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Essay ★ 39 竜串:地層の串刺しを目指して
Letter★ 想定外・恒例の台風


竜串の地層。


竜串周辺の2万5000分の1地形図に10mメッシュの数値標高を合わせて表現。


上と同じ範囲を竜串周辺の5万分の1地形図に10mメッシュの数値標高を合わせて表現。


竜串のパノラマ画像。


上と同じ範囲の地形解析地上開度の図。


上と同じ範囲の地形解析地下開度の図。


上と同じ範囲の地形解析傾斜量の図。


竜串の地層にあるラミナに沿ってできたノジュール。


竜串の地層内のコンボリューション。


竜串の地層内に見られるコンボリューション。


竜串の地層内に見られるコンボリューション。


竜串の地層。ノジュールと竹の節のような亀裂跡がある。


竜串の地層。竹の節のような亀裂跡がある。大竹小竹。


竜串の地層。巣穴に砂が入ってきた生活痕の生痕化石。


竜串の地層。リップルマーク。


竜串の地層。リップルマーク。


見残しの地層。


見残しの地層にみられる鎖状に侵食されたラミナ。


見残しの地層の中に見られる巣穴の化石。


海中展望塔。

 黒潮に洗われる四国西南端の足摺岬の付け根に竜串ということろがあります。竜串では、隆起した海食台があり、地層をよくみることができます。そんな地層を串刺しにするつもりで調査にいきました。

Essay ★ 39 竜串:地層の串刺しを目指して

 2007年9月に四国の南西にある竜串というところに行きました。竜串の近くの「見残し」というところとともに、奇岩からなる海岸として、観光地になっています。竜串の名称は、地層の並びが竜を串差しにしたように見えるためだという説があります。私は、航空写真も見ているのですが、そうは見えません。
  海岸の地層は、非常に整然ときれいに露出しています。北東−南西に伸びて(北から東へ約60度)、西に約60度の傾斜した地層となっています。それが、竜のうろこのように見えるのかもしれません。
  竜串や見残しは、このような整然とした地層がさまざまな形態を持っているので、名所となっているのす。竜串は、高知県の足摺岬の付け根付近にあたり、土佐清水市にあります。
  竜串は、駐車場から歩いていけますが、見残しは竜串から船を利用するか、半島の尾根からかなり歩いて降りるしかありません。年間80万人も観光客が訪れている足摺岬と比べると、竜串はその5分の1ほどの観光客しか訪れません。まして、アクセスの悪い見残しは、さらに少なくなります。しかし、観光客が訪れないから、面白くないかというとそうではなく、私にとっては足摺岬より竜串や見残しのほうがずっと興味深いものでした。
  そもそも私が竜串を訪れたのは、地層調査をするためでした。とはいっても、一般的な地質調査ではなく、調査法の開発を目的としていました。デジタル画像でもれなく詳細に地層を記録する方法を考案して、それを検証するためでした。そのために典型的な地層の出ている場所を探していました。愛媛県西予市城川町の地質館でおこなっている仕事もあったので、四国西部で探していたところ、竜串が候補に上がったのです。
  竜串や見残しは、足摺宇和海国立公園に1972年11月10日に指定されています。海中公園とは、海中に美しい景観や貴重な自然があるために指定されたものです。この付近の海は黒潮の影響を受けているため、サンゴや熱帯魚などがみられます。グラスボートや海中展望塔などもあるため、海中も見ることができます。
  調査の候補地として国立公園は最適でした。なぜなら、試料を採取することはありませんから、アクセスが良く、環境が整備され、宿泊施設が近くにあるためです。
  足摺岬から竜串にかけては、海岸が隆起した地形で、海岸段丘が発達しています。海岸線は海の波によって侵食(海食と呼ばれています)を受けて、断崖がつらなる険しい地形となっています。竜串や見残しは、海食台が海面上に顔を出し、不思議な景観を見ることができます。このような景観を見るべき価値があるのですが、弘法大師がこのような素晴らしいところを見残したということにちなんで、地名がつけられたそうです。ただ、史実がどうかはわかりませんが。
  このような隆起は、地球の営みであるプレートテクトニクスによっておこっています。四国の太平洋側の南海トラフでは、フィリピン海プレートが沈みこんでいます。このような場所は、海洋プレートの沈み込みによって南から北におされて圧力を受けます。そのため、陸側は大地が圧縮される所になり、場所によって上昇したり下降したりすることになりますが、全体としては上昇していきます。また、沈み込むプレートに引きずりこまれた岩石が、その引きずりの力を変形によって吸収しきれないとき、岩石は壊れながら跳ね返り(弾性跳ね返りと呼ばれます)が起こります。それが、海溝タイプの地震となります。
  これらの作用が四国の太平洋側では継続的に働いています。1946年に起こった南海地震では、足摺岬周辺は1mほど隆起しました。広域で平均すると1000年で2〜5mほどの隆起していると推定されます。竜串や見残し海岸は、2000から3000年前に隆起したと考えらています。
  四国の南西部は、足摺岬や沖の島で花崗岩などの火成岩がところどころにみられますが、それ以外の地域は、中生代から新生代の地層が広く分布しています。このような堆積岩の分布する地帯を、川の名称から四万十帯と呼んでいます。
  四万十帯は、北から白亜紀前期(1億2000万〜1億年前)、白亜紀後期(1億〜6500万年年前)、新生代始新世から漸新世前期(5000万〜4000万年前)、漸新世後期から中新世(3000万〜2000万年前)の地層が東西に帯状に分布しています。北ほど古く、南ほど新しい地層がでています。これはフィリピン海プレートの沈み込みによって、大陸棚にたまった地層が長い時間をかけて持ち上げられた結果です。四万十帯の地層は、大地の営みの歴史が、残されているところなのです。
  竜串は、四万十帯の中で一番南方に位置していますから、最も新しい漸新世後期から中新世に形成された地層となります。岩石としては、砂岩と泥岩が交互に繰り返している地層(互層と呼びます)からできています。このような互層が繰り返しているものは、陸地から大陸棚に向かって、何度も土石流(乱泥流あるいはタービタイトと呼ばれています)が流れ込んだ場所になります。
  大局的見ると地層が整然と並んでいますが、ひとつひとつの地層をよく見ると、それぞれに個性があります。
  地層の中に細いすじが多数見られることがあります。すじが斜交するものを斜交葉理(クロスラミナ)、平行なものを平行葉理(パラレルラミナ)と呼んでいます。葉理は、地層がたまるときの流れの様子を現しています。斜交葉理は乱れた流れを反映したもので、平行葉理は静かにたまったり、一定した流れでできます。
  地層内で土砂がたまるときに、堆積状態が乱れる(乱堆積と呼ばれる)と、さまざまな変わった形態の地層ができていきます。まだ固っていない泥の中に、地震で液状化現象で砂が移動して、地層の中で縞模様が褶曲したりします。このような渦巻き構造は、コンボリューションとよばれ、竜串で「しぼり幕」や「らんま岩」とよばれているものがその典型的な例となります。
  また、下の地層から水が噴出したときに通過された地層には、竹の節目のような構造ができます。これも竜串では「大竹小竹」と呼ばれているものです。
  地層の中に石灰質や珪質などの球状の沈殿物が形成されることがあります。このようなものは団塊(ノジュール)と呼ばれ、ある地層に多数形成されることがあります。竜串では、「蛙の千匹づれ」があります。
  海底の表面に波に形成された、規則正しく繰り返された波模様(漣痕:リップルマック)ができます。それを乱すことなく地層が覆うことよって地層の中に化石のように漣痕が残されることがあります。流れの方向と直交するようにリップルマークはできますが、緩やかな傾斜で非対称な波形は河口付近で、左右対称なものは浅海の海底で形成されたと考えられています。もちろんこのようなリップルマークも竜串でみることができます。
  海底や海底の堆積物の中に住んでいた生物が残した、足跡・ハイ跡・巣穴・排泄物などが化石になることがあります。このような化石を生痕化石と呼んでいます。竜串・見残し海岸では、コブ状突起がある管状の生痕化石(アナジャコ類の住まいの跡)、管状のもの(カニやアナジャコ類などの巣穴や食べ歩き痕)などを多数みることができます。
  これらの堆積物の特徴から、竜串の地層は、浅い(水深50m以下)の海底砂州でたまったと推定されています。
  今回の調査は、このような地質を調べるのが目的ではなく、その記録をどうすれば効率的に、もれなくできるかを考えるものでした。そのために新しい調査用道具の試行も兼ねていました。
  丸一日を詳細な調査に当てることができました。しかし、半日かけて長さで30m弱ほどの地層を連続的に詳細に記録したのですが、このペースでは到底終わりそうもないので、本当は竜串海岸の地層全体を対象にしたかったのですが、他に40m弱ほどの地層を簡易的に記録しました。合わせて66mの長さの地層を記録したことになります。それでも、竜串全体からすれば3分の1程度の地層しか記録したにすぎません。残念ですが、限られた時間でおこなった調査なのであきらめるしかありません。竜串の海岸線を串刺しにするような調査はやり切れませんでしたが、検討用のデータは十分取れたと思っています。その成果は、現在まとめている最中です。


Letter★ 想定外・恒例の台風

・想定外・
竜串での調査は、丸3日間を予定しました。
本当は詳細な調査を2日、あとは道具の検証として、
周辺の地層の調査を1日かけて調査をやる予定をしていました。
できるだけ長く調査測線をとるため、
初日は一番端の地層からはじめることにしました。
朝、海岸に行くと、潮が満ちているときは、
海面にはでていない地層がかなりでていました。
これ幸いと調査をはじめたのですが、
乾いていない地層は非常に滑りやすく、
注意をしていたのですが、すべってころびました。
その時、あちこちすりむき、メガネも壊してしまいました。
擦り傷の治療とメガネの修理のために、
1日を台無しにしてしまいました。
カメラなどの機材は大丈夫だったので、
調査を継続することができました。
翌日、まだ傷はいえていませんが、
調査をしないと帰れませんから、かんばって始めたのですが、
こんどは暑さにやられて効率が上がりませんでした。
今回の竜串の調査では、なかなか大変の思いをしました。

・恒例の台風・
愛媛県西予市に私は毎年のように通っています。
昨年9月にもその予定があったので、
日程を調整して、竜串の調査を加えました。
しかし、千歳から出発のときに、台風が北海道を通過して、
予約していた飛行機の便が欠航になりました。
やむなく1日遅れで出発することになりました。
毎年、9月前半に出かけることが多いので、
台風の影響を受けます。
昨年も例外ではなかったのです。


「この地図の作成に当たっては、
国土地理院長の承認を得て、同院発行の
2万5千分の1地形図を使用したものである。
(承認番号 平18総使、第294-12号)」

10mメッシュ標高データ及び解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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