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Essay ★ 93 恵庭:保護と破壊
Letter★ 悩ましい問題・予約システム


火山噴出物の崖。


火山噴出物の崖。


火山噴出物の崖。


火山噴出物の崖。


火山噴出物の崖。


崖のアップ。


漁川の清流。


清流の川沿いにはヤマセミが。


Googleの航空写真による恵庭岳。


Googleの航空写真による恵庭岳。よく見ると斜面に滑降コースの植林の部分が見える


火山噴出物の崖のパノラマ画像。

(2012.09.15)
  軽石を求めて、ある夏の日に、清流を遡りました。河原では火山噴出物が多く、望んているような軽石が見つかりませんでした。清流沿いの崖から、軽石を大量に含んでいる地層がありました。軽石から、人による自然保護と自然による自然破壊について考えました。


Essay ★ 93 恵庭:保護と破壊

 以前、恵庭の漁川(いざりがわ)の上流に出かけました。ある小学校の出前授業を依頼されたためです。授業の教材に使うために、軽石を採ってくる必要があったからです。
  軽石(pumice)は、火山噴出物の一種で、穴が多数あいている石です。岩石の部分の比重は、水より大きいのですが、穴が多数あいていると、浮力が大きくなり浮きます。名前の通り、見かけよりずっと軽く、水に浮くものもあります。海岸を歩いていると、場所によっては、多数の軽石が打ち上げられていることがあります。そんな軽石を漁川で探そうとしました。源流は恵庭(えにわ)岳です。
  軽石は、マグマにガスの成分が多く含まれていて、マグマが地表に飛び出した時、地下の圧力から開放されたのと、マグマが岩石として固まる時、気体の成分が分離し石の中にガスの部分として残ります。火山岩に、ガスの穴が空くことを発砲といいます。ガスの成分は、主に水蒸気や二酸化炭素などです。しかし、時間がたてば、ガスは抜けていき、穴だけが残ります。
  ガスが多すぎると、噴火時に岩石がばらばらに壊れてしまうことがあります。このようなものが細かい火山灰となります。
  軽石は、白っぽいものにたいして用います。黒っぽいものには、スコリア(scoria)という名称があります。火山岩の色は、マグマの性質によっています。マグマの主成分である二酸化珪素(SiO2)が、多ければ白っぽくなり、少ないと黒っぽくなります。中間だと灰色になります。岩石の名称としては、白っぽいものは流紋岩やデイサイトと呼び、灰色を安山岩、黒っぽいものを玄武岩といいます。
  軽石も詳しくみると、いろいろな模様が織りなす世界(岩石組織と呼びます)があることがわかります。岩石の部分にも、いろいろなサイズ、種類の結晶がみえます。
  マグマが地下のマグマだまりにあったとき、ゆっくりと冷えていくと、マグマの中の結晶が生まれ、成長していきます。結晶は、マグマだりの冷却過程を記録しています。また、マグマのまま飛び出した部分は、急激にできた結晶や、結晶化する暇もなく非晶質(ガラスと呼びます)のまま固まることがあります。そして、ガラスが繊維上に引き伸ばされていることもあります。まるでマグマが液体から固体へ変化するときの状態を反映しているような模様となっています。
  火山噴火の様子をかいま見るために、軽石はおもしろい素材です。風化を受けていない軽石を手に入れるためには、「最近」噴火した火山の麓にいく必要があります。「最近」とは、火山地質学では、1万年前くらいから現在までの間を意味します。これは、活火山の定義にもなっていますが、1万年以内に活動したか、現在活動中の火山を「活火山」と定義しています。日本には、現在の110個の「活火山」が指定され監視されています。
  北海道には、いくつも活火山がありますが、我が家から近いところで、風化を受けていない軽石を採るために、漁川で軽石を探すことにしました。
  恵庭岳は、支笏カルデラをつくった巨大の火山の一部になっています。もちろん恵庭岳の火山活動も、支笏カルデラ火山の一連の活動といえます。
  支笏カルデラ火山は、大量の火砕流を放出し、周辺に火砕流台地を形成しました。安山岩からデイサイト、流紋岩までの性質で、軽石をつくるマグマです。4〜5万年前に、現在支笏湖になっているカルデラができました。その後も、火山活動が継続して、樽前、風不死、恵庭岳の火山が形成されました。
  恵庭岳は、約1万5000年前には山体は形成されていたと考えられていますが、あまり詳しく調べられていません。1994年に中川光弘たちの研究によって、「ほんの最近」まで活動していたことがわかってきました。
  中川さんたちの論文によれば、2200〜2000年前に火山灰の放出しています。これだけでも、活火山の条件を満たしています。さらに、17世紀には山頂の東側からの水蒸気爆発と山体を崩壊するような噴火をおこしています。その後も150年間に、少なくとも2回の水蒸気爆発と土石流が起こっていることがわかってきました。
  そして、恵庭岳は1991年に活火山に指定されました。
  ちなみに17世紀には、支笏カルデラ火山の樽前山、洞爺湖この有珠山、道南の駒ケ岳もそれぞれ長い休止期をへて、噴火活動を開始しています。北海道の火山全体が非常に活発になった時期でもありました。
  恵庭岳は、今も山頂から噴気を出しています。火口は、17世紀の火山噴火によってできたものです。噴火の後、300年ほどの間に、ほとんどの場所は、植生が回復しています。ただし、新しい火山噴出物でできた急斜面は侵食が激しく地肌を剥きだしています。もちろん火口は、今も植生は殆どありません。
  1972年に札幌でおこわれた冬季オリンピックのとき、恵庭岳の山頂から南西に向きの斜面が、アルペンスキーの滑降のコースとなりました。コース設営のために、樹木が伐採されました。その後は植林をすることで造成が許可された経緯があります。オリンピックで環境問題が表沙汰になった最初の例となりました。
  滑降コースも30年たった今では、植林によって深い緑に覆われて、その痕跡はほとんどみえません。ただし、Googleの航空写真で見ると、植林のあとが色の違いとして少し見え隠れしますが。
  地質学の時間スケールから見ると、30年前の人為的な破壊より、300年前の破壊のほうが大きく思えます。人為的営為など、ひとつの噴火で、もろくも崩れ去ります。
  恵庭岳は、大都市札幌からも近く、外輪山の北西側は札幌市域になっています。噴火口から札幌の中心街まで、30kmほどしか離れていません。もし、噴火があれば、周辺都市で大きな被害が出ると考えられます。恵庭岳の麓や支笏湖畔には温泉旅館もあります。恵庭市、千歳市もすぐ近くです。
  これは、札幌だけの状況ではありません。日本では、大きな都市が活火山の影響を受ける位置にあることは、地図をみればすぐに分かります。
  その現状に目をそむけてはいけません。火山噴火を止めることはできません。しかし、噴火予知が進めば、災害から避難することができるはずです。一番大事な人命を守ることは、可能になるはずです。火山などの自然災害とも共存するしかないところに私たちは住んでいるのです。
  漁川沿いの崖で、軽石の堆積物の地層があったので、その地層から「これぞ軽石」とよべるものを、いくつか採取しました。それらは軽石らしく水に浮きます。他にも、軽石にもいろいろあることを示すための試料も採取しました。穴がすべてつながるほど開いたものは、軽く最初は浮きますが、しばらくすると水が内部に入り込んで沈んでしまいます。また、発砲が少ないものも、岩石の大きな比重のために沈みます。そんな軽石の多様性を見えるように選びました。
  軽石をとった崖も人為でつくられらものです。取り尽くせばその崖の軽石はなくなりますが、火山噴火で飛び散った火山噴出物は大量です。掘り尽くすことはできません。場所を変えればもっと大量の軽石はあります。
  人の営為など、一つの噴火であったというまに消してしまいます。植林のあとさえあっという間に消えることでしょう。これは自然による「自然破壊」と呼ぶべきものでしょうか。自然現象というべきでしょうか。人による自然保護、自然による「自然破壊」、悩ましい問題です。


Letter★ 悩ましい問題・予約システム

・悩ましい問題・
大地(地質学的)の歴史。
自然の歴史。
間も読み取られ続ける噴火の歴史。
過去の人為の歴史。
過去に犯した失敗の歴史。
失敗の補修の歴史。
あったというまの破壊の歴史。
「歴史」という言葉にも
いろいろな時間、空間のスケールがあります。
それをごっちゃにして考えると混乱してきます。
別々に考えると連携できません。
悩ましい問題です。

・予約システム・
14日まで信州、新潟、山形まで調査に出ていました。
富山空港から入り秋田空港から帰ってきます。
その間はレンタカーを使用します。
このエッセイは、実際には調査に出る前に、書いておいて、
発送手続きを発行しています。
まぐまぐのシステムで2週間先の予約が
できるので助かります。



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