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Letters 5

(メールマガジン:No. 43〜No. 51)


No. 043
【No.043:2001.06.21】屍より生まれる
ちょっと衣替え/常識とは
・ちょっと衣替え(大阪から国立へ越して来られたSさんへ)・
以前も一度、多くの改行を入れて、お送りしたことがあります。
しかし、賛否両論で、元の状態に戻しました。
現在も、少しでも多くの人が
読みやすくなるように努力を続けています。

現在のところ、たどり着いた結論は、
エッセイは今まで通りで、
Memo欄は、読みやすいように、
適切な句読読点で改行をしていこうと考えました。

見かけ上、文章量は増えたように見えますが、
デジタル上は、従来と変わりません。
この方式なら、今までの賛否両論を吸収した折衷案となるのでないでしょうか。

ちょっと2種類の内容が混在したように見えますけれど、
実際そうなりつつあります。
ですから、この形で、しばらくいってみようかと思っています。

ご意見をお持ちしています。

・常識とは(Uさんへ)・
星は恒星と呼ばれるけれども、
恒常的なものではありません。
人の生存期間に比べれば、
恒常といってもいいかも知れません。

でも、星も終わりがあるのです。

その、星の死に方にもいろいろあることがわかっています。
Uさんがいいました。
「テレビの説も真に受けない方がいいのかなと思ったりします。」
その通りだと思います。

定説といわれているもの、
常識といわれているものでも、
全く反対の説がでて、
皆に認められたら、
今までの常識も非常識に、
ある日を境に嘘が真になるかもしれません。

心のどこかで「もしかしたら」ということを、
常に考えておかなければいけないということです。
それは、科学の世界でも同じです。


No. 044
【No.044:2001.06.28】石とホタルとメールと
6月はホタル/メールを下さった方、これから下さる方へ/ちょっと変更
・6月はホタル・
6月は、ホタルの月でした。
9、10、15、16、17、20、21日と
7日間もホタルを見に行きました。

最初は、街が観光のために、
飼育したホタルを放しているところに見に行きました。
まるで、動物園で動物を見るようで、興ざめしました。
やはり、ホタルは、人気のない、暗いところで、見るものです。
子供には、これがホタルだと思わしてはいけないと考えました。

だから、後日、長男と車で探し回って、
別の川で、天然のホタルがたくさんいるところを見つました。
そこに、5日間も行きました。
そして、先日(6月21日)が、その最後でした。

ホタルは非常に感動させてくれました。
そして、ホタルはきれいでした。
そして、ホタルの乱舞も見ることができました。
そして、ホタルに触れることできました。
そして、ホタルが儚いものだということも知りました。
それも、自然のままのホタルを。

明るく見えた光から想像するより、手にしたホタルは、小さいでした。
手にしたホタルは、熱くはなかったけれど、家族には暖かでした。
昔、見たホタルとも、手にしたホタルは違ってました。

・メールを下さった方、これから下さる方へ(Tsさんへ)・
メールを頂き、ありがとうございます。
いまのところ、すべての人に返事を書いています。
でも、ここで、再度、お礼を述べます。
ありがとうございました。
これからも、メールを下さい。
楽しみに待っています。

体が疲れても、心が疲れなければいいのです。
日常には、余りにも、心を使うことが多すぎます。

しかし、インターネットを通じて、軽くても、いろいろな人との接触ができて、
面白くなってきました。

今年子供を初めて産んだTsさんは、言います。
「家の小さな庭は今年も花が咲き、
その短い一生を一所懸命いきています。
そこに小さな答えがあるような気がします。」

もしかすると、私が探していたものも、
ここにはあるのかもしれません。
それが、見つからなくてもいいのです。
でも、ここには、心を疲れさせない、何かがありそうなきがします。
それは、非常にささやかな手ごたえで、
もしかすると、手からこぼれ落ちるかもしれません。

今しか、拾えないのかもしれません。
今しか、流れてないかもしれません。
そんなはかない期待も、ここにはあります。

・ちょっと変更・
今まで、メールを頂いた方の姓を、
アルファベット1文字で省略していました。
でも、例えばO氏は、Oo氏とOb氏の2人いることに、今ごろ気付きました。
そこで、今回から姓の頭から2文字取ることにします。
うっかりしていました。


No. 045
【No.045:2001.07.05】地球、石、結晶、すべて自然の産物
ホタルの余韻/あまりにも隠喩/お知らせ
・ホタルの余韻(Umさん、Tsさん、Moさん、Koさんへ)・
「今回の蛍のおはなし、心に染みました。多分好評だったのではないでしょうか?」というUmさん。
その通り、前回のmemoのホタルと子供の話しが好評でした。
本文より好評とは。
それもよしとしましょう。
その様子の一部をお送りします。

「私も小さいころはもっと地面の近くて、
誰かに教えてもらわなくてもすぐ気が付いていたんだけど。
いつの間にか大人になっちゃって、
また子供と一緒に私も子供に帰ってみようかな。」というTsさん。
ぜひ、地面の近くに目をやってください。
きっとそこには、大地が間近に見えるはずです。
何か気付いたら教えてください。

「こんな小さな町も、開発が進めばねむの木の子供たちの森も、
葦きり、カッコウ、キジ、も近所では見かけなくなりました。
どんどん不自然が、自然になっていきます」というMoさん。
自然や風物は、誰もが良いと思うものがたくさんあります。
でも、それには、黙っていても存在しつづけるもの、
黙っていると消えるものがあります。
守るべきもの、開発されて消え行くもの。
そこに人間の善意とエゴが見え隠れするところです。

「子供は絶対に思い通りには育たないといいます」というKoさん。
子供は、なかなか一筋縄でいくほどたやすくなく、手ごわいです。
私は、子供に、生身の自分をさらけ出し、ぶつかることにしています。
毎日、感情をぶつけ合うことです。
いままで、忘れていた喜怒哀楽を出すことを、
子供は思い出させてくれます。


・あまりにも隠喩・
バックミンスター・フラー著
「宇宙船地球号 操作マニュアル」(ISBN4-480-08586-6 C0498)
を読みました。

あまりにも隠喩。
あまりにも個性的。
つまり、私には一読しただけでは、理解不能でした。
これがこの本の内容に関する感想です。

この本は、非常に有名な書物です。
その本の新訳での文庫版です。
でも、私は、後ろについていたフラーの年譜とその注釈に、
より興味を覚えました。
つまり、この本の内容ではなく、
フラーの生き方が興味深く思えます。


・お知らせ・
私は、7月6日から18日まで出張します。
ですが、メールマガジンは、予約機能がありますので、発行可能です。
お楽しみください。

出張は、カナダのアルバータ州に行きます。
地質の調査です。
目的は2つです。

目的の一つは、恐竜化石の産地にある
ロイヤル・チレル博物館、州立恐竜公園を訪れます。
化石を産地を見ることは当然として、
博物館の展示や教育にも興味があります。

博物館や州立公園で、
どのような展示をしているのか、
市民に対するサービスのしかた、
障害者への対応など、
欧米の先進的な現状も見てきたいと考えています。

もう一つの目的は、カナディアン・ロッキーのヨーホー国立公園内にある
バージェス頁岩の産地に行きます。
ここは、バージェス動物化石群という
カンブリア紀の初期(5億年前)の化石が産出します。
バージェス動物化石群は、
1909年にWalcottが見つけた
無脊椎動物のほとんどのグループの祖先が
発見されているという
地質学者の間では非常に有名です。
前から見に行きたいと思っていたとこころでした。
詳しくは、帰ってきてから、
エッセイで報告しますので、お楽しみに。


No. 046
【No.046:2001.07.12】亡き者を蘇らせられるのに、目の前の鱗がなかなか取れない
目から鱗が取れた
漢字文献情報処理研究会編
「電脳国文学 インターネットで広がる古典の世界」(ISBN4-87220-041-1)
を読みました。
読んだというより、斜め読みです。

現在の第一水準と第二水準の漢字数の不足は、
林望氏のエッセイで読んだことがありました。
林氏は、その不足分を自分の工夫で乗り越えていましたが、
今や、「今昔文字鏡」を使えば、
約9万字の漢字をパソコンで、入力、印刷できるのです。

著作権に抵触しない文献(大部分の古典はそう)がデジタル化されて、
インターネットで公開されているという実態があります。
あるべき姿なのですが、
私が全く知らなかった世界での動きでした。感動しました。

早速、知り合いの山頭火を愛する国文の大学4年生のSさんに紹介しました。
彼女はいまどきの女学生ですから、
インターネットやE-mailは当たり前の人ですから、
それなりの使い方をしていくでしょう。
でも、この本の存在は知らなかったようです。

国文学において、私は単なる読者の一人に過ぎませんが、
限りなくアナログに見える世界でも、やはり電子化の波は進んでいます。
限りなくアナログという見方は、私の偏見でした。
国文学だから、という先入観によってみてはいけなかったのです。
そういえば、経済学では統計学やカオスを研究するし、
農学部林学科で資本論を勉強している友人がいました。

私は、前から、
学問もさまざまな分野がクロスオーバーしたり、
バックグランドの違う人が別の分野に大いに参入する必要性を、
よくいっていたくせに、盲点でした。
この本は、そんなことを気付かせてくれる
まさに「目から鱗が取れた」一冊でした。


No. 047
【No.047:2001.07.19】科学は亡くならない
帰国しました/アメリカの知識人
・帰国しました・
7月18日午後9時過ぎ帰宅しました。
飛行機が遅れたり、列車が事故だったりして、
予定より2時間も遅れた帰宅でした。
じかし、無事帰ってきました。
詳しい話は、次回以降にします。

・アメリカの知識人・
J. ホーガン著「科学の終焉(おわり)」(ISBN4-19-860769-9)
を遅ればせながら、読みました。
著者は、
一人の人間が、把握できるような科学的な発見はもはやないであろう
ということを、
存命の名のある科学者、哲学者などからインタビューして書いたものです。
内容には、承服できるところと、疑問を感じるところがあります。
私自身は、科学は終わってないと思っています。
そして、一人の人間が理解できる範囲で、
それももっと面白いことが一杯これからも見つかると思っています。
根拠はありません。
一種の願望です。

この本のもう一つの面白いところは、
1990年代前半に存命であった、一流の研究者にあってインタビューしているために、
本でしか知らない著名人たちの、生きている姿を、
ホーガンの言葉を通じてですが、見ることができるところです。
そして、そのような迫力のある、あるいは癖のある著名人たちを相手に、
ホーガンは怯むことなく(少し怯んだり、びびったりしていることもある)、
自分の聞きたいことや反論をするところに、
アメリカの知識人の強さと、
個人主義に根ざしていると思われる人間として対等である
という姿勢が感じられる本でした。

最後に、
アメリカではこのようなハードな内容の本が売れるということに感心します。
この本は、日本でも、かなり売れたようで、
文庫本化と続編の翻訳も出されています。
しかし、本当に読んだ人、本当に読み終えた人、本当に面白いと思った人は、
どれくらいいるのでしょうか。
このようなハードな書籍を
すんなり受け入れているアメリカの知的階級の多さに圧倒されます。

日本の出版業界では、
例えば、数字の多用した本は売れないから数字は使わないようにとか、
科学、中でも地球科学関連の書物は売れ行きが良くないから、
敬遠するとかいう風潮があります。
でも、アメリカでは、このようなハードな内容の本が数多く出されていることを
うらやましく思います。
例えば有名な古生物学者のグールドの書く、エッセイや専門書は、
決して読者や市民に迎合、妥協していません。
地質学の専門家でもある私でも難しいと思われるないようを書いて、
どうどうと出版し、受け入れるアメリカ人にその底力を感じます。
アメリカの科学あるいは知識人には、まだまだ終わりはないと思いました。
これは私の思い過ごしなのでしょうか。


No. 048
【No.048:2001.07.26】荒涼さは今だけの姿。かつては水と緑あふれるところ
近況/カナダ国歌は「おおカナダ」
・近況(Moさん、Obさん)・
無事帰国したのは、前号でお話ししたのですが、
日本は暑いですね。
時差ぼけと暑さでまいっています。
カナダでいろいろ、考えました。
一番考えてのは、
「こころ」についてです。
科学とこころ。
相容れないようですが、
その折り合いをどうつけるかが、
私の今の一番のテーマとなっています。
それともう一つ。
自然と孤独についてです。
何のことかわからないかもしれませんが、
カナダ旅行記のメモで
少しずつ明らかにしていきます。

・カナダ国歌は「おおカナダ」(アルバータ州生まれのKoさんへ)・
カナダは、英語とフランス語の2つの母国語としてます。
カナダは、10個の州(provinceと呼びます)と
2つの準州(territoryと呼びます)から
なっています。
カナダは、今回で3度目の訪問です。
そして、アルバータ州は約20年ぶりになります。
アルバータ州の州都はエドモントンですが、
南にあるカルガリーは、冬季オリンピックがあったので有名です。
今回のカナダ旅は、
カルガリーから入って、
カルガリーから出ました。
バンクーバー経由ですが。


No. 049
【No.049:2001.08.02】世界の最高峰。それと比べてはいけません。ただ目標するだけ
日本の地質学/近況
・日本の地質学(Duさんへ)・
私は、前の4_9で、
「日本市民の地質に対する意識の低さに幻滅」
するといったことに対して、
Duさんから、
それは「言い過ぎではないでしょうか」という指摘を受けました。

確かにいい過ぎの感があります。
でも、博物館の地質学に携わる人間として、
日本と欧米の自然史とくに、
地質学に対する意識の違いには
いつも忸怩たるもの感じます。

私は、Duさんにこんな返事を書きました。

「私は、常々、日本人の地学に対する無関心さ、意識の低さを感じております。
そして、機会があるたびに警告を発し、
それを回避するために、
地質学の専門家養成を目指し手、10年計画で活動しております。

日本人だけではないかもしれませんが、
意識の低さが、
博物館の展示や大人の読書傾向、
自然への偏りを引き起こし、
ひいては自然への無関心へ繋がっているのだと思います。
これは、学校教育の受験偏重に由来していることは明らかです。
20年前は地学は必須だったのですが、
やがて選択になり、受験科目から消えた地学は
ほとんど学ばなくなったのです。
そして、中学校程度の知識のまま、
大人になっていくのです。
耳から入る情報は、
恐竜や宇宙の大発見ばかりで、
地道なことを知るには、
知識もないし、興味もないという
負のフィードバックばかりが発生しているのです。
まさに、悪循環です。

日本に素晴らしい地質があります。
そして化石もたくさん出ます。
でも恐竜ばかりが取りざたされますが、
多様な化石があって初めて、
過去の生物や環境を復元することができるのです。

それにロイヤル・ティレル博物館の持っている化石の数は、
1館としては多いですが、
日本で、恐竜とも縁もゆかりもない博物館が持っている恐竜化石の数は、
ロイヤル・ティレル博物館の数を上回るのではないでしょうか。
私がいる博物館も数を増やしている一つです。」

こんな内容の手紙でした。
今回のエッセイでも、似たような内容の発言をしました。
皆様はどうお考えでしょうか。
皆様の意見をお待ちしています。


・近況・
先日、愛媛県東宇和郡城川町に
2泊3日で行ってきました。

城川町は、多分、ご存知でない方が多いと思いますが、
城川町は、地質学の世界では、ちょっと有名な地域です。
黒瀬川、三滝、寺野などの地名は、
地質学の世界では、専門語にも使われている有名なものです。
それに、日本では非常に古いシルル紀(4億年前)の
サンゴの化石がでることでも有名です。

城川町に、私は、妙な縁から10年以上通っています。
別に、この地を調査をしている訳ではないのです。
近年は、地学教育の実践として、通っています。

秋には、全く個人的に、家族旅行をしてこようかと思っています。
城川町には、今はなき、
日本の田舎の面持ちと、
自然、人情、風土があります。
そして、過疎や公共事業依存の体質など
問題もあります。
それもひっくるめて、私は、
城川町に興味を持っています。


No. 050
【No.050:2001.08.16】地質学とマイホームの関係やいかに
カナダの色/日本の地質学について
・カナダの色(Koさんはエドモントン育ち、バンクーバー生まれでした)・
Koさんのアルバータは
「アルバータは、私にとっては
小麦畑の金色が一面にひろがっている印象があるので、
緑というよりも茶色のイメージですが、
小麦も緑の時期があるので、
夏は一面緑の平原だったはずですね。」
だったそうです。

私が行った7月は、
畑には、菜の花にみえた花が
一面に咲いていました。
ですから、アルバータの植物の色は、
黄色でした。
それと大地の白や茶色の地層の色でした。

ところが、ロッキー山脈にはいると、
森林の緑と地層の灰色から黒、川と水色、
そして氷河の白でした。
さらに驚いたのは、
湖のエメラルドグリーンの
不思議な色です。
氷河によって運ばれた、
粘土鉱物かなにかによる
出ている色だと思いますが、
吸い込まれるような魅力があります。

カナダの写真の一部を
http://www.ykoide.com/home/oversea/canada3/canada3.html
にて公開します。
よろしかったら、覗いてみて下さい。


・日本の地質学について・
前回と前々回のエッセイで書いた
日本の地質学に対する、
私が述べた、現状分析というか、
不満に関して
いくつかの意見がきました。
それに対する私の意見です。

「地質学は日本人の間ではマイナー」
という意見に対し、
私は、一言もありません。
その通りです。

「地味で、つまらない」
という意見に対し、
私は、
「地味とつまないという先入観は、嫌いや苦手という、
自分自身で勝手につくった
意味もない心理的障壁です。
このような先入観は
自分自身の世界を狭める、非常に不幸なことです。
地質学は、決して、地味でつまないもの
ではないと思います。」
と応えました。

「生活にすぐに役立つものでもないし・・」
という意見に対し、
私は、
「すべての建築物は地質学的調査が必要です。
すべての鉱物、石炭、石油、天然ガス、ウランなど、
現在のすべての工業用素材は、
地質学を経由して供給されています。
また、地震、火山、地すべり、洪水などの天災への対応の多くは、
地質学の応用が必要な分野です。
ですから、地質学は、
生活にすぐに役立つものだと思います。」
と応えました。

「地質学に関心が薄いとお嘆きのようですが、
それにはそれだけの理由があるのではないでしょうか?」
という意見に対し、
私は、
「地学のような教科を教える教師と生徒の関係で、
相手の好き嫌いが、
その教科の好き嫌いに直に繋がることがあります。
それは、その生徒にとって非常に不幸なことだと思います。
その教科を構成している学問自体、
例えば地質学は、面白いものであるはずです。
なのに、その面白さを知らずに一生を終えるというのは、
残念なことです。
もしかすると、その生徒には
その分野での興味や才能があったかもしれないのです。
人類にとっても、大きな損失になっているかもしれません。
そこまでいかなくても、
地質学という学問があって、
そこでは、こんなことが研究されていて、
そしてこんな面白さがあるということを知っていれば、
大人になっても地質学に接した時、
再度興味が湧くかもしれません。
でも、その教科を嫌いになると、
どんなに面白いことがあっても、
知らないまま通り過ぎるかもしれません。」
と応えました。

「専門にやっている方にとっては、
皆さん、ご自分の分野の現状に
不満を持っているのではないでしょうか?」
という意見に対し、
私は、
「それはあるかもしれません。
でも、不幸なめぐり合わせで
自分に合わない教師に出会ったとすると、
できるだけ、その学問との関係を
改善する必要があります。
そして、悪い、悪いと嘆くより、
面白いよとか、
こんなことがわかるんだよとかいうことを、
できるだけ示していくべきなのでしょう。
もともと、この「地球のささやき」も、
そのつもりで始めたはずです。
ついつい初心を忘れてしまいました。
今後、できる限り、愚痴らずに
冷静に、プラス志向でいこうと思います。」
と応えました。

ご意見、どうもありがとうございました。


No. 051
【No.051:2001.08.23】怪物たちが、祖先です
バージェスといえば/氷河、ふたたび/化石の名前/いい展示とは
・バージェスといえば・
バージェス化石に関しては、
地質学的非常に貴重で、多くの研究がなされているので、
関連する書籍もたくさん出ています。

しかし、バージェス化石といえば、
私が、真っ先に思い浮かべるのは、
S.J.グールド著の「ワンダフル・ライフ」
(ハードカバー版ISBN4-15-203556-0、文庫版ISBN4-15-050236-6 )
です。

私は、この本によって、
バージェスの魅力に取り付かれました。
この本では、
バージェス頁岩へのウォルコットの取り組みや
化石の研究の方法の歴史的変遷など、
科学の裏舞台も書かれています。
そこに、すごく魅力を感じていました。

また、
S.C.モーリス著の「カンブリア紀の怪物たち」(ISBN4-06-149343-4)
があります。
その後ほぼ同じ内容を修正、加筆した
S. C. Morris著
「The Crucible of Creation The burgess Shale and the Rise of Animals」
(ISBN:0-19-286202-2)
があります。
バージェス化石やカンブリア紀初期に関する、
最新の情報が書かれています。
このメールマガジンのタイトルも
この本から、とりました。

モーリスとグールドの本は、
少し前に、あい前後して読んだ記憶があります。
グールドが書いたのは1990年で、
モーリスは1997年です。
ですから、当然モーリスの方が
最新情報が盛り込まれ
学問の進歩も加えられています。
モーリスは、グールドの本を
バージェス化石への普及の功績は称えていますが、
「いくらか話にまとまりが無く冗長である。
この本の結論の多くは、
まだ検討の余地がある。」
と批判的です。
でも、なぜが私には、
グールドの本がすごく印象に残っています。

その他に、バージェス化石について書かれて本で、
今回の旅で手に入れたものに、
M. Coppolad & W. Powell著
「A Geoscience Guide to the Burgess Shale」(ISBN none)
D. E. G. Briggs, D. H. Erwin & F. J. Collier著
「The Fossiles of the Burgess Shale」(ISBN1-56098-659-X)
などがあります。


・氷河、ふたたび(Obさん、Naさんへ)・
前回の氷河について
質問がありました。
視覚障害の方なので、
地形の説明を、可能な限り文章でしました。

「U字谷もカールも山でできる氷河地形です。
カールは山の上のほうでできる地形で、
U字谷は山の谷でできます。
U字谷は、氷河が谷間を流れ、
谷の岩石を削った結果できる、
アルファベットのUのような断面をもった地形です。
水が削る地形はV字型をしています。
一方、カールというのは山の頂上付近にできる地形です。
高いところにたまった氷河が
山をスプーンで削り取ったような扇型の丸みをもった地形です。
河川が削ってできた山の地形は
V字型にふかく切り込まれたものとなります。
ですから、「見れば」よく区別ができます。」
ここでは、わざと「見れば」を使っています。

再度、このメールに関して質問がありました。
「U字谷は氷河の流れによる地形、
カールは氷河の流れというより重さによってできた窪み
と理解していいでしょうか。」
私は、
「U字谷は氷河の流れによる地形ですが、
カールの成因については、
地学事典によると、
氷の重さの働きに加えて、
氷河の底での凍結と凍結による破壊の作用もあるようです。
まだ、成因は完全には明らかになっていないようです。」
と答えました。

氷河地形に関しては、
「三年前NYの自然史博物館へ行きました。
博物館のあるセントラル・パークは
氷河地形そのもので感激しました。」
というメールをもらっています。


・化石の名前(Koさんへ)・
今回のメールマガジンのテーマを先取りをして、
バージェス化石について質問がありました。
「ヨホイアという古生物がいたと思いますが、
ヨーホー国立公園と関係があるのでしょうか。」

私は、
「ヨハイア(Yohaia tenui Walcott)というバージェスの化石は、
Walcottが1912年に発見し、
1974年にWhitingtonが記載したものです。
その名前の由来は論文には残りませんが、
明らかにYohoに由来するものと思います。
ヨハイアは7から23ミリメートル程度の
小さなエビのような生き物です。
産出頻度はそれほど多くないようです。

ヨハイアよりやや小ぶりのカブトガニみないた
バージェシア(Burgessia bella Walcott)と呼ばれる化石もあります。
これは、バージェスという地名から由来したはずです。
バージェシアはヨハイアよりたくさん出るそうです。」
と答えました。

・いい展示とは(Inさんへ)・
博物館の展示の仕方に対して
次のような意見を頂きました。
「岩石、鉱物の成因、組成とか、或いは化石の年代、分類とか、
の疑問に応えてくれる解説パネルなどを
極力排した、ややテーマパーク的な新しい展示方法には
若干不満もあります。
その点で、分類、羅列や説明の多い
従来型の博物館展示が
懐かしいような気もします。」

私は、博物館の学芸員として、
「最近の博物館の展示の流れは、
やはりテーマ優先になっていることが多いようです。
そして、解説は、簡単でわかりやすいこと旨としています。
誰にわかりやすくかというと、
誰にでもといいたところですが、
主として小学校高学年が理解できるレベルです。
ただし、それは日本語のレベルであって、
内容は小学校カリキュラムや授業などを考慮しているわけでありません。
伝えたい内容は、高度のものが多くなっています。
ただ、「簡単に」と「詳しく」は両立しません。
ですから、どうしても、「簡単にわかりやすく」を優先しています。
それを補うために、
人を配置したり、
解説書を作成してたりしていかなければならないのですが、
不十分です。」
さらに
「今や博物館も、テーマパークです。
より詳しく知りたいのならば、
展示でなく、博物館の有する別の機能を用いる方法となります。
例えば、観察会、講座、シンポジュウム、公開講座の学習プログラムに参加するか、
学芸員や学習指導員の人的資材を使うか、
ライブラリーの資料利用などです。
そのためには、リピーターとならなければなりません。
近所の住人でないと困難です。
そのことを解消するために、
インターネットの有効利用が考えられます。
現在、私的に初めています。
興味がおありでしたら、
私のホームページを覗いてみて下さい。」
と応えました。


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