日和・
先日、新しい魚眼レンズを購入しました。
天気のいい休日に、公園にいって試し撮りをしました。
子どもが来るような公園ではないので、
静かに撮影できるかなと思っていました。
9時過ぎに来たのです、公園には私一人でした。
撮影していると、次々と人が来て、
結局、私以外に3組4人になりました。
外の空気を吸いたくなるようないい天気でした。
そのうち2名はカメラをもって
撮影に来ているようでした。
私同様に撮影日和ともなったようです。


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