地球と人と
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Essay■ 6_112 バイオミメティックス 2:先駆者
Letter■ マジックテープ・締め切り
Words ■ 今は、ただただ淡々と日々を過ごすだけ


(2013.07.02)
 バイオミメティックス「生物模倣」は、新しい考え方ですが、先駆者がいました。その成果は、今も身の回りに使われているマジックテープです。その後、いろいろな分野で研究が進められていますが、課題もあるようです。


Essay■ 6_112 バイオミメティックス 2:先駆者

 バイオミメティックスは「生物模倣」と訳されて、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していこうとするものです。新しい分野で、現在、盛んに研究されているものです。
 このような新しい研究分野ですが、50年以上前にバイオミメティックスを活用した先駆者がいました。
 先駆者は、機械工場で働いていたスイス人のジョルジュ・デ・メストラル(George de Mestral)でした。彼は、1941年にアルプスに狩猟旅行をしていました。山から降りてくると、自分のズボンや犬には、たくさんの野生のゴボウの種子(ひっつき虫とも呼ばれる)がついていました。種がくっつくことに興味をもったメストラルは、顕微鏡で詳しく調べていきました。種には、多数のフックがあることがわかりました。種のフックは、衣類のようなループをもったものや犬の毛には、非常にうまく付くことがわかりました。
 この仕組を利用した製品を、苦労の末に製造できるようにしました。特殊なナイロン製の糸を使って、一方にフックがついたもの、他方にループがついた布をつくりました。両者の布は、接着剤なしでくっつたいり、剥がしたりできる画期的なものでした。1951年に特許出願をし、1955年に認定されました。
 日本ではマジックテープという商品名として知られています。英語ではベルクロ(Velcro)と呼ばれていますが、これも商品名です。
 今ではマジックテープも、いろいろ進化しているようですが、孤立した技術でもあります。マジックテープが、残念ながら技術のイノベーションになることにはありませんでした。メストラルの仕事は、先駆的でしたが、このような発想をまねる研究は、残念ながらその後、続きませんでした。
 近年になって、やっとバイオミメティックスが注目されてきました。
 研究がなされるようになってきたのは、1970年代からで、まずは化学の分野でした。生物の仕組みを分子レベルと模倣しようとする、Biomimetic Chemistryと呼ばれるものでした。X線を用いる装置が発展して、生物の酵素や生体膜、分子の認識などの基礎研究が進みました。
 1990年代から2000年代にかけては、電子顕微鏡の進歩によって、μmからnm(ナノメートル)にかけての構造を観察できるようになりました。生物の構造は、実は階層的な仕組みがあり、それを解明し、ナノテクノロジーとして発展させようと考えられています。素材や材料の分野で、バイオミメティックスの研究が生まれて来ました。
 1970年代には、工学的な研究も並行して進んでいました。昆虫の飛行の仕組み、魚の泳ぎ、コウモリの位置探査のメカニズムなどの解明をしていくことで、流体力学、音響工学、センサー技術などに新しい知識を加えました。これらの成果は、多くの産業にすでに適用されてきました。
 現在、ナノテクノロジーのバイオミメティックスと、工学的バイオミメティックスが、どう融合させるかが課題となっています。バイオミメティックスは、まだまだ基礎研究ですので、着実に成果を積み重ねていくことが重要ではないでしょう。
 次回は、バイオミメティックスのいくつかの事例を紹介しましょう。


Letter■ マジックテープ・締め切り 

・マジックテープ・
マジックテープは商標名です。
製品名としては、
「面ファスナー」や「タッチファスナー」というそうです。
あちこちでみかける製品となっています。
マジックテープとしていろいろな改造や工夫はなされています。
しかし、マジックテープから、大きな技術の
発展や展開がなされることはありませんでした。
これをエッセイでは「孤立した技術」と呼びました。
本来、技術は、仕組みであれば、
いろいろ転用されていくはずです。
マジックテープは、くっつくことが目的となっています。
異質のものをくっつけるのには、接着剤があります。
それとマジックテープは方向性が違います。
バイオミメティックスでも
イノベーションとなるような発想が
みつかれば素晴らしいのですが。

・締め切り・
北海道の夏めいてきたので、
学生たちも夏休みを意識する頃でしょうか。
大学も前期の講義が終盤となりました。
やっと先が見えてきた感があります。
私は、ただただ多忙な日々を過ごしています。
今日はこれ、明日はあれを、
と日々の仕事をこなすことに
四苦八苦しています。
本来であれば、じっくり頭を使って
したいことがあるのですが、
なかなかその時間と余裕がありません。
でも、締め切りだけは着実に迫ってくるのですが。


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