地球のつぶやき
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Essay■ 165 Ubiquity:遍在する冪乗則
Letter ■ それでも調べる・中秋の名月


(2015.10.01)
 ある現象が起こったら、その現象は結果となり、その現象を起こした原因があるはずです。今、その因果関係がわからないのなら、調べることは立派な研究となります。しかし、そこに因果関係がないこともあるのです。


Essay■ 165 Ubiquity:遍在する冪乗則

 "Ubiquity"という語はあまり聞き慣れない、難しい英語です。コンピュータに詳しい人は、OSのLinuxの一種(Ubuntuと呼ばれるフリーソフト)で動くプログラムの一つに、この名称を持つものがあり、それを思い浮かべるかしれませんが、かなりの少数派でしょう。Ubiquityは、「遍在」、「至る所に存在する」という意味で、平たくいえば「どこにでもある」ということになります。「遍在」は、同じ発音で「偏在」とは全く反対の意味を持ちます。Ubiquityは、ラテン語のubiqueを語源していて、「everywhere、至るところ」という意味です。
 遍在とは、どこにでも存在していることなのですが、その存在が知り得るかどうかはわかりません。今回は、気づきにくい遍在した存在について考えていきましょう。
 その偏在している存在は、だれもがなんとなく存在を感じているのですが、その存在に実態には気づきにくいものです。まったく関係ない現象に遍在するもの。同じ現象でもスケールが大きく違ったものに、見かけの全く違ったものに偏在するもの。存在する対象がかけ離れれば離れるほど、そんな遍在は気づきにくいものです。さらに偏在の本質となると、なおさら見抜きにくいものになるはずです。
 例えば、大規模な地震は多く、小規模なものは少ないという規則性。売れている商品には、爆発的に売れるがしばらくすると売れなくなるというもの、爆発的ではないが少しずつ長く売れ続けるものがあるという規則。一定量の砂を上から落とし続けると砂山は大きくなるが、あるとき突然崩れるという規則。株価の日々上下していますが、大きな崩落、激しい乱高下は稀にしかないが必ずあるという規則。インターネットのサイトで数個からリンクされているものは無数にあるが、100ヶ所から、1000ヶ所から・・・とリンクされている数が多くなるほどサイトの数は著しく減るという規則。などなど。
 ここで示した例は、スケールも性質も、自然現象だったり経済活動、消費行動だったりし、一見するとなんの関係もないように見えるものです。また、予測は不可能なのですが、きっと起こるものです。しかしそれがいつ、どこでかはわかりません。こんな多様でバラバラの事例ですが、個々の事例内には、何らかの規則性が存在しそうにみえます。
 実は、このような事象、事物には、すべてに共通する、遍在する法則があります。それは、冪乗則(べきじょうそく)と呼ばれるものです。指数の形式、あるいは対数で示されているものは、すべて冪乗則と呼ばれます。非常にいろいろな規則があります。その関係が法則や規則となっているものも多いです。ところが、規則性がわかっているからといっても、その原理や因果関係がわかっているとは限ならいものも多数あります。
 法則の原理がはっきりしているものとして、万有引力の法則は距離の2乗に反比例します。電磁気力も光の減衰も同様に逆2乗の法則になります。これらは、作用する場を面として捉えると、距離の2乗に比例して面は増えるため、作用力は2乗に反比例し減少するということになります。
 一方、まだ原理が定かでないものもあります。先ほどの示した例の多くはこちらです。他にも、乱流のエネルギーは長さの5/3乗にに比例し、動物の代謝は体重の3/4乗に比例しているという規則性が知られていますが、その理由はまだ不明です。
 規則性があるのがわかっているもので、原因がまだわかっていないものは、立派な科学となるはずです。研究されている人や分野もあるはずです。しかし、それが徒労に終わるかもしれないのです。
 マーク・ブキャナンは、冪乗則を「歴史の方程式」(ISBN4-15-208528-2 C0040)という書籍にしました。副題は「世界が考えているよりずっと単純なのはなぜか」というものでした。書名を「歴史は「べき乗則」で動く―種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学」と変えて、文庫化されています。この本の原著のタイトルが、実は”Ubiquity”となっています。複雑な歴史、世の中、現象に偏在している規則性、冪乗則があるというのです。現象とそこから導かれる冪乗則は、グラフ化、統計処理をすれば、導き出されるものです。それは、単純で、一目瞭然で、明快です。そして、それらの多くは、コンピュータによるシミュレーションとも一致していきます。
 ところがブキャナンは、冪乗則になる現象が、フラクタルの臨界状態から起こることであり、現象自体には原因がないといいます。フラクタルとは、部分と全体が自己相似になっているもので、規則は簡単なのですが、起こる現象は複雑になります。フラクタルで臨界状態(安定が崩れる寸前)になっていると、どの部分が、その規模で、あるいは全体が崩壊するかは、まったくわからなくなります。どこか壊れてもおかしくないという状態なのです。ただし、頻度は小さいものは多数起こり、大きいものは稀だという冪乗則が働きます。
 もしこのようなフラクタルな臨界状態が本質なら、原因は現象の中に見出されないことになります。地震の時期と規模などが、この臨界からの崩壊によるものだと考えられています。また、生物の大絶滅の同じだと考える人もいます。自然現象だけでなく、人口集中や経済活動などの人間活動にも冪乗の規則性があります。それらの現象には、原因が現象の中にはないことになります。現象を調べても、事実の記載はできても、因果が見いだせないことになります。このような不思議なことが、冪乗則の中にはあるというのです。
 通常の研究では、いろいろな現象で繰り返し起こることには、原因がありはずだと考え、調査研究が進められています。もしその現象が、冪乗則であれば注意が必要となります。その現象には因果に基づかないものがあるからです。自然現象だけでなく、あらゆる冪乗の規則性の現象には、原因を調べてもわからないものが紛れ込んでいます。これは、科学が「すべからく因果関係あり」として研究を進めていくことに、待ったをかけていることになります。冪乗則は、かなり恐ろしい遍在則なのかもしれません。


Letter■ それでも調べる・中秋の名月

・それでも調べる・
上のように原理を述べたとしても、
科学者は現象を調べていくでしょう。
そして予測、予知もしていくでしょう。
地震、火山、山崩れ、洪水などは、
現象の頻度は冪乗則になっているのですが、
調べないわけにはいきません。
なぜなら、その現象は災害になり
起これば困る人がいるからです。
行政は災害への対策を考えなければならないし
科学者、技術者も災害を防ぐことは
社会的責務として対応しなければならないからです。

・中秋の名月・
9月末、北海道は冷たい空気がはってきたので
急に冷え込みました。
今年は、27日が中秋の名月でした。
私は忘れていたのですが、
メールで見られてた方がおられ知らせていただき
思い出すことができました。
中秋の名月は9月27日ですが、
翌28日に満月になり、月が地球に最も近づき、
最も大きく見えるスーパームーンになりました。
みなさんはご覧になられたでしょうか。
このメールマガジンは、28日に配信しますので、
残念ながら、見えたかどうかはお知らせできませんが。


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