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Essay ★ 20 アポイ岳:マントル散策
Letter★ マントル・マムシ


アポイ岳を西の海上から眺めた鳥瞰CG。10mメッシュ数値地図で作成。


上と同じ条件で、50mメッシュ数値地図を用いて作成。


アポイ岳を西の海上から眺めた鳥瞰CG。10mメッシュ数値地図とランドサット画像を重ねて作成。


傾斜量による地形解析図。幌満岩体付近での地質の張り出しがよくわかる。


上と同じ構図で地上開度による地形解析図。


傾斜量による地形解析図で、幌満岩体付近を示したもの。地質の違いが明瞭な線として示されている。


傾斜量による地形解析図で、幌満岩体付近をさらに拡大したもの。


アポイ岳の馬の背での360度フルパノラマ画像。


幌満川の川原。多様な岩石が見られる。


5合目からみた馬の背と露岩地帯。


ガスのなかのアポイ山頂。


馬の背から眺めた北方向の海岸線。


馬の背のカンラン岩の露頭。


馬の背のカンラン岩の露頭。


馬の背のカンラン岩の露頭。


馬の背のカンラン岩の露頭。 層状構造がよく見える。





花々。

 日高山脈の南西のはずれに、アポイ岳はあります。1000mに満たない山なのですが、植生や眺望からは高山です。そんなアポイ岳から眺めた景観を紹介しましょう。

★ Essay 20 アポイ岳:マントル散策 

 アポイ岳は、北海道の脊梁である日高山脈の南に位置して、脊梁から少し西に外れたところあります。2006年8月3日にアポイ岳に登りました。でも、頂上へは行きませんでした。一番眺めのいい馬の背という7合目まで登りました。
 アポイ岳へは、30年前に登ったきりで、今回が2回目となります。周辺の沢筋にも、何度も来ているのですが、アポイ岳へは登っていませんでした。今回は、このアポイ岳への道で少々変わった地質と、その地質を象徴する自然を見ることが目的でした。
 山頂は眺めが良くなく、馬の背から頂上へと続く尾根が景色がよく見えます。ですから馬の背付近で、じっくりと景色を見ることができればと思っていました。アポイ岳周辺は、国の特別天然記念物の指定を受けているので、登山道からはずれることはできません。登山道からの観察でした。
 当日、頂上には常にガスがかかった状態で、最後まで頂上をくっきりと見ることができませんでした。しかし、頂上以外は、ガスもかかることなく、景色も少々かすみはありましたが、遠くまで眺めることができました。午前中はうす曇の状態で、暑くなく登ることできました。昼過ぎの下山途中に太陽が出てきましたが、そのとたんに暑くなり、これも低山の証拠です。私は、涼しい状態で登れたのは幸運でした。
 さて、前置きはこれくらいにして、アポイ岳の地質を紹介しましょう。
 日高山脈は、南は太平洋に突き出した襟裳岬からはじまり、北の狩勝峠まで、幅50kmで、南北に150kmほどの長さで伸びています。アポイ岳周辺は日高山脈襟裳国定公園に入っています。北部には2052mの幌尻岳やピパイロ岳(1917m)、戸蔦別岳(1959m)など2000m級の山があり、その周囲にはカールなどの氷河地形があります。
 日高山脈の地形は、全体として概観すると、東側で急傾斜で、西に緩い傾斜となっています。
 日高山脈の東側は断層による急な崖になっています。十勝側からみると、日高山脈は、平野に立ち上がって連なる急峻な山並みとして見えます。カールなどの氷河地形は主稜線の東側にはあります。日高山脈の東では、急峻な地形の山地を削りながら流れた川は、平野にでると大きな扇状地を形成します。それが十勝平野で、集まった川が十勝川です。
 一方西側では、河川は広い平野を持つことなく、海に流れ込んでいます。そして、山並みを眺めると、何段かの階段状の断層による山並みを形成しながら海に達します。東側と比べると西側は比較的傾斜が緩やかになっています。
 さて日高山脈の稜線を北から南に追いかけていくと、南端部分で稜線が乱れます。様似の幌満川あたりで西に広がったような地形になります。これは、幌満川周辺の地質が変わっているためです。アポイ岳の南側には幌満川があり、アポイ岳も幌満川流域の地質と同じです。
 アポイ岳周辺はカンラン岩という岩石からできています。カンラン岩とは、地球ではありふれた岩石ですが、地表では稀な岩石です。地球深部のマントルという非常に広大な部分を、このカンラン岩が占めています。ですから地球規模でみると、カンラン岩はありふれた岩石となります。ところが、地表付近の地殻は、マントルとは違う岩石からできています。地殻をつくる岩石は、花崗岩や玄武岩、堆積岩、そしてそれらの変成岩など多様な岩石からできています。その中にはカンラン岩はほとんど含まれていません。ですから、稀な岩石となります。
 稀であってもカンラン岩が地表に出ているところは、アポイ岳周辺でなくてもあります。もちろん日本にもあります。しかし、地表に出ているカンラン岩のほとんどは、蛇紋岩という岩石に変わってしまっています。マントルにあったときのままのカンラン岩が、地表付近で見ることができるのは、非常に珍しいものとなります。アポイ岳周辺では、カンラン岩が蛇紋岩にほとんどなることなく、マントルのあったときのまま、広く分布しています。ですから、世界的にも非常に有名なカンラン岩の産地となっています。アポイ岳周辺のカンラン岩は、「幌満カンラン岩体」と呼ばれて、世界的に有名なものとなっています。
 カンラン岩は、カンラン石という鉱物が主要構成鉱物となっています。カンラン岩には、ほとんどカンラン石からできている岩石もあります。カンラン石はオリーブ色の淡い透明感のあるきれいな鉱物です。カンラン岩には、その他にも、単斜輝石や斜方輝石、スピネルなどの鉱物が、さまざまな割合で含まれています。マントルを構成する鉱物はいずれも密度が大きく、カンラン岩は重みを感じる岩石となります。
 カンラン石は、風化すると黄色から茶色っぽい色になります。カンラン石以外の鉱物は比較的風化に強く、山の崖でカンラン岩が風化を受けると、岩石の中で鉱物のつくる模様が、そのまま風化の模様として現れます。幌満のカンラン岩では、鉱物が縞状なった層構造をもっています。このような縞状構造は、マントルの岩石の構造が、そのまま残されていることになります。
 アポイ岳の登山道沿いでもカンラン岩の層構造をみることができます。マントルの構造が風化面としてよく観察することができます。これは、マントルの中の構造を見ていることになります。アポイ岳は、地表にいながらにして、マントルの中を散策しながら観察できる貴重な場所なのです。
 ではなぜ、このような地下深部の岩石が地表に上がってきたのでしょうか。
 現在の日高山脈の西側には、もともと広い海があったと考えれています。海の両側には陸地があり、東側には大量の堆積物を供給した陸地があり、オホーツク古陸と呼ばれています。一方、西側の古陸から供給された堆積物があることもわかっています。両古陸の間にあった海は、海洋地殻を持ったれっきとした海でした。
 ところがその海は、沈み込みによってすべて消えてしまいました。その沈み込み帯が、日高山脈と平行に南北に伸びる神居古潭帯とよばれる地域です。神居古潭帯は、白亜紀頃に形成されました。一方日高山脈は、神居古潭帯の沈み込みより新しい時代(新生代)にできたもので、海洋地殻が列島の地殻にくっついて、両方ともめくれ上がって形成されたと考えられます。
 中でも幌満カンラン岩体は、列島の地下にあったマントルがめくれ上がったものであると考えられています。この幌満周辺では、列島の地下の岩石が広く分布していることになります。アポイ岳周辺は、列島の地下深部の岩石がめくれ上がっているところを、地表にいながらにして見ることができるわけです。
 アポイ岳に登る前日、幌満川で川原の岩石を少し見ました。きれいな構造を持った岩石がたくさんありました。上流にいけば、水もきれいです。そしてなによりも、日高山脈をつくっている列島の深部の岩石を、眺めることができるのです。川原の石ころも、風化を受けますが、川で常に風化面を削り取られていますから、風化を受けていない新鮮な状態で岩石を見ることができます。
 アポイ岳ではマントルの中を歩き、幌満川では列島の地殻やマントルの標本を眺めることができました。これはもしかしたら、どんな博物館よりすごいものを見ているのではないでしょうか。そんな気がしました。


★ Letter to Reader マントル・マムシ

・マントル・
幌満川の下流沿いにはカンラン岩を
砕石として切り出しているところがあります。
数年前にいったときの砕石場所は、もう閉鎖され、緑化がされていました。
今では、さらに上流側が砕石がされていました。
その砕石所はカンラン岩を採掘しています。
実は、我が家の近くにある石垣がカンラン岩でできます。
50cmから1mほどもある大きな石がたくさん使われています。
これほどの風化をうけていないカンラン岩は幌満のものです。
ですから重い多数のカンラン岩を
幌満からわざわざ運んできたものでしょう。
流通等はすごいものです。
すぐ近くにマントルのかけらがあったのです。
その砕石所では、カンラン岩の加工もしており、
文鎮や花瓶などにして商品化しています。
私も文鎮をひとつ購入しました。
実は、マントルのかけらは今では、私の机にのっているのです。

・マムシ・
登山前日、ビジターセンターにいって登山道の様子を聞きました。
すると熊が出没しているという情報と、マムシの情報を聞きました。
ヒグマは北海道のどこにでもいるのですが、マムシには驚きました。
北海道では道南にしかいないと思っていたからです。
調べてみると北海道に広くいるようです。
アポイ岳周辺にもマムシがいたのです。
ビジターセンターの人が脱皮の皮を確認しているので確実です。
その場所を詳しく聞いて、注意していました。

 


の地図の作成に当っては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の2万5千分の1地形図を使用したものである。
(承認番号 平15総使、第140-623号)

10mメッシュ標高データ及び解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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