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Essay ★ 60 高千穂:神話を生む節理
Letter★ 予定外の訪問・来年の予定


高千穂地方の5万分の1地形図


上と同じ範囲をLandsat衛星の画像で示したもの。


上と同じ範囲を地形解析の地上開度で示したもの。高千穂周辺の深い谷が分かる。北西にあるのは阿蘇の外輪。


上と同じ範囲を地形解析の地下開度で示したもの。


上と同じ範囲を地形解析の傾斜量で示したもの。


高千穂峡で有名な真名井の滝を道路側から見たもの。


高千穂峡で有名な真名井の滝を上流から見たもの。


この川は柱状節理のたおやかさと荒々しさをもっている。


高千穂の天安河原。


天安河原の岩屋には小さな神社があり多量の石積みがあった。


そこに多くの人の思いがこめられているのだろう。


高千穂峡の上流側。


高千穂峡のパノラマ。28枚の画像を構成したもの。約20000×10000ピクセルのサイズの画像を20Zoomfyによって表示している。

(2009.12.15)
  いよいよ今年も終わろうとしています。今回は、天岩戸伝説で有名な高千穂を紹介します。高千穂は、阿蘇山の火山活動によってできた柱状節理が織り成す景観です。節理は長い年月の経過によって、地下から現れたものです。風化によって浸食され、流水によって削られながらも、節理の性質を残しています。高千穂の生い立ちを見ていきましょう。

Essay ★ 60 高千穂:神話を生む節理

 九州の中央部には、阿蘇山があります。阿蘇山は、日本でも非常に規模の大きいなカルデラを持つ火山で有名です。現在でも活動中の活火山で、中岳周辺には、激しく噴気を上げている火口があります。活動と風向きにっては、近づけないこともあります。
  広大な火山なので、阿蘇山の中岳を中心とする中央火口丘だけでなく、カルデラ内にもいくつもの観光名勝があります。カルデラの外にも、もちろん観光名勝があります。
  カルデラは火山の中に形成されたくぼ地です。そのくぼ地は、火山体の中央が陥没して形成されます。ですから、カルデラの周囲には、もとの火山体を構成していた山が残り、外輪山と呼ばれています。外輪山は、カルデラの方が急な崖になってカルデラ壁と呼ばれています。外輪山の外側は、火山の裾野ですので、比較的なだらかになっています。しかし、それはカルデラ壁と比べての話で、火山の裾野ですから、傾斜をもった斜面となっています。
  もちろん、阿蘇山の外輪山周辺にも観光名所はたくさんあります。
  宮崎県の高千穂は、阿蘇山の外輪山の南東の山裾にあります。険しい山の中に、峨峨とした山並み、柱状に切り立った渓谷が特徴で、高千穂峡と呼ばれています。私は、阿蘇山へは、何度かいったことがあります。カルデラ内のその周辺にもいきました。高千穂へは、3度ほど出かけました。今年の9月にも出かけ、周囲を見学しました。
  外輪山は昔の火山の裾野にあたり、分水嶺を形成し、周辺には外輪山を源流とする河川が多数あります。その一つに五ヶ瀬川があります。五ヶ瀬川の上流、外輪山の南東の山麓に位置するのが、高千穂です。
  高千穂は、その険しく不思議な景観を持っているためでしょうか、古くから物語や伝説が生まれてきたようです。高千穂は、天孫降臨の地、あるいは天岩戸(あまのいわと)の神話の舞台として有名です。
  天孫降臨とは、古事記と日本書紀に記された神話です。スサノオノミコト(瓊瓊杵尊)が姉であるアマテラスオオミカミ(天照大神)の命を受けて、高天原から天降ったというものです。その地が、高千穂だと考えられています。
  天岩戸伝説も、スサノオノミコトとアマテラスオオミカミに関する神話です。スサノオノミコトが高天原で目に余る狼藉を働いたので、アマテラスオオミカミが怒って、天岩戸に篭ってしまいました。このとき、一帯が真っ暗になったのいうのが、天岩戸伝説です。
  実際には、皆既日食が起こったのが、このような神話の起源だと考えられているようです。日食終わりにも神話が続きます。
  暗くなって皆は困り、アマテラスオオミカミを出すために策略を練ります。天岩戸の前で、踊りの上手なアメノウズメノミコト(天鈿女命)が奇抜な格好をして踊り、他の神々も大笑いをしたり、大騒ぎをしました。その騒ぎを聞きつけたアマテラスオオミカミは、皆を困らせるために岩戸に篭ったのに、喜んで大騒ぎをしているのを不思議に思い、岩戸を少し開けて、なぜ大騒ぎをしているのかを聞きました。そのとき、あなたより貴い神が現れたといって、そっと鏡を出しました。その鏡に映った自分の姿を、もっと見ようと岩戸をさらに開けたところを、力持ちのタジカラオノミコト(手力男命)が引きずり出し、もう岩戸に隠れられないように注連縄(しめなわ)をはりました。それで、やっと闇はなくなったという神話です。
  神話ですから真偽のほどは定かではありませんが、高千穂には、天岩戸神社があり、天岩戸があります。私は、天岩戸神社へはいったんのですが、天岩戸は見学しませんでした。ただ、神話の舞台となっている天安河原を訪れました。
  そこは、高千穂の静寂に囲まれた不思議な空間となっていました。
  高千穂峡の不思議な景観は、柱状節理が作り上げています。柱状節理とは、マグマや岩石が冷めるときにできる割れ目です。マグマが固まり、熱い岩石が冷めるとき、少し体積が減ります。そのときに、岩石に割れ目ができます。その割れ目は、冷める方向に対して垂直にできやすくなります。高千穂峡の柱状節理は、垂直に立っていますから、上下から冷えたことになります。
  柱状節理の上部では、柱状ではなく、放射状の節理もあります。ここでは、表面に近く、丸くなるような冷え方をしたようです。自然の造形ですから、同じようでも、2つとして同じものはありません。
  垂直の柱状節理は、川によって侵食されていくと、柱が一つ一つ倒れていきます。ですから、切り立った崖として侵食され、深い谷ができます。高千穂峡も、そのような作用でできました。
  高千穂の一番の名勝である真名井の滝は、柱状節理の上から流れてきた水が、17mの高さから静から川面にしぶきとなって落ちます。水量は多くないですが、たおやかな優雅さがあります。柱状節理に囲まれた静かな流れに落ちる滝へは、ボートで誰もが近づけます。東西横に7km、高さ80〜100mに渡る柱状節理の列が、高千穂峡の非常に神秘的な景観をつくっています。
  この柱状節理は、阿蘇の火山によってできたものです。柱状節理をよく見るとそこには、黒っぽいガラス状の石が延びて含まれています。これは火山の火砕流によって放出された軽石などが、熱のために溶けてガラス状になったものです。火砕物が溜まった時の圧力で、平たく伸ばされたものです。このような岩石を溶結凝灰岩といいます。柱状節理は、阿蘇の火山噴火で火砕流が起き、火砕物が溜まり、再度熱くなり固まり、それが冷えたときできたものです。
  阿蘇山は、過去に4度の大噴火を起こしています。最初は26.6万年前で、2度目が14.1万年前、3度目が12.3万年前、4度目が8.9万年前です。3度目と4度目の大噴火の時、火砕流が高千穂を襲い、火砕堆積物を堆積しました。これが、今では柱状節理となっています。
  火砕流は、マグマが地表付近で大爆発して、膨張したものが、流体として熱いまま流れていきます。600度から1000度ほどの熱い流体で、高速で流れていき、山があっても乗り越えて、遠くまで達します。
  阿蘇山の4度目の火砕流は、非常に大規模で広範囲に及びました。この火砕流は、南は人吉盆地まで達し、南以外はすべて海にまで達しています。北は海を越え山口県宇部市、東は五ヶ瀬川の河口から海へ、西は海を越え、島原半島、天草下島にまで達しました。その規模は、火砕流だけで、九州を半分近くを覆うような大火砕流だったのです。また、火砕流だけでなく、火山灰も大量に放出し、北海道東部でも15cmもたまっています。
  そんな大噴火によって形成された高千穂峡ですが、今ではそんなことに気づく人はどれほどいるでしょうか。高千穂峡を橋の上から見下ろすと、そこには切り立った崖と、音も無く落ちる滝、そして静かな水面という、静逸と神秘に満ちた景観をみせてくれます。時折静かな水面をボートが行きかい、これが現代であるということを、思い出させてくれます。
  こんな節理が作り出す景観の中で、神話が生まれたのも納得できます。


Letter★ 予定外の訪問・来年の予定

・予定外の訪問・
今年最後のエッセイは高千穂となりました。
高千穂には今年9月、
宮崎調査に出かけたときに立ち寄りました。
本当は、高千穂からのずっと奥の調査予定でした、
その地を探したのですが、わかりづらく
見つけることができず、断念しました。
少々悔しい思いでしたが、
はからずも時間ができたので、
高千穂を見学することにしました。
20年ほど前には友人と、
数年前にも家族で高千穂には訪れたのですが、
季節が違っているので、趣も違っていました。
9月上旬の平日にもかかわらす、
バスで多くの観光客が訪れていました。
観光客でも、外国の方が目立ちました。
夏休みが過ぎていましたが、
暑い日で、高千穂峡の川面を流れる風の涼しさを堪能しました。

・来年の予定・
いよいよ今年も終わりとなります。
来年もこのエッセイを続ける予定ですが、
4月以降は、愛媛県に1年間単身で出かける予定になっています。
そこは自宅や大学よりインターネット環境が完備しておらず
継続できるかどうか不明です。
とりあえずは、3月までは継続していきますが、
状況によっては、このエッセイを休止するかもしれません。
ただ、現在発行しているまぐまぐでは、休刊はできますが、
1年以上に渡っての休刊は、メールアドレスの変更が多数あるため
あまり復刊しない方がいいとのことです。
ですから、せっかく長らく購読いただいている読者がおられますから
継続の方向で検討しますが、現段階では、まだ未定です。
状況が変わればそのつど連絡しますが、
そのような状況であることをご報告します。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の数値地図200000(地図画像)、
数値地図50000(地図画像)、
数値地図25000(地図画像)、
数値地図250mメッシュ(標高)、
数値地図50mメッシュ(標高)、
数値地図10mメッシュ(火山標高)及び
基盤地図情報を使用した。
(承認番号 平21業使、第53号)」

解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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