地球と人と
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Essay■ 6_184 地球外生命 2:メディオクリティの仮定
Letter■ 潮汐ロック・人間の考え方の癖
Words ■ 大きいものの影響は強い、という当たり前のことが起こっている


(2021.05.27)
 遠く存在で、その実態を知りたい時、身近なものを手本にして、類推ていく方法があります。その類推は、正しさが保証されるものではありません。しかし、現状では知り得ないものを探る便利な方法です。


Essay■ 6_184 地球外生命 2:メディオクリティの仮定

 ありふれたもの、特別なものがなにもないものの原理や規則性、特徴を、不明のものに適用していく方法を、「メディオクリティの仮定」といいます。前回紹介した生命誕生や生命進化の条件として、ハビタブルゾーンやゴルディロックスゾーンは、地球や太陽系を当たり前として、メディオクリティの仮定を適用していたことになります。
 メディオクリティの仮定を適用することには、科学的根拠はありません。なにも手がかりがない時、デタラメに探したり、総当たりで検討するよりは、見つけやすくなります。そんな研究があります。
 現在知られている、太陽系に最も近い恒星のプロキシマ・ケンタウリがあります。太陽系から約4.2光年の距離にあります。私たちの太陽系は主系列星と呼ばれるごくありふれた恒星でが、このプロキシマ・ケンタウリは、太陽の10%ほどの質量しかありません。太陽の表面温度は約6000度ほどですが、プロキシマ・ケンタウリは2800度しかありません。赤色矮星と呼ばれています。
 この恒星には、惑星プロキシマb(プロキシマ・ケンタウリbとも呼ばれることもあります)が見つかっています。地球よりやや大きいのですが、恒星のかなり近くを一周11日で公転しています。恒星の近くを公転している天体は、恒星との潮汐力によって、公転と自転が一致していく、「潮汐ロック」という現象が起こっていると考えられます。その結果、プロキシマbは、恒星に常に同じ面を向けていると考えられます。私たちの太陽や地球とは非常に異なった条件の恒星系になります。
 さらに、プロキシマ・ケンタウリは、強いフレアが度々発生していることがわかっています。恒星の近くでは、強力な紫外線が照射されることになりそうです。そんな恒星や惑星に、メディオクリティの仮定など適用できるのでしょうか。
 どんな恒星系であっても、その条件が明らかになれば、ハビタブルゾーンが設定できます。そこに惑星があれば、初期的な条件を満たすことになります。プロキシマbは、そのハビタブルゾーンにあります。ただし、通常のハビタブルゾーンではありません。潮汐ロックされた惑星では、常に夕方の地域、明け方の地域ができます。潮汐ロックのおかげで、安定したゴルディロックスゾーンが出現するかもしれません。
 それを確かめるために、地球の気候モデルをメディオクリティの仮定をつかって、プロキシマbに適応するという検討がされています。その内容は、次回にしましょう。


Letter■ 潮汐ロック・人間の考え方の癖 

・潮汐ロック・
2つの天体がお互いの周りを回っている時、
天体の最も近い面と最も遠い面が、
引力で引っ張られて、膨らみ変形します。
地球では、月によって潮の満ち引きが起こり、
固体の地殻も変形しています。
これのようは変形を起こす力を、潮汐力といいます。
この潮汐力が働き続けていると、
質量の小さい天体の自転と公転が
一致するという現象がおこります。
月が常に地球に同じ面を向けているのも
潮汐ロックによるものです。
多くの天体の関係で潮汐ロックは起こっています。

・人間の考え方の癖・
このエッセイでは、メディオクリティの仮定と呼びましたが、
似た考え方はいろいろなところにあります。
統計学では、ベイズ統計があります。
科学では、斉一説もこの考え方を利用しています。
さらに進めれば、科学では、すべて仮説を立てて、
それを検証ていくという「仮説演繹法」を用いています。
仮説演繹法もメディオクリティの仮説も
共通した考え方を用いています。
多くの科学では、似たような考え方を用いています。
これは、人間の考え方の癖かもしれませんね。


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