地球と人と
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Essay■ 6_167 2019年ノーベル物理学賞 2:宇宙の理論化
Letter■ ガモフ全集・火の玉宇宙
Words ■ 無冠の科学者たち


(2019.11.14)
 今年のノーベル賞物理学賞についてのシリーズです。まず、ピーブルズ博士の業績に関する話題から紹介していきます。専門ではないので、うまく説明できていない点があるかもしれません。ご容赦いただければと思います。


Essay■ 6_167 2019年ノーベル物理学賞 2:宇宙の理論化

 今年のノーベル賞物理学賞者のピーブルズ博士の業績をいくつか紹介していきましょう。
 まずは、ビックバンについてです。ジョージ・ガモフの科学普及書を読んでいたとき、ビックバンの記憶が強く残りました。ガモフらが提唱したビックバン(ガモフは火の玉宇宙と呼んだ)で宇宙が始まった経緯が、普及書では詳しく解説されていました。その後、ビックバンの状態から温度も予測し、元素が合成されたことも示されていました。ガモフは、それが現時点ではどのような温度(5K)になっているかも予測していました。
 ビックバンの時の温度が、その後の宇宙の膨張で波長がのびていきます。ピーブルズ博士らは、現在ではマイクロ波の波長にまでのびていることを理論的に示しました。
 マイクロ波を測定する技術は、当時はまだありませんでした。ところが、別の分野、別の目的でマイクロ波が観測されました。人工衛星の電波を補足するためのアンテナが、その波長をノイズとして捉えました。そのノイズが、宇宙マイクロ波背景放射に相当するものであることが、認識され報告されました。その観測をした研究者らは、ノーベル賞を受賞しています。予測と観測が一致したことで、ビックバンの有力な証拠となりました。
 電波技術が進むと、地上付近ではマイクロ波の雑音が多くなり、精度を上げることが困難になります。そこで、人工衛星(COBEと呼ばれる)を打ち上げ、地球外で観測することで精度を上げていきました。結果、マイクロ波から見た温度は、均質ではなく、10万分の1程度の揺らき(温度非等方性)があることがわかりました。現在では、宇宙マイクロ波背景放射の精度は、さらに上がっています。ピーブルズ博士は、そのようなゆらぎを定量的に計算する方法論も示しています。
 他にも、宇宙の形成から3分後に起こったとされる元素の合成(ヘリウムの存在量)、38万年後(電子の捕獲)やその後(密度のゆらぎ)、現状の銀河の分布、ダークマターなどを統計的に説明する方法など、現在の宇宙論の基礎になるような重要な定式化を数々おこなってきました。現在の宇宙論のいたるところにピーブルズ博士は貢献しているともいえます。
 今回の受賞理由として、「高度に観念的な分野を精密な科学へと変化させた」としています。確かに、宇宙のはじまりや温度のゆらぎ、銀河の分布など、概念としてはわかりますが、現実とどう結びつけるかはなかなか難しいものがあります。そこに仮説(理論)を投入して、観測と結びつけということになります。観測の精度が上がれば、仮説の信頼度も上がります。逆に仮説から観測の方向性も決めることができます。
 ピーブルズ博士の業績はいずれも優れたものなので、それらが観測で実証されたとき、あるいは観測が理論で説明できた時などに、受賞すると一番わかりやすかったはずです。そんなタイミングがなかったのでしょう。今回の受賞は、それら数多くの業績に対して与えられました。彼の業績はいずれも重要なものなので、素直に受賞を祝いたいと思います。


Letter■ ガモフ全集・火の玉宇宙 

・ガモフ全集・
12冊+別巻3冊からなる「ガモフ全集」があります。
いくつかの巻では、トムキンス氏が主人公で
いろいろな不思議がことを体験していきます。
そのような興味を惹く展開で、
先端の科学を紹介していきます。
元素合成や相対性理論、宇宙のはじまりなど、
宇宙に関することが中心でした。
他にも、生命や地球に関する専門でない巻もありました。
高校生の頃に全集を購入して読み始めました。
先端の科学を楽しく紹介されていました。
非常にワクワクとして読みました。
ガモフも数々の宇宙論で業績があったのですが、
ノーベル賞を受賞していません。
研究者の中には無冠ですが、偉大な人も多々います。
まあ、彼らはノーベル賞のために
研究しているのではないでしょうが。

・火の玉宇宙・
ガモフ全集の中で、
「わが世界線」という巻があります。
これは、ガモフ自身の自伝となっています。
もともとソビエト連邦の物理学者でしたが、
アメリカに亡命してきたことも記されていました。
命がけの逃避行があったことも知りました。
そんな経歴にかかわらず、
ガモフは明るくジョーク好きでした。
例えば、自分では「火の玉宇宙」として提唱したのですが、
フレッド・ホイルに「ビックバン」と揶揄されたので
その言葉を自身も使いだしたことで、
現在のビックバンが定着しました。


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