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Essay ▼ 159 竹筒:川の嫋やかな曲り
Letter▼ 悲喜こもごも・暖かい冬


竹筒の川の曲がり。


竹筒付近の5万分の1地形図。


上と同じ範囲の地質図。


上と同じ範囲の地上開度図。


上と同じ範囲の地下開度図。


上と同じ範囲の傾斜量図。


川の湾曲のパノラマ。

(2018.03.15)
 熊野川の支流に北山川があります。急峻な地形の中を流れる川ですが、険しさと嫋(たお)やかな湾曲がありました。湾曲を見ながら、どうしてきたのかを少し考えていたら、立っていたところに嫋やかな心づかいがありました。

 本エッセイは、研究ででかけた地域の周辺を話題にしていることが多いので、研究テーマによって地域に偏りがでてきます。致し方ないことだと思っています。2010年に愛媛県に1年間滞在したこともあり、四国で多くの地質調査を進めていたので、エッセイも多くなっていきました。そのおかげもあって、四国には愛でるべき露頭をいくつも見つけることができました。今後も通うべきところとなっています。研究テーマの進行に伴って、調査地域が四国から、紀伊半島と山陰海岸へ移っていきました。紀伊半島へはもう何度も通ってきました。秋に紀伊半島へいったことは、エッセイでも紹介しましたが、今回も紀伊半島の調査のときの話題となります。
 熊野川は、和歌山県新宮で熊野灘に流れ込む河川です。下流から中流にかけては、和歌山と三重の県境となっています。新宮市熊野川町で、2つの大きな支流に分かれます。そこから川の名称が、北山川と新宮川になっていきます。
 新宮川は、熊野川の本流にあたり、紀伊半島の奥深い山間部を流れていきます。北山川は、支流になっているのですが、その流路も長く、大台ヶ原までの奥深かい川でもあります。そして、急峻地形の中を流れています。以前このエッセイでも紹介した国の特別名勝となっている瀞峡も、北山川にあります。
 熊野川から北山川へ入ると、一気に急峻な地形になります。そして、川はくねくねと曲がりくねります。北山川は、奈良と三重の県境にあたり、県境も複雑に入り組んでいる上に、和歌山県の飛地もあります。
 国道169号を走っていると、険しい川沿いなので、川からなかり離れた標高の高いところを走るようになります。標高の高いところからは、木々の切れ間から、北山川がよく見えてきます。最初にもっと目を引く川の形は、竹筒(たけとう)とよばれる地域でした。竹筒は奈良県吉野郡十津川村になりますが、和歌山県にはさまれていることから、生活圏は和歌山になっています。ここでは北山川が大きく湾曲しているところです。険しい地形の山間部なのですが、川の形には嫋やかな曲がりがみられます。
 竹筒の北山川は、湾曲という言葉通り、非常にきれいな円弧を描きながら、何度も曲がっています。自然の意匠なのでしょうが、見ていて「きれい」で、「すごい」と感じられる「何か」があります。自然の地形には、きれいな弧を描くものたくさんあります。このような弧の形が、何故できるのかなあ、と思いました。そこで湾曲のできかたを考えてみました。
 地形は、もともとの地質が基本となり、その岩石が風化、侵食、堆積などの営力を受けて、形成されます。地質には、断層や節理などの直線を生むものがあります。そして岩石の硬さや営力の強さにも依存しています。直線以外は、自然の営力の働きに、依存していくことになりそうです。
 竹筒周辺の地質は、付加体の砂岩や泥岩の互層からできています。南向いにある山並みの山頂付近は、古い時代の火山岩からできています。火山岩のとろかは固い岩石なので、侵食には強いはずです。また、地質図をみると、この周辺は断層があまり記載されていません。この地域の地形形成には、河川の営力が重要な働きをもつと予想できます。
 自然界では、同じ場所であっても、定常的な営力(河川の流れ)が働く時と、一時的ではあっても急速、急激な営力(洪水)が働く時があります。それぞれで違った地形の侵食が起こります。定常時はゆっくりと、異常時は急激な侵食が起こります。
 その侵食を河川の運動として考えると、水の流れの運動エネルギー(慣性力)は等高線沿い(走行方向)に働き、位置エネルギーは傾斜(走行に垂直方向)に働きます。位置エネルギーは主に侵食に使われ、運動エネルギーは侵食と、運搬、堆積に使われます。
 侵食は風雪、雨水による主に上からの作用です。雨水は流水となり川となります。平面的には、岩石に強弱があれば、その強弱よって川は曲がります。もし強弱になければ、川はまっすぐ流れます。ところが、自然界での川は曲がりがどうしてもできます。少しでも曲がりができると、曲がりは強調されていきます。平時の河川では、川の外側が侵食され、内側に堆積場となり、中間では運搬の場となります。これは教科書に書いてある堆積作用の原理です。
 洪水では、水量が多いため、運動エネルギーが強烈に働きます。その時の営力は、侵食と運搬のみとして働きくはずです。洪水時は、激しい侵食を起こし、時には長い時間かかってつくられた平時の地形を一気にリセットしてしまうこともあります。
 こんな河川の2つの営力が、長年、繰り返し働くことによって、河川の曲が形成されているのでしょう。竹筒で写真を撮りながら、川のきれいな曲線は、なぜできたのだろうとぼんやりと考えていました。そして今回、少し踏み込んで考えてみました。
 竹筒では、川よりかなり標高の高いからところが川の湾曲の眺めました。遠望なので、曲がりをよく見ることができました。竹筒には、2015年の国勢調査では、人口は25人しか住んでいないようです。川沿いや国道沿いにだけ、ぽつぽつと民家があります。そんな小さな集落ですが、川の湾曲がみえる国道沿いに小さいなベンチが置いてありました。そこは、湾曲が眺める絶景ポイントでもあります。朽ちかけていましたが、花壇の枠も残っていました。ここに立ち寄る人への嫋(たお)やかな心遣いも見えました。


Letter▼ 悲喜こもごも・暖かい冬

・悲喜こもごも・
大学はいよいよ卒業式です。
我が大学も含めて、明日が卒業式が多いようです。
今年もそんな時期になったのかと思います。
4年間一緒に学んだ学生との別れが訪れます。
大学に残るものとしての寂しさもありますが、
巣立っていく若者への期待も同じだけあります。
まさに悲喜こもごもです。

・暖かい冬・
今年の北海道の雪解けは早いようです。
今年は急に暖かい日があったり、
また大雪があったりと、
ここ数年の雪の多い冬とは違っていたようです。
でも早い雪解けはありがたいものです。
温暖化は本当に悪いことばかりなのでしょうか。
春の待ちわびる北国では
暖かい冬は大いに歓迎されていると思うのですが。




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