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Essay ▼ 113 日和佐:スランプとタービダイト
Letter▼ 実感できるには・ウエルかめ 


日和佐のホテルの駐車場の砂泥互層。


日和佐のホテルの駐車場の砂泥互層の合成画像。


日和佐のホテルの駐車場の砂泥互層のスランプ構造。


日和佐の海岸。


タービダイトによる砂泥互層。


上の砂泥互層の拡大。


スランプ構造。


スランプ構造。


海岸からみた日和佐湾。水色の建物はがホテル。


海岸の砂岩優勢の層の海岸。海岸を見て回れる歩道がある。


海岸を見て回れる歩道がある。


四国と南東部の地質図。


四国と南東部の地質図。拡大図。

(2014.05.15)
 日和佐の海岸は、西の砂浜の海岸のほかに、北側には切り立った崖のある海岸線があります。その崖にタービダイトとスランプがありました。いずれも付加体を特徴づける堆積構造です。


Essay ▼ 113 日和佐:スランプとタービダイト

 徳島県海部郡美波町の海岸には、いくつかの小さな支流が流れ込みながら日和佐川が海に注いでいます。南の海岸沿い小高い山があるので、入り組んだ入江になっているため、いい漁港となっています。また、河口の北側には砂浜があり、ウミガメが産卵に来るところして知られています。さらに北側は、切り立った崖の海岸になっていきます。
 日和佐(ひわさ)には、2度来ています。一度目は、室戸から徳島まで足をのばすために、ここまでたどり着いて一泊し、その後は引き返しました。ただし、幸いなことに、子ガメが卵から孵り海に向かう時期にあたり、その様子を夜に見ることができました。でも地質に関して、宿泊だけで何も見ることなく、立ち去りました。
 2度目は今年の初春で、日和佐の北側の海岸にでている地層を見るのが目的でした。日和佐の海岸の地層は、四万十層群と呼ばれ、整然とした堆積岩がみられるところです。
 いろいろなところで、私は、地層をみています。できるだけ、いろいろなタイプの地層を見たいと思っています。このエッセイでも何度も取り上げていますが、四国の南側は四万十層群と呼ばれる地層が、広く東西に分布しているので、地層観察には適した地でもあります。四万十層群に相当する付加体の範囲は、東西の四国の範囲だけでなく、南海トラフに臨む陸全域に及びます。
 四万十層群は、付加体という特徴的なメカニズムでできています。付加体は、沈み込み帯の海底下で形成されます。その素材は、陸側の斜面に堆積した堆積物と海側の海洋プレートやその上の深海底堆積物です。
 付加体の中の地層とその特徴的な構造などを、最近はよく観察しています。できれば、地層や構造で、典型的なところがないかを探しています。もし典型的で、重要な露頭があれば、必要ならば何度も出向くことにしてます。そして、露頭をじっくりと眺めます。
 陸から大陸斜面にたどり着く堆積物は、タービダイトと呼ばれるものによってもたらされます。タービダイトは、何らかのきっかけ(地震や大洪水など)によって、海底にたまっていた堆積物が、より深い方に地滑りのように移動する流れのことです。斜面の終わりで、まるで陸上の河川が扇状地をつくるような海底地形を形成していきます。
 タービダイトは、海水中の堆積物なので陸上とは少々違っています。海水の中を、性質の違う物質が、流体として移動していくたいめです。水中の流体の密度や粘性、構成物の性質、斜面の形状などにより、タービダイトの堆積様式や広がりは違ってきます。
 さらに、ひとつのタービダイトでも、たまる場所によって、構成物や堆積構造も違ってきます。例えば、タービダイトの本流にあたるところでは、深い流路が形成され、大きな礫や土砂がたまります。流れの流路からはずれたところや末端では、細粒の堆積物だけが溜まります。そして中間的な場所もできます。ひとつのタービダイトという現象でも、さまざまな堆積物が形成されることになります。
 日和佐の海岸では、砂岩と泥岩がきれいなコントラスをもって繰り返している「互層(ごそう)」を見ることができます。このような互層は、砂岩から泥岩までが、ひとつのタービダイトによって形成されたものです。何度も繰り返しタービダイトが、流れこむ環境にあったことを物語ります。
 付加体は堆積物は、多くはタービダイトによるものになります。これは付加体の堆積物の特徴となります。付加体は活動的な場所なので、タービダイトが流れてくるだけ、単純な堆積環境ではありません。沈み込み帯として、いろいろな変動が起こります。
 大陸斜面では、地層が上に次々と重なってたまっていきます。そして互層ができます。下位にいくほど、地層は圧密や脱水、地温勾配などにより、徐々に固まってきます。上位では、常に未固結の地層があることになります。
 大陸斜面は、沈み込み帯でもあるため、頻繁に地震が起こります。斜面にたまった堆積層には、たびたび振動が与えられることになります。たまったばかりの未固結の地層で、流動しやすい条件のものは、地震によってさらに流動をします。いったん溜まった地層は、移動距離が短い場合は、地層の形状を維持しながら、流動することがあります。その結果、ある地層(複数の場合もある)だけが、くねくねと「褶曲」した構造をもつようなことが起こります。
 ここで「褶曲」といいましたが、地質学でいう本来の「褶曲」と、ここでいう未固結の地層の流動によるものは違っています。未固結の地層の流動によるものは、スランプ(slump)構造、あるいはスランピング(slumping)と呼ばれています。褶曲とスランプ構造とは、規模もできかたも違っています。
 本来の「褶曲」とは、何層にもたまった地層が、大地の変動により、大規模に曲がっているものです。地層が割れることなく曲ってはいますが、褶曲の及んでいる範囲は、上下の地層に広くなっています。中心分から周辺部に向かって褶曲の影響は薄れていきます。
 一方、スランプ構造は、ある地層だけに起こる現象で、上下の地層は、何事もなかったように、乱れることなく整然とした地層のままです。ある地層だけが乱れているものを、スランプ構造といいます。スランプ構造のメカニズムの解明されたため、褶曲とは区別されています。
 スランプ構造は、非常に不思議な産状となります。そのため、かつては「乱堆積」や「層間褶曲」などと呼ばれていました。今では、あまり聞かなくなりましたが・・・。
 日和佐の海岸に降りる道にホテルがあるのですが、その駐車場の崖でも互層とスランプ構造、そして断層なども見ることができます。しかし、風化しているので、岩石がきれいに見ることができません。海岸でみるのが一番です。海岸には、整然とした互層とともに、スランプ構造が見ることができます。
 砂岩は白っぽく、泥岩が暗褐色で、粒子サイズによる岩石の縞模様がよくわかります。泥岩の中にも薄い砂岩層が頻繁に繰り返されれていることもわかります。これは、細かい地層ではなく、ラミナ(葉理)と呼ばれる地層内の堆積構造です。そして、同様の構成岩石でスランプ構造があるので、コントラストの明瞭な、わかりやすい構造となっています。でも、肝心のスランプ構造が海岸では、あまりないので少々期待はずれでした。
 付加体は、タービダイトによる堆積の場であり、地層がスランプ構造をつくるような、定常的に擾乱を起こす場でもあります。スランプ構造はそのでき方を考えても分かりますが、スランプの規模はタービダイトより小規模になります。乱れているのが小規模なのです。タービダイトは大きな大地の変動です。動と静、乱と整、大域と局所、入り乱れた大地の営みです。いずれも、沈み込み帯という常に変動を起こす場の出来事です。
 初春の人気のない海岸に、枯れ草に隠れるようにしてあったスランプ構造が、ひっそりと、過去の大地の営みを物語っていました。


Letter★ 実感できるには・ウエルかめ

・実感できるには・
学生のころスランプ構造を見た時、
乱堆積や層間褶曲という名称を聞きました。
そのときすでにスランプのメカニズムがある程度わかっていました。
でも、スランプ自体のダイナミックと上下の整然さは
非常に違和感を感じました。
褶曲であれば、その影響は中心部から周辺部に薄れてきます。
褶曲は理解しやすものでした。
しかし、スランプはあまりに局所的で
実感するのには、時間が必要かもしれません。
今では、素直に認めることができますが。

・ウエルかめ・
日和佐は、2009年9月から2010年3月まで放送された
NHKの連続テレビ小説「ウエルかめ」の舞台の一つになりました。
主人公の浜本波美の出身地が、日和佐でした。
波美が、子供のころ、海岸で、
ウミガメの子どもが、海に向かう姿を見た舞台になりました。
私は見ていないので、内容は知りませんが、
宿では、そのテレビドラマを今でも観光に利用していました。
以前いった時には、ウミガメの産卵を見ることができました。
しかし、今回の地層は砂の海岸より北側で
切り立った崖のあるところです。
日和佐は、一つの湾で、
静と乱、砂と岩、現在と過去の対比を
感じることができます。




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