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Essay ★ 76 周木:思惑外の凝灰岩
Letter★ あるがまま・力を抜いて


三瓶周木周辺の2万5000分の1地形図


上と同じ範囲の地質図


上と同じ範囲のLandsat衛星画像


上と同じ範囲の地形解析の地上開度図


上と同じ範囲の地形解析の地下開度図


上と同じ範囲の地形解析の傾斜量図


デボン紀堆積岩の分布する海岸のパノラマ画像。


海岸沿いの地層。


海岸沿いの地層。


海岸沿いの垂直の地層。


向の小島にも垂直の地層が見える。


地層は凝灰岩を主とする。


細粒緻密な凝灰岩。


粗粒火山砕屑岩を含む堆積岩。


黒瀬川構造帯の圧砕花崗岩。


黒瀬川構造帯の圧砕花崗岩。


黒瀬川構造帯の圧砕花崗岩。

(2011.04.15)
  西予市の滞在の終に、行き残していていた地域をいくつか巡りました。三瓶の周木もそのひとつでした。二度目の訪問でしたが、今度はひとりでじっくり眺めましまた。そして、その地質学的背景に思いを馳せました。


Essay ★ 76 周木:思惑外の凝灰岩

 愛媛県西予市三瓶町の周木(しゅうき)と長早(ながはや)の間に、須崎観音があります。地元の人以外には、あまり知られていないところですが、なかなか景色がいいところです。
  須崎観音は周木の少し南にある半島の先端にあります。幹線道路から入って半島に向かいます。道は狭いですが、舗装されたしっかりしたルートがあります。観音の入口付近には、駐車場やトイレも完備されています。海岸に降りれば、家族連れでも一日磯遊びができそうな、なかなかいいところです。
  春まだ浅い3月に、この地を訪れました。
  須崎観音の駐車場の近くに、海岸に降りる細い道があります。少々坂が急で階段が長いですが、コンクリートでできた、しっかりとした道です。入り口さえわかれば、あとは、迷うことはありません。その道を降りると、海岸の防波堤沿いに歩くことができます。
  防波堤の一方は海で、もう一方は崖になっています。その崖には、地層が連なっています。この地層を見るのが、今回の目的でした。
  以前に一度、観察会で神奈川県と城川町の子どもたちを連れてきたことがあります。ですから周木のこの海岸は、二度目の訪問となります。
  子どもたちは、磯が大好きです。珍しい磯の生物たちがいろいろ見ることができます。本当は、地層を観てもらうことが目的で連れてきたのですが、やはり海や磯の魅力に地層は負けるようです。まあ、子どもたちが自然の中で遊ぶのはいいことです。
  私には、この切り立った地層の魅力で、ここに再訪したのです。最初に、この地層を見たとき、層状チャートではないかと思いました。チャートも酸性凝灰岩も珪酸(SiO2)を主成分としており、いずれも層状に堆積することもあり、似たような見かけや形状(産状といいます)になる岩石でもあります。まあ、慎重に観察したり、顕微鏡で調べれば、判別はできますが。
  もう少し近寄ってみていくと、緻密な岩石だけでなく、礫岩や粗粒の砂岩などもあります。砕屑性堆積岩の性質がみえてきます。主には、酸性の火山灰(白っぽい透明感のある凝灰岩になります)を含む堆積岩からなり、中には火山岩の角礫を含む地層や、チャートにように見える細粒の凝灰岩、あるいは普通の砕屑性堆積岩に見えるところあります。
  層状チャートという先入観をもったのは、層状チャートと砕屑性堆積岩の組み合わせは、日本列島ではよくあるものだからです。もしそうなら、堆積構造に特徴的なものがあったり、特徴的な岩石も伴うはずです。よく伴われる岩石とは、石灰岩、玄武岩溶岩やその破砕岩、ありは赤色頁岩などが、ブロック状にも近くにあってもいいはずです。これらは、沈み込み帯で形成される固有の岩石群と構造で、付加体とよばれています。このような付加体が、周辺には広く分布しています。秩父帯(秩父累帯とも呼ばれています)に属する地層で、特有の構造をもっています。
  ですから、チャートと砕屑性堆積岩があったとしても不思議ではなく、周辺の関係からそのような付加体であると考えたくなります。問題は、付加体の構造をもっているかどうかです。層状チャートにみえる地層も砕屑性堆積岩も、あまりにも整然と成層しています。この整然さが、少々不思議です。なぜなら両者の生成環境が全く違っているからです。
  付加体を構成しているチャートは、深海底に降り積もった微生物の遺骸が固まってできたものです。一方、砕屑性堆積岩は、陸から運ばれてきた土砂が沈み込み帯(海溝)でたまったものが起源です。それがプレート移動によって沈み込み帯で混在することになります。ですから、両者がぴったりと接していても、その境界には断層があり、年代の違い(数百万年や数千万年のギャップ)もあります。いくつかの境界で、たまたまぴったりとくっつくことがあっても、いたるところで、きれいにくっつくことはありません。でも、ここの地層では整然の地層が連続して積み重なっています。この連なり方は、もともとの堆積構造に見えます。
  地層をさらによくみると、砕屑性堆積岩には、構成粒子が大きくよくみえる礫岩もあります。礫には、火山岩の破片ばかりからできているものもあります。砂岩にも火山岩の破片を多数含むものもあります。さまざまな粒子サイズの火山性堆積岩があります。すべてではありませんが、ここの地層は火山岩起源の砕屑岩を主としていることは確かです。火山岩の粒子の細かいものは凝灰岩となっているはずです。そんな目で見直すと、やはり層状チャートにみえた岩石も、チャートではなく凝灰岩のようです。
  周木のこの地層はすでに詳しく調べられており、秩父帯のものとは明らかに違っていることがわかっています。
  まず、火山岩の性質が、違います。秩父帯のものは、海底の中央海嶺や、海山をつくる火山で形成された玄武岩類です。それに対して周木の凝灰岩は、酸性(デイサイトや流紋岩などの珪酸の多いマグマからできた)で、列島や大陸で活動する火山に由来するものです。軽石の礫も見つかっています。軽石とは、酸性の火山噴火でできる白っぽい穴の多数あいた岩石です。以上のことから、両者の火山岩の起源やでき方の違いがわかります。
  秩父帯の玄武岩は、海洋域で形成され、周木の凝灰岩は、大陸もしくは列島の火山活動でできたことになり、形成環境が明らかに違ってています。また、秩父帯の火山岩は、遠くの海でできた岩石が、沈み込み帯で陸から由来する堆積岩と堆積作用ではなく、プレートの移動に伴って混じった(構造的やテクトニックという)ことになります。このような別の場所から由来した岩石を、異地性と呼びます。一方、周木の火山は、大陸や列島で活動していた火山から直接由来してたまったものになりまします。このようなでき方を現地性とよびます。
  次に、時代が違うことが分かっています。周木の地層の中から化石が見つかっています。礫岩中の石灰岩の礫からサンゴ化石が見つかり、下部デボン紀(約4億年前)のものであることがわかっています。秩父帯の岩石では、せいぜい石炭紀(古くても3億5000万年前)が最古で、多くは中生代に形成されています。明らかに形成年代が違っています。
  このような古い現地性の岩石は、近くにはなく、同じ西予市ですが、少し離れた野村町や城川町にある黒瀬川構造帯の堆積岩に似ています。城川などの黒瀬川構造帯では、岡成層群と呼ばれ、同じ時代、似た岩石構成になっています。周木の地層は、離れていますが、同じ来歴をもった黒瀬川構造帯のメンバーであると考えられます。
  さらに、周木の近くには、トーナル岩や斑レイ岩があります。トーナル岩は、圧力によって潰されて(圧砕といいます)いますが、花崗岩の仲間です。この花崗岩や斑レイ岩は年代は求められていませんが、黒瀬川構造帯の三滝火成岩類(約4億5000万年前の花崗岩類)に対応しています。これらの岩石類の存在も、周木に黒瀬川構造帯があることを支持します。
  そうなると、野村町までで、一旦途切れていた黒瀬川構造帯の分布が、豊後水道に消えなんとする半島の先端に、ほんの少しだけ、顔を出していることになります。たまたまここに残っていだけでしょうか。それとも、そこに深い理由があるのでしょうか。それは、まだ不明です。そんな謎に地質学者たちは挑んでいます。
  磯に切り立った崖に連なる地層を眺め、不思議な地質学的背景に思いを馳せていました。春の周木の地層の崖を眺めが、西予市では最後の調査になりました。


Letter★ あるがまま・力を抜いて

・あるがまま・
最初、周木のこの地層をみたとき、
凝灰岩だと知識で知っていたのですが、
層状チャートではないかと思いました。
よく見て、通常の層状チャートではないことを悟り、
その変化したものではないかと思いました。
でも、よく見て、よくよく考えると、
層状チャートではないという結論になります。
そういう先入観があったのは、
上で述べたような理由もあったのですが、
単調な地層が連続するところを
調べたいと考えてい時期でもありました。
周木の連続露頭を一目見たとき、
その候補になると考えました。
でも、人間の思惑など、自然は配慮しません。
あるがままが自然です。
あるがままの自然に対しては、
先入観を持たず、
あるがままを受け入れる心が必要なのでしょう。
そんなことも学びました。

・力を抜いて・
西予市から北海道にもどってきて
半月がたちました。
大学の新学期にあるいろいろな行事を
つぎつぎとこなしているうちに
あっという間に日々が過ぎていきます。
今回の1年間の研究休暇によって、
脱力することを学びました。
授業やゼミをするとき、
力まずに等身大の自分で行くことにしました。
そして、それは手抜きではなく、
自分の身の丈にあった、
力相応の態度で望むことにしました。
背伸びもせず、出し惜しみのせず、
という感じです。
どれくらい続くかわかりません。
まだ新学期は始まったんばかりです。
新入生より先に力尽きることはできません。
のんびりと、でもそれなりの力で、
急がずに、でも止まることなく、
気楽に、でも誠意を持って、
そんなやり方をしています。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の数値地図200000(地図画像)、
数値地図50000(地図画像)、
数値地図25000(地図画像)、
数値地図250mメッシュ(標高)、
数値地図50mメッシュ(標高)、
数値地図10mメッシュ(火山標高)及び
基盤地図情報を使用した。
(承認番号 平21業使、第53号)」

解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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