地球のつぶやき
目次に戻る

Essay■ 124 シンギュラリティは、いずこ
Letter ■ ゴールデンウィーク・嬉しいこと


(2012.05.01)
  シンギュラリティ(Singularity)とは、特異点という意味で使われることがあります。21世紀はあまりいい世紀に思えません。大きなイノベーションを起こしてくれるシンギュラリティを求めているのかも知れません。シンギュラリティは、誰が、何が、もたらすかはわかりません。でもシンギュラリティを希求する気持ちは高まっているように思えます。


Essay■ 124 シンギュラリティは、いずこ

 21世紀になってもう10年以上もたってしまいました。20世紀後半、高度成長、Japan as No.1、バブル景気を背景に語られた21世紀の夢は、輝いていました。そんな夢を抱いていたのに、平家物語の「奢れる者は久しからず」さながら、バブル崩壊、その後も継続する低迷期、そして迎えた21世紀。ITバルブの崩壊と9.11のテロの象徴的幕開けから、さらなる経済低迷、金融崩壊、3.11の大災害・・・。夢はすぼみ、つらいことや嫌なこと、不甲斐ないことなど、マイナスのことばかりが目立つ時代になりました。
  20世紀後半を青春として生きた私のような世代にとって、現実の21世紀は、夢とのギャップがあまりに大きいものでした。20世紀の科学や技術の躍進で、機械化、自動化、電子化、そしてバブルの恩恵を受けた世代は、暗転時のギャップも増しているのではないしょうか。21世紀に生まれた子どもたちは、そんなコントラストを知ることなく、ギャップも感じることもないでしょうか。単なる年寄りの「昔は良かった」の語り草でしょうか。
  20世紀の科学技術は、指数関数的な成長をしてきました。以前紹介した「ムーアの法則(Moore's Law)」(2008年1月1日発行 72 進歩よ止まれ:ムーアの法則)では、トランジスタやICなどの集積回路度が、一定のスピードで進歩するのではなく、時間とともに速度が増して、加速度的に進歩しているとされました。正確な「指数関数」ではないにしても、「指数関数的」であることは、多くの人が実感していることでしょう。
  トランジスタやICなどの集積回路の進歩は、IT関連の技術、インターネット、電話通信などをも刺激し、大きく発展させました。ムーアの法則は、ITの世界だけでなく、いろいろな分野に適用、展開が可能かも知れません。
  ある分野で新しい発想や技術が生まれると、それに関連した成果が次々と連鎖して生まれることが、よく起こります。そのような見方を、ムーアの法則を、より一般化して「収穫加速の法則(Law of Accelerating Returns)」と呼ばれることがあります。
  収穫加速の法則は、重要な発想や技術が生まれると、既存のものと次々と連鎖反応を起こして、加速的、指数関数的に技術革新が起こったり、質的な変革が起こることをいいます。イノベーション(innovation)を促し、多くの益を得ることです。
  IC技術が多様な家電を、インターネットが情報の爆発を、携帯電話が通信革命を、宅配が郵政事業を変革させ、CDがレコードを駆逐し、MP3がCDを淘汰しました。
  しかし、限りなく続くイノベーションなどありえません。少し考えるとわかるのですが、ムーアの法則も、いずれ限界を迎えます。集積回路の例でいえば、回路では電子の動きをコントロールすることで演算していきます。回路である限り、サイズを原子1個分より小さくできません。原子のサイズが集積回路の物理的極限となります。その以上の集積は、同じ技術の改良では不可能となります。どんな成長にも、限界があるということです。
  一般化された「収穫加速の法則」にも、終わりを迎える時が来るはずです。同じ技術や発想では、やがて極限に達し、限界になるということです。「奢れる者は久しからず」。何においても突き詰めていくと、やがては到達点、限界に達するのでしょう。
  到達点に達した時でも、人は停滞を望みません。満足することなく、さらなる高み探し目指します。そのためには、全く別の発想、新技術、新素材などの導入によって、新しい突破口を見出すことがあります。そのような突破口を「技術的特異点(Technological Singularity)」といいます。技術的特異点は、手書きから印刷へ、電気の発明、真空管からダイオードへ、インターネット通信網などなど、大小さまざまなものがありました。そして技術的特異点が見つかると、急激な収穫加速の法則が起こりました。そして、次なる技術的特異点を求めます。
  技術的特異点の誕生には、一人の偉大な発明家、天才、秀才、あるいは偶然によるもの、企業や軍部の技術、集合知によるもの、いろいろなパターンがあります。技術的特異点の規模も様相もさまざまです。
  何が特異点になるかもわかりません。どんなに素晴らしい特異点的技術であっても、ビデオのベータやコンピュータ技術のTRONも、主流にならなければ、やがては廃れていきます。主流になるかどうかは、人や社会の潮流、時間の淘汰という過酷な試練があります。そんな主流派も、あるとき傍流や反骨など少数派から生まれたものです。だから、心や行動、公表・表明への自由さが必要でしょう。
  技術だけではなく、思想や社会、文化においても、特異点は存在すると思います。帝国主義から民主主義へ、開発から環境へ、発展から持続可能性へ、などいろいろな特定点がありました。21世紀の暗さ、マイナスを、明るくプラスに変える特異点は見つかるでしょうか。見つけることができない時、人々の不満が頂点に達した時、世界は恐慌、戦争などの泥沼に突入してきたという歴史が繰り返しました。
  閉塞的な資本主義、機能しない民主主義、弊害が目立つ技術。私たちは、物質や金銭ではない価値観を求めているのかも知れません。今までにないシンギュラリティ(Singularity、特異点)を待っているのかも知れません。停滞も是、マイナスも良し、我慢が美徳、消費が悪で「もったいない」が善、など、逆転とも思えるような価値観、イノベーションがもしかすると、シンギュラリティのトリガーになるかもしれません。今示した価値観は、ほんの少し前、私が子供の頃の貧しかった時代、20世紀中頃、あるいは江戸時代、多くの世界、社会が過ごした有り様でした。
  たとえどんな路傍の芽とはいえ摘むことなく、育み必要があります。そんな自由さを保証する必要があります。現代社会においては、成熟した民度があってこそ成し遂げられる条件でしょう。私たち人類、あるいは日本人は、そこまでの高みに達しているでしょうか。今がその時かも知れません。乗り遅れてはいけません。


Letter■ ゴールデンウィーク・嬉しいこと

・ゴールデンウィーク・
いよいよゴールデンウィークに突入です。
私は講義があるのでカレンダー通りに大学にでています。
教員によっては休講にする人もいるようです。
遠くから来ている学生は帰省するものもいるようです。
しかし、文部科学省は休講すれば
講義保障を要求します。
だから、教員は学生に嫌われようが
講義をしなければなりません。
補講をするくらいなら
講義をするほうがいいのです。
だから私も、講義をしています。

・嬉しいこと・
実は上のメモに関連して、
嬉しいことがありました。
先週の4年生のゼミで、
これからしばらくの作業内容を示しました。
その作業を数週かけて進めていく予定です。
今週のゼミのある日は
ゴールデンウィークの間の平日なので
作業をするのなら、就活もあるだろうから
ゼミを休講にしてもいいと学生にいいました。
ところが、学生は作業をすすめるために、
ゼミがあったほうがいいといいます。
教員として嬉しい限りです。
いずれにしても、私は他の講義や3年生のゼミがあるので
休むことないのですが。


目次に戻る