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Essay ★ 83 日沖:大地の静と動
Letter★ 賜物・遅れのお詫びと言い訳


日沖の枕状溶岩。


日沖の枕状溶岩。


日沖の枕状溶岩。


日沖の枕状溶岩。


日沖の枕状溶岩。非常にきれいな形態を残している。


日沖の枕状溶岩。


日沖の枕状溶岩の転石。


上の転石の接写。


日沖の斑レイ岩の貫入岩。枕状溶岩と同じ由来のマグマ。


日沖の斑レイ岩の貫入岩。枕状溶岩と同じ由来のマグマ。

(2011.11.15)
  発行が一日遅れました。お詫びします(言い訳は後で)。
  今回は、高知県室戸市の日沖というちいさな町の小さの漁港でみた枕状溶岩からの話です。小さい岩場なのですが、きれいな産状を残す枕状溶岩から読み取れる、大地の静と動の物語です。付加体やメランジェの説明から解き明かしていきます。


Essay ★ 83 日沖:大地の静と動

 今回も夏にいった室戸の話です。前回は室戸岬を中心に室戸ジオパークの話題を紹介しました。室戸ジオパークは、いろいろな見所があり、何日でも見て回れます。興味があれば、何度も足を運ぶことができるほど、コンパクトにまとまっています。今回は、室戸岬から6kmほど北にある日沖の紹介をします。私も、日沖には3回みにいきました。
  日沖には、小さな港があり、防波堤が3つの岩場を結んつくられています。その防波堤からは、見事な枕状溶岩がみることができます。非常に生々しいい産状を残しているもので、なかなか見応えがあります。初日は天気が良かったのですが、台風のうねりがまだ残っていて、激しい波が打ち寄せて防波堤の上を歩くことができず海岸から見ました。台風の影響で、ひどく港も破損していました。あと2度は別の日で、波は結構高かったのですが、防波堤からじっくりと見ることができました。やはりその産状は、素晴らしいものでした。
  そんな枕状溶岩を見ながら、由来の不思議さに思いを馳せました。
  室戸岬の周辺の地層は、四万十帯の南帯にあたり、菜生(なばえ)層群が分布しています。菜生層群は、四万十帯ではもっとも新しい中新世の付加体になります。日沖でみた枕状溶岩も、菜生層群に含まれています。
  四万十帯は付加体でできています。付加体でできたものを、地層名をつけて、地層の分類体系で呼ぶことがいいのかどうかは、判断が難しいところです。なぜなら、地層の概念と付加体の概念は大きく異なるものだからです。そのあたりについて、今回は紹介していきましょう。
  付加体については、このエッセイでも何度も紹介しました。付加体では、少々変わった堆積物や地質構造が形成されます。そのため、通常の堆積岩の分類を適用していいものかという問題が生じます。これは、日本の地質構造発達史を考える上でも、地質学の体系化をする上でも重要な課題です。
  堆積物には、通常の堆積作用(河川による侵食、運搬、堆積の作用)でたまったものと、特殊なメカニズム(通常の堆積作用でない)でたまったものがあります。通常の作用でできたものは正常堆積物と呼ばれ、特殊なものは異常堆積物と呼ばれています。
  通常堆積物は、河川沿いや河口、平野、河口付近の海底、湖底などにたまったものです。現在でも、ベンガル湾にはガンジス川から大量の堆積物がたまっていますし、日本列島でも海岸付近の大陸棚には正常堆積物が形成されています。もちろん過去にも同様の堆積物がたくさん形成されました。正常堆積物では、下にある地層は古く、上に重なる地層は新しくなるという「地層累重の法則」が守られています。さらに、ひとつの地層は同時期にできたものですから、地層内から見つかった化石の年代は、その地層全体が形成された年代とみなしていいことになります。
  異常堆積物は、付加体の概念の確立とともに、区別されるようになってきました。付加体の研究においては、日本人研究者が重要な役割を果たしました。また研究の場として、日本の舞台が多く登場しました。それは、日本列島が古くから沈み込み帯に位置していたので、常に付加体が形成される場となっていたからです。日本列島は、時期の違う何列もの付加体の連なりによって形成されたといってもいいほどです。
  付加体とは、海洋プレートが海溝で沈み込む時、その構成岩石を陸側のプレートに付加していく作用によってできたものです。海嶺で形成された玄武岩(その砕屑岩も含む)は、プレートの移動と共に、上に生物の遺骸がたまっていき、やがてチャートができます。海溝が近づくにつれて陸からの泥が加わり、純粋なチャートではなく珪質泥岩ができます。海溝に達すると陸からの砂岩が時々もたらされて、砂岩と泥岩の繰り返しの地層(互層(ごそう)といいます)が形成されます。このような層序は海洋プレート層序とよばれています。それぞれの堆積物の厚さは、移動時間や環境によって大きく変動しますが、岩石構成はいつの時代のどの海洋プレートでも一致しています。
  海洋プレート層序は、海洋地殻の多くが沈み込んでいくなか、一部が剥ぎ取られて陸側プレートに付加していきます。そのとき、もともとの層序は乱され、付加体特有の構造をもつものに再構成されていきます。その一番の特徴は、衝上断層(スラストと呼ばれる)が多数形成されることです。衝上断層とは、低角度の逆断層のことで、圧縮場(プレート同士が衝突したり、沈み込んだりするところ)で地層が短縮されるところに形成される断層です。衝上断層によって、新しい地層群が古い地層の下に付け加わっていきます。これが付加体の一番の特徴といえます。
  沈み込みに伴って、数mから数十mの厚さの地層にほぼ平行な衝上断層が多数形成されます。このような断層帯をデコルマン・ゾーン(decollement zone)と呼びます。衝上断層で挟まれた個々のシートは、下側(海側)に若いものが「底付け」されていきます。底付けはさまざまなサイズで起こり、大規模な繰り返しの構造は、デュープレックス(duplex)と呼ばれます。
  複雑ではありますが、付加体はある一定のメカニズムに基づいた構造をもっているのです。付加体の認定は、構成要素と付加機構の両者によってなされます。実際には、詳細な地質調査による地質構造の解明と、化石による年代決定が必要になります。
  付加体の中では、断層の繰り返しによる地層が整然と並ぶわけではなく、中には激しく乱れた構造になることもあります。その範囲が大規模な場合、メランジェ(混在岩、メランジ、メランジュとも呼ばれる)といいます。メランジェには、泥岩の中(基質と呼ばれる)に、数cmから数kmに及ぶサイズの起源の違っている岩石(異質岩塊、外来岩塊、異地性岩塊などとも呼ばれる)が、含まれています。
  菜生層群は、いくつかのメランジュがあります。北に日沖メランジェ、南に坂本メランジェがあります。その前後には比較的整然とした部分(アセンブレッジと呼ばれることもあります)もあります。アセンブレッジの部分は、砂岩泥岩互層を中心とした堆積岩からできていて、整然とした地層に見えることころもあります。時に大規模な褶曲や、一枚から数枚の地層内での小規模な褶曲(スランプとよびます)などが含まれています。付加体の異常堆積なので、形成年代は地層累重の法則には従いません。下位ほど新しくなります。
  日沖の枕状溶岩は、日沖メランジェの中にあります。ただし異質岩塊ではありません。日沖の溶岩は、室戸岬でみられた斑レイ岩マグマが、海底で噴出したものです。玄武岩が水中で噴出するとき枕状溶岩となります。激しい火山活動であったのに、その産状はあまりに優雅です。人間の大きさと比べれば、枕状溶岩は、非常に大きな岩塊です。こんな大きな岩が、付加体の中で活動したのです。一見整然とした地層、一見見事な枕状溶岩なのですが、付加体の形成される場、沈み込み帯が、激しい変化の場であることを物語っています。メランジェが形成される時には、想像を絶する地震が起こったかもしれません。なのに、枕状溶岩や砂岩泥岩互層がきれいに残っているのです。日沖の枕状溶岩は、大地の静と動を示しているのでしょう。


Letter★ 賜物・遅れのお詫びと言い訳

・賜物・
メランジェの不思議な形態、擾乱、岩石は
その概念を持っていない人、
もちろん地質学者でも、大いに悩んだと思います。
まして、詳しい調査に年代によって
地層累重の法則が破れることを知れば、
混乱はさらに増すことでしょう。
今では付加体やメランジェの概念を持って
露頭を見ることができ、
その解釈に悩むことはありません。
だから、落ち着いて、大地の営みの
激しさ、雄大さに思いを馳せることができるのでしょう。
それも先人達の努力の賜物です。
大地の営みの賜物を
先人の努力の賜物から眺められるので、
不思議から感動が生まれるのでしょう。

・遅れのお詫びと言い訳・
1日遅れての発行となりました。
発行が遅くなったことをお詫び申し上げます。
理由は、論文の〆切と卒業研究の面談による推敲を
やっていた為、時間がとれなかったためです。
論文の〆切が15日でした。
それをなんとか〆切までに手放すことができました。
なかなかまとまった時間がとれないのと
書いていた原稿が長くなりすぎたので、
何割かけったりしました。
いつになく手こずりました。
西予市の地質をまとめた論文で、
パンフレットの原稿の基礎データとなるものでもあります。
手を抜くことができませんでした。
また卒業研究は12月8日に提出です。
9名の卒論を夏から添削を続けています。
今が佳境です。
空き時間に添削が次々に入ってきます。
OKを出したのはまだ3名です。
これからも添削は続きます。
このような状況で、発行が遅れました。
以上、言い訳でした。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の数値地図200000(地図画像)、
数値地図50000(地図画像)、
数値地図25000(地図画像)、
数値地図250mメッシュ(標高)、
数値地図50mメッシュ(標高)、
数値地図10mメッシュ(火山標高)及び
基盤地図情報を使用した。
(承認番号 平21業使、第53号)」

解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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