地球のつぶやき
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Essay■ 230 べき乗則:想定外を想定
Letter ■ 緊急事態の解除・対面授業


(2021.04.01)
 ものごとの起り方は、正規分布だけではありません。自然現象には、べき乗則で起こるものが多く見つかっています。自然現象、特に自然災害は、想定外を想定しておく必要性がわかります。


Essay■ 230 べき乗則:想定外を想定

 一般的な様子を知るため、ものごとの性質を定量化して、その平均をとることがよくされています。入試や定期試験の点数、年齢ごとの身長や体重、などいろいろなところで用いられています。かつては、平均値の計算は手作業や電卓でしていたのですが、今では表計算ソフトを用いれば、データを入力すれば、間違うことなく、即座に求めことができます。データの特徴を表すために、今や平均値はありふれたものとなっています。
 点数や身長の例では、一人にひとつの点数や身長のデータがあり、人数分の個々の値がありました。それを平均した値が、点数や身長の平均値となります。平均値が、その集団の点数や身長の特徴となります。
 ところが、その値が数値ではない場合、例えば確率で示されるもの、関数で示されるものなどもあります。それぞれの場合によって、平均値の考え方は変わってきます。
 確率で示されるものであれば、平均値の意味するのは、その集合の期待値となります。関数の場合で、ある区間で微分可能ならば、平均値の式は直線の式となり、その式に平行な接線、つまり微分した値がその区間に存在するということを意味します。「ラグランジュの平均値の定理」と呼ばれて、利用されています。
 ラグランジュの平均値の定理を、2つの関数の関係へと拡張していくと、平均値の定理は、2つの関数の微分の比が存在するという「コーシーの平均値の定理」になります。また、コーシーの平均値の定理で極限をとると、「ロピタルの定理」(ベルヌーイの定理とも呼ばれます)になります。
 つまり、平均値を求めるという数学的操作も、拡張していくと、いろいろな側面があることがわかります。
 さて、本題です。最初に示した一番単純な平均値、例えば大人の身長の平均値とは、平均値の周りに測定した値が、分散していることになります。その分散の様子は、平均値に対して、左右対称に釣鐘型になっています。平均値の付近が多く、離れると少なくなっていきます。このような値のばらつき方は、統計では「正規分布」と呼んでいます。
 正規分布するものは、左右の裾野は平均から外れていくことになります。離れれば、そのような値はなくなります。2020年の文部科学省のデータによると、日本人の20歳から24歳の男性の身長の平均は171.5cmで、女性は158.49cmとされています。正規分布なので、身長2mの人は稀ですがいます。しかし3mの身長の人はいなくなります。つまり、正規分布とは、ある平均的な値を中心に、データが集まっている状態に対して、特徴を捉えるためには有効な方法といえます。
 正規分布は重要な分布なので、統計学ではいろいろと性質が研究されているので、さまざまな利用ができるようになっています。また、左右対称ではなくても、分布の特徴が関数化できれば、統計学的処理によって、正規分布に変換する手法もあります。正規分布に変換できれば、さまざまな手法が利用できます。
 しかし、自然界には正規分布にならない現象も多くあります。例えば、地震のマグニチュードの大きさと頻度の関係、火山噴火や斜面崩壊、雪崩、河川氾濫などの自然災害の規模と頻度の関係は、正規分布が当てはまりません。
 これらの現象に一致する関数を当てはめていくと、べき乗分布になっています。べき乗分布とは、現象の2つの観測量(規模と頻度、あるいはサイズと頻度)が、べき乗で比例するという関係です。このようなものをべき乗則、あるいはスケーリング則(scaling law)と呼ばれています。その式は
  y=x^-a
となります。ここでxは現象の規模やサイズ、yは頻度です。aをマイナスにしたのは、規模が大きなものが少なくるというグラフにするためです。このaは、スケーリング指数と呼ばれるものです。
 べき乗関数と似たものに指数関数があります。
  y=e^-x
と表せます。似ていますが、x(規模やサイズ)が指数となっており、底がネイピア数(e)となっています。
 べき乗関数と指数関数の違いは、数学的には対数をとると明瞭になります。指数関数の両辺の対数をとると、yが対数になりますが、xは対数ではなく1次式になります。その結果、y軸だけを対数(片対数)にすると、グラフは直線になります。べき乗関数では、両辺の対数をとると、直線の式の形になり、直線の傾きの値がスケーリング指数(a)となります。
 これは、両関数の減少の仕方の違いを示しています。指数関数は、一気に減少するため、はずれた値の出てくることは、急激に小さくなっていきます。一方、べき乗関数は、最初が減少が大きのですが、だんだんと減少の傾向は小さくなっていきます。指数関数よりクラフの裾野が、緩やかになっています。つまり、べき乗関数の現象では、規模の大きなものは、頻度は小さいのですが、起こる確率は、下がりにくいという特徴になります。このような減少のしかたは、ロングテール(long tail)とも呼ばれています。稀ですが、とんでもなく大きな値の現象が、起こることになります。
 べき乗則に従っている自然現象では、これまで起こらなかったとしても、今後も起こらないとはいえないということになります。自然現象にはいいことばかりでなく、巨大地震、巨大火山噴火、隕石の衝突など、「想定外」の規模のものが起こりうるという、当たり前のことが導き出されたことになります。
 自然現象でも地震や火山などでは、有史以降起こったことがなくても、過去をずっと遡っていくと、超巨大の規模のものが起こっていることが検証されています。自然現象でべき乗則になるもの、重要な意味をもっています。想定外の規模の自然現象は、稀ではあるが、起こる可能性があることを、常に意識しておかなければならないということです。「想定外」は「想定」可能であることが、数学的にわかっているのです。


Letter■ 緊急事態の解除・対面授業 

・緊急事態の解除・
緊急事態の解除と新年度や花見の時期と重なりました。
それまで多くの人が抑圧されていたので、
開放されたい気分になるはずです。
多くの人が出歩くことは、想定できたはずです。
そんな簡単な想定ができないはずはありません。
大規模な火山噴火や地震は想定外とするのは
間違っていることが、数学的にわかっているのに
起こらないと「想定」して安全対策をしていました。
今回のコロナへの緊急事態の解除から
起こる事態も想定できるはずですが、
想定してないのでしょうか。
政府は、どうもちぐはぐな対処をしていますね。

・対面授業・
大学は新年度を迎えました。
今年こそ、新入生は大学生活を謳歌してもらいたのですが、
まだ先になりそうです。
コロナへの対象法は整ってきたので、
まったくの遠隔授業の状態ではありません。
それでも、通常の大学生活とは、大きく異なっています。
早く国民全員にワクチン接種が普及して、
一日も早く、通常の対面授業が戻って欲しいものです。
対面授業の重要性、ありがたさを痛感しています。


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