地球のつぶやき
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Essay ■ 地層に記録された時間
Letter ■ 道南の調査・北海道の春


(2005年5月1日)
 地層は堆積岩という物質からできています。そんな物質から、過ぎ去った時間をどの程度再現することができるでしょうか。そして何度も起こったかもしれない出来事の前後関係の見つけ方、そして実際残されている時間について考えてみましょう。


■Essay 地層に記録された時間 

 誰もが、一度は地層をご覧になられている思います。ですから、地層といえば、人それぞれでイメージが違うかもしれません、地層を理解できる方が多いと思います。ある人は山道の切り通し道で、ある人は海岸や川原の崖で、またある人は道路の工事中に掘られた穴で、いろいろな地層を見たのかもしれません。学校の野外授業で化石探しをした時に見た人もいるかもしれません。家の近く毎日見ている人もいるかもしれません。しかし、イメージをあわせるために、こんな地層を想像しましょう。
 ここで思い浮かべ土層は、海岸沿いで何枚もの地層が斜め(////////のように見える)になって積み重なっています。ひとつの地層の厚さは、50cmから1mくらいです。そんな地層の見える崖が、100mくらいの長さで海岸に連続してます。
 地層とは、海の底にたまった土砂が何度も重なりながら、固まったものです。もともと海底にあった地層は、やがて地殻変動で、陸地に持ち上げられ、雨や風、川や波の侵食を受けて、今思い浮かべたような崖となります。
 さて思い浮かべた地層ですが、地層は海の底で新しい土砂が上に次々と重なりながら溜まっていきますから、上にある地層ほど新しいものだということになります。つまり、地層の上下関係がわかれば、地層の新旧の関係がわかります。何枚かの地層が重なり合っていて、どちらが上か下かがわかれば、何年前ということはできませんが、どちらか先に溜まったか、あるいはどちらが古いかがわかります。新旧の順番が決められるわけです。
 陸地に上がった隣りあう2つの地層で、どちらが古いか新しいかを考えるとき、現在の地層の上下関係をそのまま用いると、見誤ってしまうことがあります。地層は、海底では水平に溜まります。それが陸地に持ち上げられるとき、地層が大地の営みによって、上下運動だけでなく、曲がったり、折れたり、ひっくり返ったり、ひどいときにはぐちゃぐちゃにちぎれたりしてしまうことあります。ですから、溜まったときの上下関係を示す証拠がないかを、地層をよく見て、判定しなければなりません。
 上下関係を知る手がかりは、いくつかありますが、一番よく使われる方法を紹介しましょう。
 ひとつの地層をよく見ると、ひとつの地層を構成している粒、つまり土や砂や礫がごちゃごちゃにあるいは均質に混在しているのではなく、地層のどちらかに粒の粗い礫があり、もう一方に粒の細かい砂や粘土がかたよっています。そして粒の大きさは、徐々に変わっていきます。
 つまり、地層とは均質なものではなく、構成物が非対称になっているということです。そのような非対称性は、地層ができたときに起こった作用が、そのまま記録されているのです。その非対称性は、地層の上下関係に由来していると考えられます。つまり、重力による作用です。
 地層が海底に溜まるとは、どんなときでしょうか。定常的に川から運ばれてくる成分もあります。しかし、そのような成分は川の河口を見るとわかるのですが、非常に細かい粒子か、大きくてもせいぜい砂粒くらいです。礫などの小石サイズは通常の川の流れではなかなか運ばれません。しかし、地層をみると、荒い礫から、時にはコブシほどの大きな礫もみられます。
 これは、地層が定常的な川の運搬作用で運ばれる成分で形成されるのでないということです。多分大きな礫まで運ばれるような状態のときにきるものであると想像できます。
 河口に溜まった土砂が、一気にそれも大量に河口から遠くの海底に運ばれたときに、上で見たような地層ができると考えられます。そのような現象を見たことがあるでしょうか。なかなか想像できないことです。つまり、それは、めったにない現象でできていることになります。それは、ほとんどの人が経験できないような大洪水による土石流や地震による海底地すべりなどによって、運ばれると考えられます。ひとつの地層は、めったにないような、大洪水や地震などの大事件によってできているようです。
 土石流や地すべりによって、礫、砂、泥などが混じった水が海底に一気に大量に流れ込んで溜まるとすると、泥水の中ではまず、粒の大きな礫が沈み、だんだん粒の小さなものが沈んでいき、最後には長い時間をかけて、粘土のような粒の細かいものが溜まります。ペットボトルの中に土砂と水を入れて振って混ぜれば、同じような現象が再現できます。このような地層のでき方を考えると、一つの地層の中で、粒の粗いものが下で、粒の細かいものが上であったことがわかります。このような粒の非対称性を地層から読み取ることができれば、どちらが上か下かを判定できます。
 他にもいろいろと地層の上下を決める方法がありますが、よく見れば地層の上下の関係を見抜くことは可能です。
 さて、先ほど想定した崖では、海から崖に向かって、右が下で、左が上と読み取れたとしましょう。つまり、一番右の地層がここでは一番古く、左に行くにしたがって、新しくなっていき、一番左の地層が一番新しくなります。
 今見えている一番下の地層をNo.1としましょう。先ほど、地層ひとつの厚さが、50cmから1mくらいとしました。崖は100mの長さがあるとしました。地層は斜めになっていますが、100枚くらいはありそうですので、見えている一番上の地層まで、100枚あったことにしましょう。ということは、一番上、つまり一番左の地層はNo.100となるはずです。
 この地層の番号は、単に地層を区別するだけではなく、地層の溜まった順番、新旧関係をも示していることになります。今までの情報では、正確に何年前という数字では表せませんが、順番はわかったことになります。
 もう少し深く考えてみましょう。
 見えているだけでも100枚もの地層あったわけです。こんな大量の地層が整然と溜まる環境とは、どんなところでしょうか。まず、どれくらいの間隔かわかりませんが、大洪水による土石流や海底地すべりが起こり、そのときには河口付近にあった大量の土砂を、遠くの海底まで運んでいきます。上で述べたように、ひとつの地層が溜まって、次の地層が溜まるまでには、ある程度の時間が必要だと考えられます。
 大量の土砂を海に運べるような土石流なんて、見たことがありますか。私は見たことがありません。ときどきニュースで、どこどこ地方に台風による集中豪雨で大洪水が起こったというをニュースを見ることはあります。ニュースとしては、何年か一度が毎年のように見ますが、実はひとつの地域では、大洪水がしょっちゅう起こっているのではありません。ある地域では、やはりめったないことなのです。
 めったにないということは、大洪水に襲われた地域の老人が、「今まで、こんな洪水を見たことはない、とか、「子供の頃に来た○○台風以来だ」というようなコメントも流れることがあるくらい、100年や50年に一度、あるか、ないかの出来事なのです。大洪水を知らない地域では、数100年に一度の出来事なのかもしれません。
 想定する崖の地層が100枚もたまっているということは、ひとつの地層がほぼ100年に一回できるとすると、大体の見当ですが、この崖の地層が溜まるには、1万年の単位の時間が流れているということです。地層と地層の間には、粒のすごく細かい粘土のようなものがほんの少し溜まっているだけなのです。その薄い粘土の中に、長い間海が変動することなく地層をためる環境が維持されているということが示されているのです。
 地層に残された時間の記録とは、めったにない出来事でできたものが大半を占めています。そして物質としては見えるか見えないかの量の粘土のように細かい粒子の薄い堆積のなかに、海底でこの地層が過ごした大部分の時間があるのです。
 しかし、100回もめったにないことが起こって、この崖の地層はできたのです。「めったにないこと」とは、実は人間中心の見方であったのかもしれません。地球という45億年に及ぶ時間の経過をもつものにとって、数100年に一度の現象とは、もしかすると「日常的な」出来事なのかもしれません。やはり、地球は地球的スケールの見ていく必要があるのでしょうか。


■Letter 道南の調査・北海道の春 

・道南の調査・
 私は、ゴールデンウィークは、道南の調査に行きます。私は、北海道の川と海岸の砂と石を調査するために、各地に出かけます。北海道の海岸線を調査で一回りしたいと考えています。現在、約半分ほど巡ったでしょうか。
 今回道南を回れば、北海道の西半分は終わったことになります。あとは、道東のサロマ湖から十勝川の河口までの海岸線と川が残されています。私は以前に道東へは何度かいったことがあるのですが、このような目的のためにいっていませんでした。調査を始めて3年目ですから、まだ未調査地域として残っています。
 あと、1、2年で、未調査の地域も終わらせたいと考えています。砂と石のデータベースを作って、川と海と大地を成り立ちを探るための研究に使っています。そして、その研究成果を科学教育にそのまま反映していきたいと考えています。そんな全体を私のライフワークとしてやっていきたいと考えています。

・北海道の春・
 北海道にも本格的な春が来ました。先週の4月24日から23日には雪が降ったので、驚きました。その週に冬用タイヤから夏用タイヤに履き替えたばかりだったのです。でも、うっすらと白くはなりましたが、車がすべるほどの積雪ではなかったので、ほっとしました。
 でも、今は春の芽吹きが著しい季節です。そしてゴールデンウィークの後半には桜も咲くことでしょう。いよいよ北海道のまちにまった花と新芽の春が始まります。今回の調査行でもいろいろな花に出会えることでしょう。楽しみです。


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