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Essay ★ 02 秋吉台:想像力がつくる世界
Letter★ 3次元化・10mメッシュの威力・Aihさんからのメール


南方の上空3kmから見下ろした秋吉台。

 上が10mメッシュの標高データによる鳥瞰図です。下が鳥瞰図に地図情報を重ねたものです。ドリーネのくぼ地が見えています。


石灰岩分布地帯の地形解析図の比較。

 上から地上開度、地下開度、傾斜量による比較したものです。石灰岩地帯は地形的に周辺とは明瞭な違いが見えます。ドリーネは地上開度で鮮明に見分けることができます。


ランドサットの衛星画像

 解像度は1ピクセルあたり15mあるはずなのですが、あまり鮮明ではありません。秋吉台中心部の5km四方を画像です。


秋吉台の地上開度図

  ランドサットと同じ5km四方の図です。ドリーネが非常に鮮明に見ることができます。


秋吉台の傾斜量図

  ランドサットと同じ5km四方の図です。地上開度図と比べると、ドリーネが出っ張って表現されているのでわかりにくいのですが、特異な地形であることは読み取れます。


メッシュサイズによる比較

 上は50mメッシュによる5km四方の鳥瞰図、中は10mメッシュによる5km四方の鳥瞰図、下は10mメッシュによる5km四方の鳥瞰図に地図情報を加えたものです。


秋芳洞の鍾乳石(黄金柱 )


秋芳洞の沈殿物(百枚皿)


秋吉台の石柱群


石柱に見られるカレン


石灰岩中に見られる化石(博物館資料)

 石灰岩が形づくる不思議な造詣は、地下や地上にさまざまな景観を広げてくれます。地上に刻まれた景観は、上空から見るとより一層際立ちます。石灰岩の大地をさまざまな位置から眺めていくと、大地のつくりの不思議さと人の想像力の豊かさが見えてきます。

★ Essay 02 秋吉台:想像力がつくる世界 

 私が山口県の秋芳洞を訪れたのは、お盆直後の暑い8月でした。しかし、洞窟内は、ほっとする涼しさがありました。洞内はいつも16℃前後の温度で一定しているために、夏に外から入ってくると涼しく感じ、冬に入ると暖かく感じます。これは、外気温が変化するのに、井戸水が夏冷たく、冬暖かく感じるのと同じ理由です。まあ最近では、都会で井戸水を味わうことはなかなか難しいでしょうが。もちろん我が家も水道水です。
 地下は地表の天気や気候に左右されることなく、一定の温度条件に保たれています。秋芳洞だけでなく、地下であれば、どこでもそのような条件になります。北海道でも1.5mくらいの深さになると、地表がどんなに寒くても、氷点下にならないところがあります。不凍深度と呼ばれています。ですから、北海道の水道管は、本州より深い1.5m以下のところに埋設されています。
 さて鍾乳洞です。元来、暗闇の中に入ることを、人は本能的に嫌います。かたや暗闇の奥に何があるのか見たいという好奇心もあります。恐怖心を抑えて覗いた地下世界に、えもいわれぬ不思議な光景が広がっていたら、その驚きは何倍にもなることでしょう。
 私は、日本だけでなく世界各地の鍾乳洞を見ていますが、どこに入っても好奇心が沸き起こります。もちろん恐怖心も起きますが。外気とは違った条件の環境を体感した上で味わう暗闇に浮かぶ奇妙は景観は、想像力を嫌が上にも沸きたてるのでしょう。
 鍾乳洞の奇妙な景観は、どこか似通ったところがありますが、よく見ると二つと同じものがありません。大きなお皿を何枚も並べたような池、鍾乳石の石柱や石筍につけられた奇妙な模様、狭い通路、巨大な地下空間、地下の巨大な池、地下をとうとうと流れる川、などなど地下にこの世のものとは思えない世界が広っているのです。
 鍾乳洞は、石灰岩が分布している地域が、長年、雨や地下水などによって溶かされてできたものです。時には、鍾乳石のように石灰分をたくさん含んだ水から石灰岩が新たに沈殿して形成されることもあります。このような溶解、沈殿の化学的作用によって不思議な地下世界である鍾乳洞が形成されていきます。もともと岩石があったところに空洞ができるのですから、沈殿より溶解のほうが強く働きます。
 この雨水に溶けるという石灰岩の性質があるために、石灰岩地帯は、特有の地形が形成されます。石灰岩が溶けてできた地形をカルスト地形と呼びます。日本では各地に石灰岩が分布します。そして石灰岩が広く分布しているところには、大なり小なりカルスト地形ができます。中でも、山口県の秋吉台は大規模なもので有名です。
 石灰岩の性質、規模、溶ける環境、地表に露出した時期などによって、さまざなカルスト地形ができます。多様なカルスト地形ですが、どこか似通った地形ができます。それは、カルスト地形が、ある限られた地形を形成する作用が組み合わさってできているかだと考えられいます。地表が溶かされてくぼ地が形成されること、地下が侵食されて洞窟(鍾乳洞)ができること、そして地表で溶け残った石灰岩の柱がたくさん林立することの3つの地形を形成する作用です。
 くぼ地は、その規模やでき方によって、ドリーネ、ウバーレ、ポリエなどと呼ばれています。秋吉台でもドリーネ、ウバーレ、ポリエなどが見ることができます。石柱は、ピナクルやラピエと呼ばれています。溶け残った石灰岩の表面にはさまざまな溝やくぼみなどができます。このような溶けた跡をカレンと呼んでいます。
 人間の目から見ると、石柱や鍾乳洞は、その数の多さ、大きさなどは視野に入ってくるので、不思議さが見ることによって理解できます。しかし、くぼ地は、そうはいきません。くぼ地は、大きければ大きいほど、その巨大さがわかりにくくなります。あるいは、たくさんのくぼ地があっても、地表ではその規模も数も、なかなか全貌が視界には入りません。
 そこで必要なのが、鳥のように上空から広く見るという視点です。人が空を飛んで地表を見ることは難しいですから、地図を使います。地図は印刷物ですから、2次元的な表現がなされています。そこに、等高線という同じ標高の地点を線で結んだ情報、つまり3次元的な情報を書き加えることによって、地表の凹凸があることを伝えることができます。少々訓練をすれば、地図から地表の凹凸を見ることができます。どんなに空を飛ぶ訓練をしても人は飛べませんが、地図を見る訓練は努力さえすれば大抵の人は3次元的な視点を持つことができます。後者のほうが断然、現実的でしょう。
 いくら地図を見る訓練をしても、地図は印刷物ですから3次元になることはありません。頭の中で3次元化をしているわけです。地図には、実際には3次元化を助けるために、さまざなま努力が払われています。標高に応じて色を変えたり、陰影をつけて立体感を出したりしています。これは、目の錯覚を利用して、頭の中で3次元化を助けているのです。つまり想像しやすくしているのです。
 標高データをデジタル化すれば、コンピュータの使用できるので、その標高データをコンピュータ内で3次元にして、人に3次元的にに見やすい形に表示することができます。このような仕組みを使えば、地形の特徴をよりよく表すことができます。まるで鳥になったように、地形を眺めることも可能です。あたかも空を飛んでいるように、見ることもできるのです。このようにして情報を加工することによって、人はいろいろな視点を持つことができるようになりました。
 ところが、地下の様子はなかなか立体的に知ることは難しいものです。なぜなら、岩石は透けて見えないからです。地表の地形は鳥になればよかったのですが、たとえモグラになっても、地下の鍾乳洞の様子を立体的に見ることはできません。
 そんなときは、やはり想像力を働かすしかありません。
 もちろん、地図の等高線に対応する地下用の等深線というものを使って地層などの分布を表現することはされています。そして、正確な数値データがあれば、コンピュータを使って、岩石がないものとして、3次元的に表すこともできます。
 しかし、鍾乳洞の数値化されたデータは、あまりないようです。鉱山では鉱脈を探るために、詳しい3次元データがありましたが、観光目的の鍾乳洞のようなところでは、一般の人が入手できるようなデータはあまりないようです。データがないとなかなか想像力の発揮のしようがありません。
 地表を歩いているときは、太陽の位置や遠くの景色、特徴的な山などを手がかりに、自分がどちらの方向に歩いているかが見当がつきます。しかし、鍾乳洞に入ったとたん、私は方向感覚が狂ってしまいます。鍾乳洞の中を、導線に沿って上り下しているうちに、入り口の方向や、進んでいる方向もわからなくなります。
 そんな位置感覚の混乱が、ますます不思議の世界へと導きます。不思議な世界を思い浮かばせるもの想像力なのですが。そんな鍾乳洞の中で、私はもしかしたら、想像力の世界をモグラのようにさまよい歩いているのか知れません。


★ Letter to Reader 3次元化・10mメッシュの威力・Aihさんからのメール 

・3次元化・
コンピュータを使って3次元化するためには、標高データが必要です。
標高データは、ある大きさのマス目をつくり、
マス目の中心ごとに、標高を読み取り作成していきます。
このマス目の大きさをメッシュと呼んでいます。
メッシュ標高データで、地表を覆い、地形を3次元化して、
その地域の凹凸をわかりやすく表現できます。
2次元の位置情報を持った点に
標高の情報を加えて3次元上の点にしているのです。
テレビやコンピュータのディスプレイが点の集合が面として見えるように、
立体的に配置された点の集合も遠めにみれば、3次元的な面として見えます。
マス目のサイズが小さいほうがより精細になります。
データの数はマス目の長さが半分になるごとに、2乗で増えていきます。
また、計測するのも大変になります。
日本全国を網羅している標高データの詳しいものとしては、
国土地理院の50mメッシュと北海道地図株式会社の10mメッシュの
標高データがあります。
いずれも既存の2万5000分の1の地形図から読み取ったものです。
都市部では5mメッシュが作成されつつあります。
これは、2万5000分の1の地形図から読み取るには精度が足りませんので、
新たに航空レーザスキャナ測量という方法で測定されているものです。
家屋や橋、樹木など地表を覆うものを取り除いて、
地表面データとして作成されています。
都市計画や河川災害や都市災害の防止対策などを目的とされています。
5mメッシュは全国的行われることはなく、都市部だけのようです。
ですから現在一番精度のいいのは、10mメッシュ標高データとなります。

・10mメッシュの威力・
10mメッシュでは、50mメッシュ1個分に25個の標高データがあります。
この差は、すばらしい解像度として現われます。
かつて私は、衛星画像と衛星が読み取った標高データを用いて
秋吉台の不思議な地形が見えないか試みましたが、
うまくいきませんでした。
表層の植生に邪魔をされて、数10mの地形の変化が見えないのです。
しかし、以前、北海道地図株式会社で、
地形解析のデータを見せていただいたとき、
見事にドリーネが表現されていることに驚きました。
ここまで鮮明に見えてくると、地形の10mメッシュの威力がよくわかりました。
ホームページにその違いを示しています。
違いを存分に味わってください。
もちろん、データは25倍大きくなりますが。

・Aihさんからのメール・
前回のエッセイに対して、Aihさんから、
「2000年の夏に有珠山で「研究者の責任と教育に対する配慮」について
北大の宇井先生から教えていただいたことをおぼえています。」
というメールをいただきました。
研究と教育に対して、私は次のような返事を書きました。
「研究と教育など相対する物事は、難しい問題をはらみます。
いくら専門家でも、越えてはいけない一線があります。
また、専門家だからこそ、命の危険も顧みず、嫌なこと、
危険なところへも、進まなければならないこともあります。
もはやそれは好奇心を越え、責務として行わなければなりません。
当事者でない専門家は、研究という名の好奇心で、
ある一線を越えることがあります。
それは大いに注意すべきことでありますが、
どこに線を引くかが難しいところであります。
何かがあったとき、誰がどう責任をとればいいのか。
本人は覚悟の上でも、周りは無視できない、黙ってられない時があります。
誰かが窮地に立てば、それを助けようとする専門家もいるわけです。
この問題には、なかなか答えが出ません。
私には、どこで、その一線を引いていいかわかりません。
でも、エッセイで書いたように、
私は専門家としてある一線を越えない範囲で、
自分の専門とする手法で記録すべきだと思っています。
もし、当事者としての専門家でなければ、
可能な限り当事者である彼らには配慮すべきでしょう。
しかし、当事者以外の専門家で、興味ある人は、
一線を越えずに、記録できることはすべきではないかと考えています。
その一線とは、まずは一般の人と同じ程度と考えていいでしょう。
科学的記録には、ある時期にしかとれないこともあります。
新しいアイディアは、より多くの人が加わることで生まれるかもしれません。
でも、これも、もしかすると、よくない考え方かもしれません。
難しい問題です。
研究と教育。
好奇心と自制心。
当事者と傍観者。
関係者と部外者。
研究者と被災者。
被災者とボランティア。
などなど、相対するとき、その一線は難しいものとなるでしょう。
特に緊急事態時は配慮すべきでしょう。」
このような返事を書きました。
私には、そんな一線に対して、いまだに答えが出せません

 


の地図の作成に当っては、
国土地理院長の承認を得て、
同院発行の2万5千分の1地形図を使用したものである。
(承認番号 平15総使、第140-623号)

10mメッシュ標高データ及び解析データは
北海道地図株式会社作成の
高分解能デジタル標高データを使用した。

地図、Landsatの画像合成には
杉本智彦氏によるKashmirを使用した。


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