地球のつぶやき
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Essay■99 パスカルの賭け:期待値
Letter ■ 私の期待値・地質博物館


(2010.04.01)
  確率は、確実さの程度を表していて、確実さも不確実も意味します。確率が分かっても、そこには絶対がないため、不安がつきまといます。その不安が、ギャンブルのキケンな匂いや、不思議な魅力にもなっているのかもしれません。確率は、うまく利用すると、益をえることができます。自分の将来の意思決定を確率に頼るのは、いいことでしょうか、悪いことでしょうか。それは、その選択後をどう生きるかによるのかも知れません。今回は、そんな選択を期待値から考えました。


Essay■99 パスカルの賭け:期待値

 「もし、○○だったら」とか「あの時、○○していたら」などという後悔を、多くの人はしたことがあるでしょう。もちろん私も、その一人です。このような後悔をいくらしても、過去は変えることはできませんから、無為なことかなかもしれません。
  では、未来はどうでしょうか。未来は、まだ来ていない未知ものでから、どうなるかわかりません。過去はもはや変えることはできませんが、まだ起こっていないからこそ、未来は、ある程度、変えることができるはずです。少なくとも、自分自身の選択は、自由に変えることができます。その選択をしても、思い通りの未来は、周りの状況や環境など、自分自身の選択だけでは変わらないものもあります。だから、未来は、不確実で予想しがたいものでもあります。でも、うまく選択をして、少しでも望ましい未来を迎えることができれば、もうけものです。
  そんな未来選択を、科学に基づいて選択し実践した人がいました。彼が選択の基準に用いたのは、「期待値」というものでした。
  期待値とは、統計学、あるいは確率論上で定義されているものです。それぞれの確率変数と確率をかけたものの総和のことです。といっても、なかなか分かりにくいですね。例を挙げて説明をしていきましょう。
  サイコロを振ったとき出る目の数は、いくつになるかということを例にして説明しましょう。期待値とは、出る目の数が、いくでなると期待できるかということです。サイコロをふったときにでる目の数は、1、2、3、4、5、6の6つです。それぞれの目の数が、確率変数になります。サイコロでは、それぞれの目の出る確率は等しくて、1/6となります。
   (出る目の数×確率)
を6つの目の数ごとに計算をすればいいわけです。期待値は、次の式で求めることができます。
   1×1/6+2×1/6+3×1/6+4×1/6+5×1/6+6×1/6
    =(1+2+3+4+5+6)×1/6
    =21×1/6
    =3.5
  3.5という期待値は、1から6の目の数のちょうど中間の値となり、常識とも合致します。トランプのポーカーなどでも、同じように期待値を計算できます。ルーレットも同じようにできるでしょう。もちろん、そこに作為やイカサマがないという前提はつきますが。
  確率は、早熟で多彩な天才ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal、1623-1662)によって、学問化とされたといわれています。そもそもの始まりは、パスカルがシュバリエ・ド・メレ(Chevalier De Mere)から、サイコロ賭博に関する相談を受けたことでした。なお、Chevalierはフランス語で「騎士」という意味ですので、騎士のド・メレというべきかもしれません。
  ド・メレの相談は、次のようなものでした。
  「1つのサイコロを4回投げて、6の目が出れば自分の勝ち」という賭けをしたときは、自分が勝てた。次に、「2つのサイコロを24回投げて、6、6のゾロ目が出れば自分の勝ち」という賭けをしたときは、勝てなかった。ド・メレの考えでは、両方とも自分が有利な賭けのはずだったのになぜ負けたのかという質問です。
  ド・メレの考え方は、「6の目が出る確率は1/6」で、「6-6のゾロ目が出る確率は1/36」だから、それぞれ4と24回投げたら、
   1/6×4回=4/6=2/3
   1/36×24回=24/36=2/3
となり、同じ確率で起きるはずなのに、なぜ1つサイコロでは勝てて、2つでは負けたのか、という疑問でした。
  ド・メレの疑問は一見まっとうなものに見えます。これは、ギャンブルや統計学の歴史においては、非常に有名な質問となっていて、「ド・メレの2つのサイコロ(ダイス)」と呼ばれています。
  パスカルは、友人である有名な数学者のフェルマー(Pierre de Fermat、1601-1665)と手紙のやり取りをしながら、この質問を考えていき、やがて確率計算の基礎をつくりました。
  ド・メレの質問に対して、パスカルは、ある目が出る確率から計算するのではなく、出ない確率から計算するのだということを示しました。その答えは、以下のようなものです。
  1個のサイコロで、6が出ない確率は5/6で、それを4回やるのだから、4倍ではなく、5/6を4回かけること、つまり4乗になります。
   (5/6)^4=0.48225...
ですから、4回ふって1回でも6の目が出る確率は、
   1−(5/6)^4=0.5177...
となり、6が出る方が1/2より大きくなるので、出る方に賭けたほうが有利になります。
  一方、2個のサイコロで、6、6のゾロ目が出ない確率は35/36です。それを24回繰り返すので、24乗することになります。
   (35/36)^24=0.508596...
ですから、24回ふって6、6のゾロ目が1回でも出る確率は、
   1−(35/36)^24=0.49140...
となり、6のゾロ目が出る方が、1/2より小さくなるので、出ない方に賭けたほうが有利になります。
  ド・メレの質問に答えるだけでなく、天才パスカルは、もっと先へ進んでいきます。それは神の実在という問題に確率を導入します。そこで利用したのが、期待値です。
  パスカルは、理性によって神の実在を決定できないとしても、神が実在することに賭けても失うものは何もないし、むしろ生きることの意味が増すという考えました。その背景には次のような期待値を求める計算があったはずです。
  神が存在するという確率をGとします。Gは1から0の間の値となります。存在しない確率は1-Gとなります。
  確率変数として、神の存在を信じる場合と信じない場合の数値を想定します。
  神存が在している場合、信じれば、天国にいけるはずですから、その確率変数は、利益が最大になるでしょうから、+∞となります。信じなければ、大きな罪を犯して地獄に落ちれば-∞、地獄へ至るほどの罪でなければ辺獄(へんごく)か煉獄(れんごく)にいきます。その確率変数を、-N2としましょう。
  神が存在しなければ、それほどひどくないでしょうが、何らかの有限の値となるでしょう。神が存在しないのに神を信じれば、損をしたことになりますので、その確率変数は-N1としましょう。逆に信じなければ、損することがありませんので、+N3としておきましょう。Nは、大きさはわかりませんが、有限の値となります。ややこくしなってきたので、確率変数の表にしておきます。

      神は存在する  神は存在しない
神を信じる   +∞      -N1
神を信じない -∞/-N2     +N3

 神が存在するか、しないかは、わかりません。神の存在や不在は、いまだに証明されていませんから、確率Gが1でも0でありません。となれば、期待値にを計算ができます。まず、それぞれの場合で期待値を計算すると、次のような表になるはず。

      神は存在する  神は存在しない
神を信じる   +∞      -N1(1-G)
神を信じない  -∞      +N3(1-G)

神は存在する場合、神を信じれば期待値は+∞、信じないと最悪のときは、-∞となります。存在しない場合、神を信じれば期待値は有限の損-N1(1-G)となり、信じないと有限の得+N3(1-G)となります。神の存在や不在が不明ですから、神を信じた場合と、信じない場合の期待値を計算しましょう。
  最終的に、神を信じるか信じないかは自分の未来選択として選ぶことができます。2つの場合の、期待値は、

神を信じる   +∞−N1(1-G)=+∞
神を信じない  -∞+N3(1-G)=-∞

となります。神を信じた場合、全体の期待値は、+∞となります。信じなければ、-∞です。だから、パスカルは神の存在を信じることにしました。
  これは、「パスカルの賭け」と呼ばれているものです。「パスカルの賭け」は、パスカルが書き溜めていた「パンセ」の中に書いているものから、後世に整理されたものです。
  さて、今回取り上げた「パスカルの賭け」の期待値には、確率変数に無限が入っていきました。確率変数に無限の値がどこかに入ると、他の項はあっても、その無限が最終的な値を決めてしまいます。これが重要です。
  確率や期待値の求め方は動かしがたいものですが、確率変数は人生の選択の場合、価値観が入ることがあります。その価値観は人ぞれぞれです。何に価値を見出すかで確率変数は変わります。
  私は、4月1日から愛媛県西予市城川町地質博物館に、大学のサバティカ(研究休暇)で、1年間滞在することになりました。ちょっと変わった地質調査とその成果を踏まえ科学教育の手法開発を、主要なテーマとしています。今までも、地質調査も年に一度だけですが行っていましたし、科学教育にも取り組んでいました。同じような研究テーマを今まで行ってきました。ですからわざわざ行かなくても、在宅(とはいっても大学の研究室ですが)で、いつものように研究してもという選択肢もありました。
  しかし、私は敢えて単身赴任を選択しました。それは、環境を変えること、少々の不自由があったほうが、刺激が大きくなり確率変数が上がるのではないかという期待をしたのです。もちろん確率変数が+∞とはいかないでしょうが、在宅でおこなうよりは、大きな値となると思っています。
  でも、所詮、期待値ですから、そうなるかは、自分自身の努力に負うところが大きいはずです。このように自分を追い込んで、1年間城川に篭ります。もちろん、このエッセイは、その間も継続していきます。


Letter■ 私の期待値・地質博物館

・私の期待値・
このエッセイは、今後も継続してきます。
地質学を背景にしたテーマを、
淡々と深く追求していきたいと思っています。
滞在中の様子は、またどこかで示していきたと思っていますが、
まだ未定です。
もちろん示すことが目的ではないので、
手短にできる方法を選びますが、
なんらかの形でお伝えできればと思っています。
次回にでも紹介しようと思っています。
まあ、その期待値は、「+」なるだと思っています。

・地質博物館・
愛媛県西予市城川町地質博物館に私は1年間
お世話になりますが、
実際の執務は、城川総合支所(もと城川町役場)の
2階に間借りするようになります。
そのわけは、地質博物館には電話回線がきていないことと、
DOCOMOの携帯電話網も使えないためです。
私にとってインターネットは重要な研究手段でもありますので、
ネットワークに繋がることが不可欠です。
そこで、DOCOMOのデータ通信カードを契約して
携帯電話網が繋がる総合支所で主な研究をすることにしました。
空き部屋の個室も借りことになりましたので、
落ち着いて思索に入ることできそうです。
到着したまずは、挨拶、そして新生活のために準備となります。
しばくは、ばたばたしそうですね。


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