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Essay ▼ 168 襟裳岬:剪断の荒々しさ
Letter▼ 岬の先端・師走の大学


海岸段丘面(襟裳岬方向)。


北側の丘陵。北の日高山脈へ続く丘陵。


太平洋側の海岸。海岸段丘面が見える。


襟裳岬の先端。


襟裳累層の礫岩。


襟裳累層の礫岩。


襟裳累層の礫岩。


襟裳累層の礫岩。


襟裳累層の礫岩。断層で切られている。


丘陵から眺めた太平洋側の景観。

(2018.12.15)
 襟裳岬は、歌にも唄われる風の荒々しいところです。岬の先端には、過去の大地で起こった、荒々しい剪断の跡を残した礫岩層が、分布しています。この礫岩が、日高山脈や北海道の大地の歴史を、規定しています。


 日高地域にはこれまでたびたび訪れています。ここ2、3年でも、何度かいっています。北海道の中でも、好きな地でもあり、思い出の地でもあります。私の卒業論文で野外調査をしたところが日高の静内川の上流でした。調査だけでなく、校務でもいくこともありました。
 日高から十勝、あるいは十勝から日高へいくには、いくつかのルートがあります。ただし、日高山脈が南北に通っているので、山脈をどこで越えるかによって、限られたルートになってしまいます。一番遠回りのルートが、襟裳岬を通るものです。ですから、襟裳岬や様似などへという目的がないと、なかな使わないルートになります。ただし、襟裳岬は観光地でもあるので、観光ルートとなっています。
 今年の11月に訪れたときは、行きは襟裳岬を通って日高から十勝にいき、帰りは十勝から野塚岳を越える国道236号線(広尾国道)を通りました。広尾国道は久しぶりに通りました。麓は紅葉がまだ残っていましたが、峠には雪がありました。冬タイヤを履いていましたが、道路に積雪も凍結もなく助かりました。
 日高の海岸を南下していくと、襟裳の町から国道336号を進んでいくと、襟裳岬にはいかずに、襟裳国道として太平洋側に向かう尾根越えのルートになります。今回は、襟裳岬に向かうので、途中から道道34号に入りました。
 ただし、えりも町東洋からショートカットする丘陵を上がるルートに入りしました。その日は天気がよかったので、高台から岬の方の景色を眺めるためでした。このルートには、自衛隊の基地があるので、その周辺で停まりにくいので、牧草地の抜ける道に車を停めました。レーダーサイトのある山頂から眺めるのが、一番眺めがいいはずなのですが、ゲートがあり登ることができません。牧草地の中を通る道路に車を停めて、景色を見ました。
 少し霞んでいましたが、晴れた日だったので、遠くまで見渡せました。高台から眺めると、後方(北側)は、日高山脈から連なる山並みがちょうど終わるところが見えます。前方(南側)を見ると、平坦でなだらかな平面が続いています。そして最後に、襟裳岬へと落ちこんでいきます。車を止めたところは太平洋側に面した丘陵の裾野だったので、日高山脈の太平洋側(東側)の景色も見えていました。そこには、もう一つ低い平坦面が見えました。
 襟裳岬方向に広がるような海岸付近の平坦面は、海岸段丘と呼ばれるものです。このあたりの段丘面には、何面かあり、標高で区分されています。私が立っていた平坦面は、ヤンケベツ面(70mから40mの標高)と呼ばれ、太平洋側にあったものは、小越面(25mから5m)と呼ばれています。
 後方(北側)の山並みですが、北海道を貫く日高山脈の本体の岩石が背後まで伸びているわけでありません。日高帯の本体は、変成岩や花崗岩類からなるのですが、少し北側で断層で切られていて、このあたりまでは続いていません。断層は、国道336号付近を東西方向に伸びています。断層より南側では、日高変成岩や花崗岩類はみることができず、襟裳累層と呼ばれる地層が分布しています。襟裳岬付近では礫岩ですが、日高方向の少し北の海岸では、タービダイト層と呼ばれる砂岩泥岩の互層も分布しています。
 礫岩は、特に襟裳岬の先端の海岸にでると、崖や岩礁で見ることができます。切り立った崖になっており、礫岩の露頭が出ています。礫岩を構成している礫は、特徴的です。礫は、多様なものから構成されています。大きな礫も小さな礫もあり、混在しています。礫の種類もいろいろです。丸く円摩されたものから、角ばった角礫もあります。このような礫は、淘汰(とうた)が悪いといいます。淘汰の悪い多様な礫種からなる礫岩層です。
 礫の中では、花崗岩礫が目立ちます。円摩された大きな礫もあります。この花崗岩礫が由来するのは、日高帯の本体からしかないはずです。それが、礫として含まれているということは、日高山脈の花崗岩が、陸上に露出していて、侵食を受けていたことになります。
 また、この礫岩は激しく変形しています。地層の中には、細かい断層(剪断)がいっぱいあり、礫岩の中の礫も断層でキレイに切れていたりします。礫岩は大きな礫があり、基質が脆そうにみえますが、古い時代のもので剪断が起こるような脆性をもっていました。
 襟裳累層は、かつてはもっと新しい時代(新第三紀中新世)の地層だと考えられていました。ところが、古い時代(古第三紀後期漸進世:2800万〜2300万年前ころ)の化石(渦鞭毛藻)が見つかったこと、また花崗岩礫の年代も古いもの(3300万〜3000万年前)が測定されました。礫岩の形成は、中にある礫より新しい時代にできたはずです。
 この礫岩などの襟裳累層は、どこで、どのようにしてできたかを考えるモデルが提案されています。例えば、海底扇状地という説、他にもトラフ(船状海盆)状の前縁堆積盆地の堆積物に横からタービダイト流が流れ込んできたとするもの、陸地からの砕屑物で海岸が埋められて海岸線が海側に前進していく(progradation 前進平衡作用)ような扇状地とするものなど、いくつかの説が唱えられています。まだ、定まったものはありません。しかし、北海道の背骨にあたる脊梁山脈の削剥時期が、それまで考えられていた時代より古くなったのですから、北海道の大地の形成史は、この地層のでき方も説明できるものでなければなりません。
 襟裳岬は風の強いところとして知られています。先端には博物館「風の館」があり、窓ごしですか荒々しさを感じることができます。また、風洞もあり強雨を体験できる施設もあります。私が訪れた日は、天気がよかったのですが、風が強い日でした。波も少々ありました。しかし、野外観察するにはいい日でした。
 襟裳岬には大きな駐車場があり、そこから岬の付近までいける遊歩道も完備されています。さらに岬の先端までは、漁師の方々が利用する道があります。そこを進んで海岸にでると、巨大な礫岩があり、その礫岩が断層で切られている露頭をみることができます。私には、風や波の荒々しさより、剪断の荒々しさを感じるところでした。


Letter▼ 岬の先端・師走の大学

・岬の先端・
襟裳岬は風が強く、その先端は風があれば荒れるはずです。
襟裳岬の本当の先端の海岸には、
岩礁に囲まれた波の穏やかが海岸が少しあります。
そこに船が繋がれています。
東の海岸にも砂浜があり船があります。
昆布漁でしょうか、魚の漁でしょうか。
襟裳岬の先端も、漁師の人の漁場となっています。

・師走の大学・
いよいよ12月も半ばを過ぎ、
師走の慌ただしさがでてきました。
大学の講義も来週で通常講義は
一区切りになります。
補講などがさらに数日続きますが、
まもなく、年末年始休みになります。
まあ、私は休みにでもいつものごとく、
大学にでていますが。
講義のない大学が
私は一番落ち着いて仕事ができます。



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