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Essay ▼ 171 エディアカラ:爆発した動物たち
Letter▼ 大爆発・時代名称


エディアカラのGSSPの位置。


エディアカラのGSSPの位置。


エディアカラのGSSPの位置。


エディアカラ化石。


エディアカラ化石。


エディアカラ化石。


エディアカラ化石。


エディアカラ化石。


カンガルー。


エディアカラ丘陵への入り口。


エディアカラ丘陵(不明)。


エディアカラ丘陵(不明)。

(2019.03.15)
 南オーストラリアのフリンダース山地は、巨大な山脈です。荒涼たる半砂漠のような大地で、太古の化石が見つかっています。これまで正体が不明だった化石なのですが、最近その実態が解明されました。


 オーストラリアは大きな大陸なので、車による移動もかなり時間を要します。すごいスピードで、長距離を走らなければならないので疲れます。舗装道路なら高速で進むのも容易なのですが、未舗装の道路も多く、高速で運転するとなると、長時間の緊張も強いられます。もし、カンガルーでも飛び出してきたら、大事故になってしまいます。そのためでしょうレンタカーには、バンパーの前に丈夫なフレームがつけられています。高速で大型のカンガルーにぶつかったらどうなるのでしょか。無事では済まないでしょう。オーストラリアでは、何度かレンタカーを使って旅行したことがありますが、幸い事故にもあわなかったので、衝突の衝撃は経験していません。
 さて、オーストラリアの荒野の化石の話です。1月のエッセイでバージェスの化石を紹介しました。バージェス頁岩で見つかった化石は、カンブリア紀中期の「カンブリア大爆発(Cambrian explosion)」の直後のものでした。「カンブリア大爆発」とは、カンブリア紀になって一気に生物の多様性が出現したことをいいます。
 古生物の研究は、当初、大型の化石を元に進められていました。大型化石はカンブリア紀まで遡れて、サンゴ類や貝類、腕足類、三葉虫などの動物化石が見つかっていました。時間を古い方から見ていくと、カンブリア紀に多様な大型の動物が、突然出現したようにみえます。連則的に生物が進化ということからすると、非常に不思議な現象にみえました。そのため、「カンブリア大爆発」と呼ばれ、その原因を探ることが、古生物学の重要なテーマでもありました。
 少し前(20世紀前半)までは、カンブリア紀以前からは、ほとんど化石が見つかっていませんでした。20世紀後半になると、カンブリア紀直前の時代からも、そしてもっと古い時代からも、保存のよい化石が多数、各地から見つかるようになりました。その結果、カンブリア紀やその直前に時代の生物進化がわかるようになってきた。
 オーストラリア、南オーストラリア州に、エディアカラ丘陵(Ediacara Hill)という地域があります。Google Mapをみてもこの地名は見つかりませんが、地質学ではかなり有名な地です。この地名を冠した化石群があるためにです。「エディアカラ生物群」と呼ばれています。「生物群」とされているのは、動物なのか植物なのか、それたも他の種(菌類や原生生物などの説もある)の可能性もあるからです。
 「エディアカラ生物群」は、カンブリア紀より前の時代(原生代)でエディアカラ紀(6億3500万〜5億4100年前)の化石とされています。エディアカラ紀は、エディアカラ生物群が出現する時代ともいえます。エディアカラでは、保存のいい化石を多数産します。楕円形をしたパンケーキ状の化石「ディッキンソニア」やキノコ状の化石(ネミアナ)、同心円・放射状の構造のクラゲのような外形(シクロメデューサ)など多様で、サイズも数10cmにまで達する大型の化石が見つかっています。
 2018年9月のアメリカの科学雑誌Science誌に、「ディッキンソニア」についての報告がありました。ディッキンソニアは、120cm以上もあるのですが、この報告で、軟体動物であることが判明しました。これまでエディアカラの化石は印象化石であったので、生物の分類群を判別する決め手がありませんでした。形態だけでは、なかなか判別できなかったのです。
 軟体部しかない生物だったので、土砂に埋められたときは組織をもっていたのですが、固化するまでに有機物はなくなってしまいました。そのため、形態の痕跡だけが残って化石となっています。このような化石を「印象化石」と呼んでいます。印象化石だったので、生物の分類群を定めることができませんでした。
 この報告ではステロールという生物分子(バイオマーカーと呼ばれています)に着目して、成分から生物としての特徴を調べました。ステロールが非常に多く含まれている(最大93%)ので、動物であると判断されました。周囲の海底の地層には、ステロールはほとんど含まれていないことも確認されています。動物が作るステロールは、コレステロールと呼ばれるものです。
 これまでエディアカラ生物群は種類が不明だったのですが、少なくともディッキンソニアは動物であることが判明したことになります。今後、このようなバイマーカーを用いる研究で、生物の種類が判別されていくことが期待されます。
 カンブリア大爆発より前、エディアカラ生物群ですでに大型生物が出現していたことになります。それにしても、大型生物が突然出現するのは不思議なことです。それにはどうも理由がありそうです。
 エディアカラ紀の始まり(6億3500万前)より少し前(6億6000万年前)に、地球全体が凍るような「全球凍結」と呼ばれる氷河期がありました。サターティアン氷河期と呼ばれ、6000万年間続きました。氷河期から回復した直後が、エディアカラ紀となっています。氷河期を耐え忍び、住みよい環境が戻ってきた時、生物が一気に進化したように見えます。
 エディアカラ化石は、もともとエディアカラ丘陵(Ediacara Hill)で見つかったものです。アウトバックハイウエイB83がアデレードから北に伸びています。B83の東側には大きなフリンダース山地あり、西側にエディアカラ丘陵があります。エディアカラ丘陵は私有地の中にあるので、入るのには持ち主の許可が必要になります。許可をもらって柵を通り中に入りましたが、案内もなく向かっていたので、どこにエディアカラ丘陵があるかわからず探し回りました。地図にも丘陵の位置が不明だったため、荒野をうろうろたのですが、見つからずに時間切れで、捜索は断然せざる得ませんした。
 エディアカラ山の西にあるフリンダース山地でも、エディアカラの化石が見つかっています。フリンダース山地は、国立公園になっているので整備されており、化石の見学もコースに沿ってできます。


Letter▼ 大爆発・時代名称

・大爆発・
本エッセイで述べたように、エディアカラ紀に
生物の大型化、多様化が起こっていることになります。
もしこの大型化、多様化を重視して
「大爆発」と呼ぶことにするのであれば、
「エディアカラ大爆発」というべきでしょう。
全球凍結という環境の激変があったからこそ、
生物の大爆発的進化が起こったことになります。
しかし、その検証作業は必要ですが。

・時代名称・
時代名称は従来の時代名があるときは
それがそのまま使われています。
新しく定義される時代の場合は、
時代境界となる標準模式層(GSSP)のある地域名が
使われることになっています。
先日ニュースにもなったチバニアンはその例となります。
エディアカラ紀のGSSPは、
エノラマクリーク(Eonrama Creek)にあります。
ここは、フリンダース山地の中にあります。




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