地球と人と
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Essay■ 6_110 新鉱物 3:付加体
Letter■ 山師的心情・天候不順
Words ■ 春なのに、花はまだまだ・・・


(2013.05.02)
  レアアースを多く含む新鉱物の発見は、ただ発見だけにとどまらないかもしれません。そこには、一攫千金ではありませんが、大きな可能性を秘めています。一つの鉱物が、いったいどんな夢をみせてくれるのでしょうか。


Essay■ 6_110 新鉱物 3:付加体

 2013年4月に発見されたのは、レアアースの一種のランタン(La)を含む鉱物で、ランタンバナジウム褐簾石(Vanadoallanite-(La))と命名されました。
  褐簾石(かつれんせき)は、緑簾石(りょくれんせき、epidote)のグループに属します。緑簾石グループは、珪酸塩を中心とする鉱物で、結合する陽イオンに2種類の場所(AサイトとMサイトと呼ばれる)があり、そこに入る陽イオンが、Aには2個のイオンが、Mには3個のイオンが入ります。そのイオンは、A(Ca、Sr、Mn2+、Y、La、Ce、Nd、Pb)にも、M(Al、Fe2+、Fe3+、Mn2+、Mn3+、Mg、V3+)にも、いろいろなものが入り、複雑で多様な鉱物種ができます。特にAサイトには、レアアースが入りやすく、農集部があれば資源として有望なものとなります。
  褐簾石(Allanite)は、Aサイトにいろいろな陽イオンが入りますが、通常はセシウム(Ce)が入ります(Allanite-(Ce))。他にも、入っている元素によってランタン褐簾石(Allanite-(La))、ネオジム褐簾石(Allanite-(Nd))、イットリウム褐簾石(Allanite-(Y))などの鉱物に区分されています。
  今回の新鉱物は、褐簾石でランタン(Aサイト)とバナジウム(Mサイト)の位置が特定され、今まで記載のされていない種類であることが判明しました。さらに、セリウムやプラセオジム、ネオジムなどのレアアースも含んでいることもわかっています。
  一つの新鉱物の発見なのですが、実は以前紹介した南鳥島近海の海洋底に農集しているレアアースとの関連がでてきそうです。今回の鉱物は、三重県伊勢市矢持町の山の中で発見されたのですが、地質学的には秩父帯の中に位置しています。秩父帯は昔の付加体で形成されたものです。付加体は、深海の堆積物などが、海洋プレートの沈み込みによる剥ぎ取りで、陸側に付加したものです。そこにはレアアースを多く含んだ堆積物も混じっているはずです。そのレアアースを含んだ堆積物が、今回見つかったような鉱物になったのではないかと考えられています。
  そして、このようなレアアースを含む鉱物の農集部があれば、レアアース資源となりえるかもしれません。付加体は同時代の堆積物が東西に長く伸びています。もしひとつの地点で資源が見つかれば、連続的に広く採掘可能なレアアース鉱山が埋もれているかもしれません。日本列島の地質には、さまざまな時代の付加体が多数あるので、一つの時代の資源が発見されれば、他の地域、他の時代の付加体での発見の期待が膨らみます。
  深海底の資源開発も期待されますが、陸上の鉱山のほうが、手軽で安価です。地球の営みが、深海底も薄く広く分布していたものを、濃く狭く農集しているかもしれないのです。多様な付加体から構成されている日本の大地は、レアアースの資源大国になるかもしれないのです。
  まあ、今のところまだ架空の物語ですが、理屈の上では、ありえることです。たったひとかけらのレアアースを含む鉱物が見つかったことから、夢物語が広がります。


Letter■ 山師的心情・天候不順 

・山師的心情・
科学の新しい発見は、その意味を考えなければ
重要性もその分野だけの閉じたニュースになります。
もし空想たくましく、いろいろな可能性を考え、
その可能性にかけて調査をすれば、
お宝が発見できるかもしれません。
一つのお宝の発見が、
芋づる式に多数のお宝へとなるかもしれません。
まるで山師の夢のようです。
科学者の科学する気持ちも
夢や好奇心が一番のものでしょうから、
その奥底には「山師的」心情があるのかもしれませんね。

・天候不順・
北海道は天候不順で肌寒い天気が続いています。
桜などの春の植物も、今年はかなり出遅れているようです。
連休の行楽も室内施設が中心になっているようです。
私は、一応ゴールデンウィークは休みますが、
3日は学生の対応で大学でます。
まあ、静かな大学もいいものです。
ただ、天気が悪いと外歩きが嫌になるので
それだけが気がかりですが。


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