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Essay▼ 129 手結:付加体のメランジュ
Letter▼ いよいよ秋・九州の報告は次回以降に 


玄武岩。


枕状溶岩。


玄武岩の粗粒部。


多色岩。


多色岩。


層状チャート。


層状チャート。


航空写真。


保存されているメランジュ。


層状チャートの巨大な露頭。

(2015.09.15)
 今回も何度も紹介している高知です。何度、訪れても、その壮大さに圧倒されるところや、自然の謎を解き明かしていった研究者の努力を感じるところもあります。成果とその保存がなされている手結を紹介しましょう。


 高知の手結(てい)の海岸にいきました。手結は、香南市夜須町にあります。主な露頭がみられるとことは、西分(にしぶん)漁港とその東に自然の海岸が広がっています。
 漁港は、現在は護岸され整備され、車で気軽に入っていけます。古い時代の航空写真を見ると、かつては海に突き出た防波堤が一つあるだけの小さな漁港でした。その時期には、海岸には点々と岩礁が見ていて、海岸線ぞいには広く露頭が点在していたようです。1994(平成6)年ころに、大規模に工事がはじまりました。この漁港が、現在では大規模に護岸工事されています。その一角にかつての海岸の露頭が残されています。手結の海岸へは、この漁港が一番アプローチのしやすいところとなっています。
 手結の海岸は、このエッセイにも一度取り上げました。そして、今年のゴールデンウィーク開けにも、再度訪れました。今回は層状チャートをじっくりと見るために来ました。
 手結には、「手結のメランジュ」とよばれる岩石群がでているので、地質学では有名な場所です。
 かつて、高知の海岸沿いの露頭を舞台に、付加体の研究が進められました。主な研究方法は、詳細な野外調査と細かい試料採取、その試料から見出される微化石を用いた年代決定、地層の古地磁気測定による古緯度の測定などが重要なデータとなりました。特に年代決定は非常の細かくなされ、その結果、付加体の構造、メランジュの認定など、付加体への理解が深まったのです。その結果、陸上ではじめてプレートテクトニクスを証明したことになり、地質学においても重要な貢献があったところです。陸上の付加体の研究は、上で述べたようは手法によって、日本の研究者たちが主として行ってきました。その重要な研究の場の一つが、手結の海岸露頭でした。
 メランジュとは、起源の違う岩石がごちゃごちゃに混じり合ったもので、地質図に現れる規模のものをいうことが多いようです。「ごちゃごちゃ」というのは、堆積岩や火成岩などのような通常の岩石ができるメカニズムとは、全く違ったものを意味しています。大きな大地の力(構造運動)によって、機械的に岩石がごちゃごちゃに混ぜられたものです。そこでは、通常の岩石のように一つの成因で考えることができない、多様が成因の岩石が混在しています。もちろん場所によっては、メランジュでも同じ起源(たとえは同じ種類の堆積岩など)のものでできている場合もありますが、一般に成因をとなわないメカニズとなります。
 断層などで激しく破壊されたり、変位したりしたもので、そのうちの大規模なものをメランジュと呼んでいます。巨大な断層で形成されるのですが、付加体は、沈み込む海洋プレートによって、定常的にそのような断層活動が起こっているところです。
 付加体では、海洋プレートを構成していた岩石類がメランジュに取り込まれているものが多く見られます。海洋プレートを構成したいものとは、海洋地殻の最上部の玄武岩、その上に堆積した層状チャート、さらには大陸に近づくと陸源の頁岩などがチャートの間に形成されていきます。やがていろいろな色のもった頁岩(ここでは多色岩と呼ばれています)。もっと大陸に近づくと大陸から流れてきた土砂(タービダイトと呼ばれます)も混じってくることがあります。付加体のどこにできたメランジュかによって、その構成物はさまざまなものになります。
 手結の海岸には、海洋地殻の玄武岩があります。この玄武岩は枕状溶岩と呼ばれる海底で噴出した溶岩固有の形状をもっています。また、この海岸の玄武岩や層状チャートからは、古地磁気による緯度の測定から、北緯3度から13度ということがわかっています。つまり赤道付近できた海洋地殻が、海洋プレートの運動に伴って移動してきたことがわかってきました。
 手結のメランジュから推定される付加体形成のシナリオは、次のようなものだと考えられています。
 1億3000万年前、赤道近くの海嶺で玄武岩の噴火がありました。深海底でしたので、玄武岩は枕状溶岩となりました。海洋プレートは海嶺から離れながら北上します。その上に海洋に暮らしていた放散虫の死骸が降り積もりチャートを形成します。層状チャートの年代は、1億3000万年前から1億2000万年前にかけてです。やはり赤道付近から北上中にできました。
 その後、9000万年前から8000万年前にかけて、大陸(日本列島になる前の場所で火山活動をしている)と赤道の間の海では、放散虫が死んでは海底にたまっています。そこに、陸の火山活動による火山灰や大陸から風で飛ばされてきた粘土などが、ゆっくりとたまって多色岩ができます。
 2001年に手結のメランジュは、高知県の天然記念物に指定されています。そのおかげで、護岸工事が行われても、重要な露頭は残されています。東側の海岸は自然のまま残されています。保存されている露頭には、看板が二箇所あります。大きめの露頭には、枕状溶岩を主としたタービダイトが混じるメランジュで、もう一箇所の看板のところには小さいな層状チャートの露頭があります。
 手結の露頭には、壮大な時間の流れが刻まれています。それを読み取る努力は大変なものだったと考えられます。しかし、その努力によってこのような壮大な大地のドラマが読み取られるということは、研究者にとっては非常にワクワクする体験だったと思います。そんな研究者のロマンが、手結には残されています。手結メランジュは、そんな研究者のロマンを追体験できるところで、アプローチのしやすいところです。


Letter★ いよいよ秋・九州の報告は次回以降に

・いよいよ秋・
北海道は先日の台風の影響の蒸し暑さが終わると
一気に、秋めいてきました。
朝夕は涼しくなってきました。
長袖、上着が必要になります。
秋の涼しさを感じると、
ついつい冬の寒さに思いを馳せてしまいます。
しかし、今は、北海道の雄大な秋を感じる時なのでしょう。
今日から帯広と美瑛への2泊3日の出張です。
このエッセイは、いつものように予約配信です。

・九州の報告は次回以降に・
先日、九州に調査に行ったのですが、
まだその話題でエッセイを書く余裕はありません。
次回以降に紹介したいと考えています。
今回の調査も、再訪の場所も多かったのですが、
このエッセイでは、
地域や二度目なかどうかなどにこだわらずに
紹介していきたと思います。



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