地球のつぶやき
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Essay■ 198 充足理由律と旅
Letter ■ 主催大学・人柄


(2018.07.01)
 久しぶりにゆったりとした旅ができました。これまでの旅では目的を達成を重視していました。旅には過程にこそ意義ある場合があります。旅の行程や、ゆったりとした時間の流れを味わっていくことも、旅の意義ではないでしょうか。


Essay■ 198 充足理由律と旅

 先日、学会で長崎に出張しました。会場は、都市からは離れていたのですが、巨大観光施設ある付近なので、交通や宿泊などには便利なところでした。学会は2日間でしたが、前泊と後泊をすることになり、3泊4日の旅となりました。そのため、時間的には余裕がありました。近県や関西、関東から来た人は、1泊2日での参加だったようです。北海道からの学会出席は、遠距離というハンディもあるのですが、今回のように急がないときには、非常にのんびりとゆったりとした「旅」ができました。それまでの研究の旅と比べながら、いろいろ考える機会となりました。
 今回の旅は、時間的余裕があっても、あえてあちこちを見て回ることはせず、時間をたっぷりかけて、行程の付近をぶらぶらと寄り道しながら、一服しながら、移動しました。目的地への移動の行程も、旅として楽しむことにしました。
 江戸時代の旅のように、自力、自分の足で移動していた時代、旅の大部分は移動行程を意味していてたはずです。目的地での目的を達成することは、中間地点に位置しています。帰りの旅も同程度の時間をかけることになります。
 移動手段の発展にともなって、目的を果たすことが最優先になりました。移動時間は少なければ少ないほどいい、移動速度は速けば速いほどいい、という「移動」になってきた。その結果、私たしは「忙(せわ)しなく」なりました。旅ではなく、目的達成のための「移動」となりました。いまや「旅」は、校務や公務、仕事しておこなうときは、なくなってしまったようです。
 今まで忙しなく働いていた私は、移動しかしていませんでした。学会も自分の発表だけが最優先になっていき、その後は論文を書いて発表してればいいのでは、となりきました。野外調査は続けていたのですが、そのときでも調査目的が最優先で、露頭から露頭へと「移動」していました。
 そんなとき、今回の「旅」をすることになりました。移動か旅、点から点へと見るか、点と点の間に線を見るか、行程や過程が無駄と見るか、重要とみるかの違いではないでしょうか、もっと大きな違いは、旅にはその過程を味わう心、気持ちに大きな影響を与えることがあります。
 さて、ここから本題です。「充足理由律」という言葉を御存知でしょうか。17世紀のドイツの哲学者ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz)が唱えた考えで、「どんな事実についても、それが事実であるべき理由がなければならない」となります。いいかえると、何かの事象が起これば、それが起こるには原因がなければならない、あるいは真であるためには、それが真である理由が充足されなければならないというものです。論理体系を保証するためにも、必要不可欠な原理となります。
 充足理由律とは、なにかの事象が起こったら、つまり結果があれば、それを起こした原因が必ずあるはずだ、というものです。因果律、因果関係ということもできます。ただし、充足理由律とは、因果関係が解明できていなくても、理由はきっとあるはずという前提になっている考えです。
 充足理由律は、要素還元主義と時間の不可逆性にも関係します。
 要素還元主義とは、ある事象という総体は、いくつかの要素に還元でき、それぞれの要素を解明していけば、総体としての事象も解明できるという考えです。複雑な事象であっても、要素に還元し、ひとつずつ解決していき、すべての要素が理解できれば、複雑な総体も理解できるということになります。現在の科学や技術は、そして人文学や社会学も、およそ論理を用いる学問体系であれば、要素還元主義を用いています。因果関係が成り立てば、原因があれば結果が必然的に起こり、結果は原因があったからだ、ということになります。原因追求はできる。結果はついてくる。これは人のモチベーションを生み出す原動力にもなります。これが要素還元主義の意義でしょう。
 原因が先にあり、その後に結果が生じます。この順番は入れ替えることはできません。これが、時間の不可逆性を導きます。目的を達成するためには、要素還元主義や時間の不可逆性を前提として、過程は簡単、明瞭、短い、最小の方がいいわけです。そしていったん、定理、法則、定式ができれば、過程は持ち出す必要もなくなります。そのような成果や学問実績の積み上げが、科学を進め、技術を発展させることになります。
 充足理由律は論理学の世界では当然のことなのですが、世の中、論理だけでは成り立っていません。人の感情の世界です。感情では、因果関係がなくても、理由や原因は不明であっても、心が充足することがあります。それが先に述べたような、目的よりも過程を重視する「旅」に象徴されるものではないでしょうか。


Letter■ 主催大学・人柄 

・主催大学・
学会の開催校は学長の方針で、
茶道を重視していました。
1年生全員が必修で1年間履修しているそうです。
上級生も履修する学生もいるとのことです。
学会でもお茶が振る舞われていました。
私の一服いただきました。
まったく作法を知らなかったのですが、いい雰囲気でした。
接待くださった先生も穏やかでいい方でも
おもてなしもいただきました。

・人柄・
学会は小さいもので、
参加大学は百校ほどで、出席者は百数十名程度でした。
この学会のホストの代表の先生が明るく
しゃきしゃきとした方で楽しい方でした。
学会を手伝っておられた職員とも仲が良さそうで
この大学の人的交流がうまく行っている
ということが感じとれました。
学会も施設見学会も、有意義なものとなりました。


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