地球と人と
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Essay■ 6_165 月の探査 6:マグマオーシャン
Letter■ 京・地球の過去
Words ■ 人の振り見て我が振り直せ


(2019.06.27)
 地球創成にはマグマオーシャンがあったことは、定説になってきました。それを前提にして、月の形成シナリオはあまり考慮されていませんでした。今回それを考慮したシミュレーションで、課題がひとつ解決されそうです。


Essay■ 6_165 月の探査 6:マグマオーシャン

 前回、細野さんたちのグループが報告した
Terrestrial magma ocean origin of the Moon
(月の地球のマグマオーシャン起源)
で、「同位体比問題」に対する答えが得られることを紹介しました。
 月は、巨大天体が衝突しできたことは定説なってきました。その仮説によれば、月には、衝突した天体の成分が多く含まれれることになるはずです。「同位体比問題」とは、月(アポロ計画が持ち帰った試料)の成分(同位体組成)は地球のものに近く、衝突した巨大天体の成分が少ないことが問題となっていました。衝突した天体の成分が多く含まれるという考えは、衝突によるシミュレーションでは、衝突天体の成分が多くなるという結果がでていました。
 細野さんたちは、衝突時の条件を変更してシミュレーションをしました。その条件とは、地球にはマグマオーシャンがあったという設定でした。マグマオーシャンとは、原始地球では隕石の衝突が激しく、表層が高温になり岩石が溶けてマグマの海ができていたという仮説です。このマグマオーシャンんの存在も定説となっています。
 マグマオーシャンは、岩石の地殻やマントルとは性質が異なるため、衝突によって飛び散る様子が違ってくると考えられます。しかし、これまでこのような条件でのシミュレーションはなされていませんでした。
 細野さんたちのシミュレーションによると、マグマオーシャンの状態の原始地球に衝突が起こると、マグマがジェットとして吹き出し、それが地球軌道上の円盤になり、やがて月になるというものです。
 もう少し詳しく見ると、衝突があると、衝突天体の物質もかなり地球周辺に飛び散ります。残った衝突天体の物質は、すぐに(40時間ほど)再度地球と衝突して合体します。最初の衝突で飛び散った成分は、両者の成分が混同しているのですが、衝突した天体の成分が地球に落ちてきます。一方、地球のマグマオーシャンの成分は、マグマのジェットのように吹き出し、軌道周辺に飛び出し存在しています。その後、軌道上に残っていた成分(地球のマグマオーシャンの多い成分)から月ができることになります。マグマオーシャンから飛び散った成分が多い素材(70%以上)からできたると、「同位体比問題」が解決できます。
 月は、もっとも身近な天体です。人類が降り立った唯一の天体で、現在も探査が続けられている天体です。その天体の形成過程が、巨大天体の衝突によるものであることが定説になっています。しかし、でき方が分かっていませんでした。そんな未知が、天体観測やシミュレーションでひとつ解かれようとしています。


Letter■ 京・地球の過去 

・京・
シミュレーションの説明では単純化していましたが
実際にはいろいろな条件で複雑な計算が繰り返されています。
その計算はスーパーコンピュータ「京」で行われました。
京は日本が誇るコンピュータで2012年に完成して
世界最速を誇っていました。
そして、数々の成果を上げていました。
2019年8月16日に運用は終了します。
その代り100倍の性能もった次世代のスーパーコンピュータ
「富岳(ふがく)」に置き換えられる予定だそうです。
「富岳」の名称は2019年5月23日に決定されました。

・地球の過去・
今まで月の地殻のデータが主でしたが、
中国の探査で、間接的でありますが、
マントルの情報を手に入れたことになります。
今回のシミュレーションの結果も取り入れると、
月の起源とその化学的性質をかなり束縛する条件となります。
このシミュレーションが正しいとすると
現在わかっている月の岩石から、
地球のマグマオーシャンを推定するこも可能でしょう。
月から地球の過去が探れるかもしれません。


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