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Essay ▼ 169 バージェス:高き峰から遠き過去へ
Letter▼ バージェス頁岩・ステファン山


エメラルドレイクからみたバージェスト山。左の、のっぺりとした山。


エメラルドレイクからバージェスト山を示す標識。


登山途中での休息。


やっとウォルコットの石切場が見えた。しかし100mほどを一気に登らなければならない。


バージェスト山へは立ち入り禁止区域となる。私は公式なツァーとして許可されている。


ウォルコットの石切場。


ウォルコットの石切場ももちろん立入禁止。私は公式なツァーとして許可されている。


ウォルコットの石切場。全景。


ウォルコットの石切場で化石を探す。 もちろん見るだけ。


バージェス動物化石。


三葉虫の化石。


アノマノカリスの腕の化石。


ウォルコットの石切場には残雪が残る。


カメラを持っていない人は、紙を配られ鉛筆でこすって化石の印象を持って帰る。

(2019.01.15)
 明けましておめでとうございます。昨年は、道内の話題が多くなりました。今年最初のエッセイは、カナダのロッキー山脈にある小さい露頭です。ロッキーの高き峰にある露頭で見た、遠き過去への旅です。


 今回は、海外調査に行っていた頃の昔話です。博物館にいた時期の海外調査です。2001年7月にカナダの露頭の調査です。
 現在もそうですが、当時から地層境界に興味を持っていました。その興味は、地層に地球の時間記録がどのように記録されているのかという、現在の興味にちながっています。当時は、時代境界を示す典型的な露頭を調査するというプロジェクトを自身で組んでいました。その一環でカナダにも数箇所、調査にいきました。
 顕生代の地層境界で一番大きな区分は、古生代と中生代の境界(P-T境界と呼ばれます)、中生代と新生代の境界(K-Pg境界)になります。これらの境界は、その前後で生物種が大きく変わっていることが、重要な区分の根拠となっています。過去の生物種の変化は、化石によって決めることになります。研究が進むにつれ多数の化石が見つかることで、古生代、中生代、新生代の中も非常に細かく区分されてきました。
 生物種が大規模に変化するということは、生物の大絶滅があったことを示唆しています。生物の大絶滅があっということは、地球規模で環境の変化、天変地異といっていいようなものが起こったことを示唆しています。このシナリオが正しいのなら、時代境界は、環境変化の著しいものほど、大区分の時代境界になるべきでしょう。
 当時の私の興味は、生物がいない先カンブリア紀の区分を、どう論理的に整合性を持っているのか、持たせるべきかということを考えることでした。現在では、研究が進み、先カンブリア紀のいろいろな時代にも生物の痕跡があることがわかってきました。ですから、それらの痕跡から時代区分することも将来はできるかもしれません。
 顕生代の生物のように殻や骨など化石に残りやすいすい組織を先カンブリア紀の生物は持っていません。ですから現状では、大きな環境異変を大雑把に捉えて、そこで生物が大局的にどう変化したかを、少ない化石から検証することになります。
 その中でも、一番検証しやすい時代は、先カンブリア紀(エディアカラ紀、かつてはベント紀と呼ばれていました)とカンブリア紀の境界(E-C境界)です。この境界では、それまで化石がほとんどない時代(先カンブリア紀)から、突然化石が大量に見つかるカンブリア紀になります。これは大きな異変です。化石に残る生物一気に進化してきたことになります。その時代境界に何が起こったのか、それが地層にどう記録されているのか、に当時は興味をもっていました。
 日本ではその地層境界はありません。そして訪れたのが、カナダのバージュスト山(Burgess)でした。長い前置きでした。古い話なので今は状況がどう変わっているのかわかりませんが、当時の話として読んでください。
 日本からインターネットでバージェス山へのツァーが申し込めました。1日15名が上限で1グループしかその露頭へは入れないとされていました。それは、この露頭が、世界遺産として保護されているためでした。日本から、ツァーを申し込んでおきました。約10kmほどの行程ですが、目的地は標高2280mにあり、その標高差は700mもあり、時間にして約10時間かかるツアーでした。
 そもそも、なぜここを訪れたのかというと、カンブリア紀に生物の大発生が起こったことがわかった露頭がある地だったからです。ここで、カンブリア紀中期(5億1500万年前)、バージェス動物化石群が見つかっています。
 午後2時ころ、目的地に着きました。そこはあまりに小さい露頭でした。絶壁にへばりつくように、幅数m、長さ10mもないような石切場として、露頭はありました。こんな小さな露頭が、世界的に有名なところで、世界遺産にまで指定されているのです。そして、化石は、この小さな露頭からだけからしか見つかりません。
 その小さな露頭を、ウォルコットの石切り場(Walcott's Quarry)と呼んでいます。ウォルコットとは、スミソニアン研究所のウォルコットのことで、1909年に発見し、何度か発掘して石切場のようになっていることにちなんでいます。ウォルコットは、65,000個の標本を採集しました。露頭が小さいので、時々調査をして化石を発掘しています。保存にいい多種の化石が見つかっており、「カンブリアの大爆発」と呼ばれる由来ともなりました。その後も、何度か発掘調査がされています。
 この露頭の岩石は、バージェス頁岩とよばれる細粒の堆積岩なので、化石の形が残りやすくなっています。私もそこで多数の化石を見ることができました。私たちが行っても、石の割れた面に変わった化石を一杯見つけることができました。多くは破片ですが、変わった化石であるということは、化石の専門家でない私でも分かりました。その最たるものがアノマノカリスと呼ばれる怪物のような生き物でした。腕(キバ?)の化石でした。今からは想像もつかない、奇妙でまさに怪物と呼ぶべき生き物たちの化石が見つかっています。もちろん持ち出し禁止で、撮影のみです。
 健脚の人が歩けば10時間ほどでいけるそうですが、露頭からの帰りは、自由に降りていいいことになりましたので、私は11時間ほどで降りてきました。かなり年配の方もいたので、最終的に全員が降りてきたは、もっと後のことでしょう。
 ウォルコットの石切り場は、カナディアン・ロッキー山脈のヨーホー国立公園の中にあります。ヨーホー国立公園の中心地のフィールド(Field)という小さな村から出かけました。当時はまだ体力もあったのですが、もう二度と行けない場所になっています。


Letter▼ バージェス頁岩・ステファン山

・バージェス頁岩・
バージェス頁岩は、スティーヴン・ジェイ・グールドが著した
「ワンダフル・ライフ バージェス頁岩と生物進化の物語」
で大変な反響を呼びました。
私もその本を読んで、行きたいと思っていました。
まだ若かった頃のことでしたので、
なんの問題もなくたどり着きましたが、
今では無理でしょう。
そんなまだ見ぬ地で、面白いところが
世界にいっぱいあることでしょう。
残念ですが、現在はとりあえず日本だけです。
日本でも、そんな地がまだまだいっぱいあるはずなので
見つけていこうと思っています。

・ステファン山・
当時、もうひとつの世界遺産にいきました。
ステファン山へのツァーでした。
こちらも大変ハードなもので、800mの標高差を、
2時半くらいで一気に登っていくことになります。
しかし、その地は仰天しました。
散乱している岩にすべて三葉虫が
うじゃうじゃ入っていました。
疲れも吹き飛ぶ露頭でした。



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