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Essay ★ 53 那智の滝:鳥居越しのマグマの末端
Letter★ 柱状節理・シームレス地質図・許可申請


熊野大社の那智の滝。


産業技術総合研究所地質調査総合センター 20万分の1シーム レス地質図(ダウンロード版)を使用したもの。ピンクと赤の部分が酸性岩類。


産業技術総合研究所地質調査総合センター 20万分の1シーム レス地質図(WebGIS版)を使用したもの。ピンクと赤の部分が酸性岩類。


熊野酸性岩類の分布域を10mメッシュで示したもの。花崗岩類の分布域は地形的にはあまり顕著にあわられていない。


上と同じ範囲を、地形解析の地下開度で示したもの。


上と同じ範囲を、地形解析の地上開度で示したもの。


熊上と同じ範囲を、地形解析の傾斜量で示したもの。花崗岩類の分布地域の傾斜量にやや違いらしきものが見えるが明瞭ではない。


上と同じ範囲を、Landsat衛星画像で示したもの。


熊野大社の那智の滝は世界遺産に登録されています。


熊野大社の鳥居。飛竜神社の表記されている。


熊野大社の那智の滝。滝の下流側には、節理が壊れたと思われる岩石が転がっている。


熊野大社の那智の滝。


滝上部の横方向の節理が発達する部分。


熊野大社の那智の滝。

(2009.05.15)
  三大瀑布のひとつ和歌山県の熊野にある那智の滝を訪れました。春まだ浅き熊野路で、眺めた那智の滝は、大地の営みによって、そして大空の営みを背景に、長年の人の信仰という営みを宿していました。信仰の象徴の鳥居から、大地の営みを示すマグマの末端を、那智の滝に見ました。

Essay ★ 53 那智の滝:鳥居越しのマグマの末端

 日本人は、なぜか「3○○」や「3大○○」として数え上げることが好きな民族のようです。日本三景のように古くから挙げられているものや、御三家や新御三家などのようにあるときから呼ばれるようになったものなど、いろいろあります。最近では、官庁や公共団体、学会、関連組織などなどが「○○百選」などとして、いろいろな対象を選定をすることが増えてきました。
  今回は、三大瀑布、あるいは三名瀑としてして、古くから知られている滝の話です。
  三大瀑布とは、茨城県の袋田の滝、栃木県の華厳の滝、和歌山県の那智の滝です。袋田の滝は、久慈川支流の滝川上流にあり、長さ120m、幅73mです。その広さともに、緩やかにカーブする斜面を流れ下る水は優雅さが魅力です。華厳の滝は、観光名勝の日光にあり、中禅寺湖からあふれ出た水が、幅は7mほどなのですが、落差97mを誇ります。また、滝の落ち口の横からだけでなく、エレベーターが設置されているので滝つぼの脇からも滝を見ることができます。
  那智の滝は、和歌山県の熊野の自然信仰の聖地のひとつにもされ、古くから信仰対象となっていました。滝は、道路から参道を通り、神社の鳥居越しにみることになります。宗教的な神秘さや荘厳さもさることながら、その魅力はやはり落差133mを一気に流れ落ちる水の勇壮さではないでしょうか。
  私は、今まで華厳の滝しか見たことがなく、今回、春の南紀旅行で三大瀑布の2つ目となる那智の滝を見ることができました。朝一番に訪れたので、観光客が少なく落ちついて見ることができました。3月下旬の春に、桜も咲き始めていた時期でしたが、地元の人も驚くほどの寒の戻りで、晴れていたのに肌寒い天候の中、見学しなければなりませんでした。
  参道の奥にあわられた那智の滝は、鳥居越しに眺めることになります。その鳥居越しの那智の滝の眺めは、不思議な感慨がありました。その不思議な感慨は、マグマと自然と、人々の信仰から由来するなにものかに、心が呼応したのかもしれません。
  那智の滝は、ほぼ垂直に切り立った岩石の壁を、水が流れ落ちています。岩石の壁は、白っぽい火成岩からできています。熊野周辺では、1400万年前くらいに大規模なマグマの活動が起こり、白っぽいマグマ由来の深成岩や火山岩が広範囲に形成されました。この一連の白っぽいマグマによってできた火成岩類を、熊野酸性岩類と呼んでいます。
  酸性岩とは、珪酸(SiO2)の成分の多いマグマが固まったもので、白っぽくなります。酸性のマグマが、地下深部でゆっくりと固まると花崗岩になり、火山として噴出するとデイサイトや流紋岩などになります。一方、珪酸の成分の少ないマグマは、マグネシウムや鉄が多くなり、黒っぽい色になります。そのようなマグマを塩基性と呼びます。深成岩は斑レイ岩になり、火山岩は玄武岩になります。
  熊野酸性岩類は非常に大規模に活動しました。分布は、和歌山県の那智勝浦町から、北北東に太平洋沿いに伸び、三重県の尾鷲市まで続く、20×60kmにもなる大きなものです。
  那智の滝も、熊野酸性岩類に属し、花崗岩の仲間からできています。花崗岩といわなかったのは、正確には花崗斑岩(かこうはんがん)とよばれる岩石だからです。斑岩とは、岩石の中に大きな結晶(斑晶(はんしょう)と呼びます)があり、それ以外の部分(石基(せっき)と呼びます)には、小さな結晶や結晶化していないもの(ガラスと呼びます)からできている岩石です。火山岩と深成岩の中間的なもので、以前は半深成岩とも呼ばれていましたが、今ではあまり使われていません。
  実は、熊野酸性岩類では、花崗斑岩が大半(85%程度)を占めています。熊野深成岩類は、非常に浅いところまで上昇してきた花崗岩マグマが、一部は噴出して火山灰や溶岩となり、多くは浅いところで固まったと考えられています。ですから、斑岩のつくりになったのです。
  このような大量の酸性岩マグマは、どのようにしてできたのでしょうか。
  一般に花崗岩は、大きく分けて2つの成因があると考えられています。チャペルとホワイトは、オーストラリアの東部にある花崗岩を研究していて、SタイプとIタイプに分けました。これが最初の花崗岩の成因に基づいたタイプ分けでした。彼らは、泥質変成岩に似た性質のものをSタイプ花崗岩と呼び、カルシウムに富む鉱物を持った普通の花崗岩をIタイプと呼びました。SタイプのSとは、堆積岩(Sedimentary Rock)から、Iは火成岩(Igneous rock)からとったものです。Iタイプ花崗岩は、マントルや地殻下部が溶けてマグマができたもので、Sタイプ花崗岩は、地殻上部の堆積岩が溶けてマグマができたものだと考えられています。
  熊野酸性岩類に似た岩石は、紀伊山地の中核部をなす大峯山周辺にも出ています。大峯花崗岩類と呼ばれています。大峯花崗岩類は熊野酸性岩より北の方に位置します。大峯花崗岩類は、幅は狭いのですが、50km以上にわたって、山の上部に断続的に分布しています。大峯花崗岩類は、熊野酸性岩類より北で、連続するわけではないのですが、近いところにあります。
  熊野酸性岩類は、化学組成や同位体組成、鉱物の性質から堆積岩類の部分溶融により生じたSタイプ花崗岩質マグマからできたと考えられています。大峯花崗岩類には、IタイプとSタイプの両者があります。大峯のSタイプと熊野の花崗岩は、形成時代も性質も似ていることから同じ成因でできたと考えられています。
  大峯花崗岩類の研究から、大峯のSタイプと熊野酸性岩類は、地下20kmから15kmぐらいのところにあった堆積岩(あるいはその変成岩)が、700℃ほどの温度条件で溶けてできたマグマだと推定されています。
  熊野酸性岩類は、大部分は花崗斑岩なのですが、岩体の中央部に流紋岩と流紋岩質凝灰岩があり、分布が途切れています。花崗斑岩は、流紋岩より北側を北ユニット、南を南ユニットと区分しています。那智の滝は、南ユニットの花崗斑岩の南端に位置しています。その花崗斑岩の末端が滝を形成しています。
  もともとのマグマの先端部分は、崩れ落ちてなくなったと思いますが、現在のマグマの分布が、ここで終わりであることを、周りの地形からも予想できます。
  熊野地域は、黒潮の影響を受け、年平均気温は約17℃という温暖で、年降水量は約3,300mmという多雨地域となっています。このような豊富な降水量によって、熊野には、多くの滝があり、那智四十八滝と呼ばれています。その中でも、那智の滝は、代表的なものでした。
  那智川にできた那智の滝は、北東に広がる花崗斑岩の上に形成された大宝山(おたからやま)(標高909.2m)に源流をもちます。那智川の流域は、けっして広くなく、流路も短いものです。しかし、豊富な降水量を背景にした那智の滝は、7mという滝幅ですが、大きな落差で勇壮な滝が形成されています。那智の滝は、2004年7月に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されましたが、そのコアゾーンともなっています。そして御神体として、信仰の対象でもある那智の滝は、マグマの末端にできた滝でした。鳥居越しに眺めたときの那智の滝への感慨は、マグマと自然環境、そして人の信仰が融合したものであることがわかりました。


Letter★ 柱状節理・シームレス地質図・許可申請

・柱状節理・
那智の滝は、上部の3割ほどのあたりまで
不規則ですが水平の割れ目(節理(せつり))が走り、
残りの下の部分は、明瞭な垂直の節理があります。
節理とは、マグマがらできた岩石が冷えると、
少し体積が縮むので、
そのときに形成される割れ目のことです。
節理のできる方向は、マグマが冷えた向きと
垂直なるように、形成されていきます。
上部は不明瞭ですが、滝の下の部分は
明瞭な柱状節理を示します。
滝では、このような節理がでていることがあります。
私が行ったことがあり、すぐに思いつくものでも、
伊豆の浄蓮の滝や河津七滝(かわずななたる)、
北海道の層雲峡の銀河の滝や流星の滝など
をすぐにあげることができます。
そのひとつに、那智の滝が付け加わりました。

・シームレス地質図・
2009年1月30日に、
シームレス地質図データベース(WebGIS版)が
独立行政法人産業総合研究所
地質調査総合センターから一般公開されました。
シームレス地質図とは、
写真のようなドットの画像ではなく、
ベクトルデータで地層境界や構造線を作成しています。
そのため、拡大しても画質が劣化することがありません。
私も、WebGIS版を今回初めて利用しました。
もとの地質が20万分の1であるのと
広範囲の地質図だったので、
画像データのものと、あまり違いを感じませんでしたが、
今後、5万分の1の精度でスームレス地質図を
作成する予定があるそうなので、
かなり精度のよい地質図が見ることができそうです。
この地質図は、プラグインを入れて、ユーザー登録さえすれば、
選択範囲を最大1000×1000pixcelの精度で
ダウンロードできます。
なかなかすばらしいものです。

・許可申請・
地図や地理情報に興味ある人は、
もうご存知かもしれませんが、
国土地理院が、
全国の10mメッシュ数値標高データを公開しました。
これは、画期的なことだと思います。
北海道地図株式会社さんが
10mメッシュを有料で販売されています。
私もそれを購入して、
このエッセイのホームページで利用しました。
さらに、共同研究として各地の10mメッシュデータを
利用されていただきました。
しかし、その共同研究も終わり、購入したもの以外は、
10mメッシュの標高データを利用できなくなりました。
ところが、今年の4月から、国土地理院が
だれでも無料で利用できるようにしてくれました。
私も、早速データをダウンロードして使える状態しました。
インターネットによる利用手続きをとっていますが、
なかなか煩雑で面倒で、許可の取り方がわかりません。
国土交通省は簡便化してたといいますが、
IT上においても、煩雑で困っています。
インターネットによる確定申告でも同じ思いをしました。
いわゆるお役所になっているような気がします。
もう少し簡単にできないのでしょうかね。
書類を郵送したほうがずっと簡単だったので、
先日書類を送りました。
私が遅れているのか、
政府が進みすぎているのかわかりませんが、
市民がもっと使いやすくできないものでしょうかね。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の数値地図200000(地図画像)、
数値地図50000(地図画像)、
数値地図25000(地図画像)、
数値地図250mメッシュ(標高)、
数値地図50mメッシュ(標高)、
数値地図10mメッシュ(火山標高)及び
基盤地図情報を使用した。
(承認番号 平21業使、第53号)」

解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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